ルーヴル美術館展 国立新美術館

六本木の国立新美術館にて開催中の展覧会を見る。

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なんであれフェルメール作品が来日するときには、えらい騒ぎになる。ともかくもそれだけの価値はあるものと思うものの、今回のような企画については、中身が分かってしまうと、なかなかに商売上手だなぁという感が先に立つことは否めない。つまり、ルーヴル現地に赴いた際には、大傑作群の陰に埋もれてしまうに違いない小品をこれでもかとばかり集めて、その中に 3点の目玉、すなわち、クエンティン・マセウスの「両替商とその妻」、ティツィアーノの「鏡の前の女」、そしてフェルメールの「天文学者」を適当な間隔で散りばめるという作戦。加えて、小品群の中に、ワトーだのレンブラントだのルーベンスだの、はたまたドラクロワやミレーという超有名画家も入っているとなれば、飾られた絵画全体の質以上に、鑑賞者としても得した気分になろうというものだ。

そもそも今回の展覧会は、ルーヴルの誇る古今に亘る傑作群網羅しようというものではなく、「日常を描く --- 風俗画に見るヨーロッパ絵画の真髄」という副題が示す通り、古代から近代まで、人間の生活を描いた絵画を集めたものである。よって、いきおい、鳥肌立つように精緻な古代ギリシャの彫刻もなければ、匂い立つような艶っぽいイタリア・ルネサンスもほとんどないということになり、まさに商売という最も人間的な営みを描いたフランドル、ネーデルランド絵画が中心になってくるわけである。換言すれば、それが数百年遡る絵画であっても、遠く現代人の生活における世俗的風景を連想させる作品が大半を占めているということ。そして、現代の美術館は商売も上手でなければ。

と、あえて否定的に書いてきたところで白状しよう。私はこの展覧会足早に巡って、大変楽しかった。というのは、世界に冠たる大美術館に赴いた際に、これらの小品にまで意識を巡らせることはなかなかに難しいところ、この展覧会では、「あ、こんな絵があるのか」という意外感がそこここに見られたからである。実際、愛すべき小品というものには、独特の味があることを実感する。今回の出品作においては、例えばムリリョの「物乞いの少年」を例に採ろうか。

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涙目の聖母像で見る人の心を清めることに長けたこの画家の、貧しい少年に対するなんと深く優しい眼差し! 何度も通ったプラド美術館で、あるいは画家の生地のセヴィリアで、あれこれムリリョの宗教画を見て私が感じていたイメージと、これは微妙に食い違い、その食い違いが何やら心地よいのだ。

その他の例としては、ティエポロの「大道商人、または抜歯屋」に触れよう。典雅な空の蒼を持ち味とするこの画家に、このような卑俗で皮肉な作品があったとは、驚きだ。それでいて、この絵の空はやはり、天使が舞っていてもなんら違和感のない、彼の蒼なのだ。人間の営みを描くという表現は、なんとも気恥ずかしくなるように陳腐であるが、今回の展覧会を見て行くと、その陳腐さを超えて、人間の営みの滑稽さ、尊さ、やるせなさ、等々が自然と胸に入ってくるのである。なかなかに巧妙な企画ではないか。
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特別扱いのフェルメールの「天文学者」は、彼の作品の中でトップクラスというイメージはなかったのだが、実物はやはり恐るべきものだ。作中人物は、数年前に日本にやってきた「地理学者」と同一人物と見られるが、フェルメール作品の希少性に鑑みると、この両作品を日本で見ることができた充実感は格別のものだ。異常に正確な目を持ったこの画家は、架空の空間に圧倒的リアリティを付与し、どこの誰であってもいい、ただ、近代の理性と批判精神を具現した人間の姿を永遠にキャンバスに残したわけである。神々しいまでの架空のリアリティ。他の画家を冠絶する、フェルメールのみの世界である。

これが今回展示されている「天文学者」。
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そしてこれが、数年前に Bunkamura で展示された「地理学者」。
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会場の国立新美術館では、同時にマグリット展も開催中だ。時間の関係で今回そちらは見ることはできなかったが、このルーヴル展のポスターとマグリット展のポスターが並んでいること自体、文字通りなんともシュールだ。両方楽しむ余裕がないといけませんね。

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by yokohama7474 | 2015-06-03 23:10 | 美術・旅行 | Comments(2)
Commented by desire_san at 2015-06-05 06:34
こんにちは。
私も、東京の新国立美術館で、『ルーヴル美術館展』-風俗画にみるヨーロッパ絵画の真髄– を見てきましたので興味深く読ませていただきました。16世紀からの一般の人々の生々しい生活を生き生きと描いるのは素晴らしいと思いました。また、17世紀のオランダの不道徳な恋愛への警鐘など道徳的暗示を日常の生活の風俗画に込めて描いているのにも深く興味を覚えました。

私もルーヴル美術館展で鑑賞した風俗画などの絵画の特徴や魅力を整理し、自分なりの見解をまとめてみました。読んでいただけると嬉しいです。ご意見やご感想など何でも結構ですのでコメントいただけると感謝致します。

Commented by yokohama7474 at 2015-06-05 23:15
コメントありがとうございます。私にとっては、ブログを始めて初のコメントでしたので、大変有難かったです。また、そちらのブログも拝見しました。私の手抜き文章と異なり、大変丁寧に作品を追っておられ、素晴らしいと思いました。また、海外の風景や山の景色なども採り上げておられ、心が豊かになりますね。また拝見したいと思います。
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