鴨居 玲展 踊り候え 東京ステーションギャラリー

東京ステーションギャラリーは、東京駅丸の内北口に隣接したギャラリーで、重要文化財の駅舎の煉瓦を剥き出しのまま見ながら絵画を鑑賞できる、ユニークなスペースだ。駅舎の復元工事に伴い、以前の場所からは移転したものの、独特のハイカラな (この言葉自体、既に前時代的であるが、モダンとかスタイリッシュというよりも、この場合にはぴったり来る) 雰囲気はそのままである。駅の改札を出て見上げると、美しく復元されたドームを仰ぎ見ることができる。
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丸の内地区全体がそうであるが、東京駅周辺のこの二十年の変貌ぶりは大変なものだ。日本の首都の玄関口として恥ずかしくないこの佇まいを誇りたくなる、そんな街ができている。そして、ステーションギャラリーはその構成要素を成しているのだ。

現在開催されているのは、今年没後 30周年となる洋画家の鴨居 玲の回顧展だ。私自身、この画家の作品に以前接したことがあるかというと、うーんと唸ってしまう。あるようなないような・・・。子供の頃に読んだ怪談集に、こんな感じの挿し絵が入っていたっけなぁ・・・という思いに囚われる。恐らく、この展覧会を見る誰もが、何か懐かしいような思いを抱くのではないだろうか。
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彼の描く自画像、道化師、老人等々は、いずれも痛ましい。だがそこに、時にはユーモラスな、時には幻想的な要素があって、それらが深く心に残るため、必ずしも、鑑賞者が全員絶望感に首うなだれながら会場をあとにする、というタイプの絵ではない。もちろん、画家の辿った人生について記述された説明板を読んで行くうち、その深刻な創作の苦悩を実感することになるし、とりわけ、57歳である日ぷいと自死してしまったことを知ると、誰しもがその事実をどのように受け止めようか、しばし思案することになる。とはいえ、作者の死という事実を抱えて存在し続ける作品たちは、その存在感ゆえに、見る人の心をむしろ鼓舞するような力を持っている。画家の肉体を超えて、その精神が死後も輝き続けている、すばらしい例であろうと思う。
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会場を歩いてみて最も印象に残ったのは、1969年の安井賞を受賞した、「静止した刻」であった。安井賞は安井曾太郎に因んだ具象画家の登竜門で、私も昔は池袋のセゾン美術館で何度も安井賞展を見たものだ。この作品は、いかにもその賞に相応しい、寂しくて陰鬱で、でも人間の姿を生々しく写し取った、一度見たら忘れられない作品だ。まさにここに時は静止して、新たに巡り来る鑑賞者を待っている。そういう機会を持つことができた自分の幸運を実感しつつ、この絵を知る前と知った後の自分の違いが分かる人間になりたいと思う。
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by yokohama7474 | 2015-06-10 21:59 | 美術・旅行 | Comments(0)