アンドリス・ポーガ指揮 NHK 響 (Hrn : ラデク・バボラーク) 2015年 6月12日 NHK ホール

今月の N 響の定期 3プログラムは、既にご紹介したドゥネーヴが 1つ、そしてこのポーガが 1つ、残りは尾高忠明だ。尾高はまさに今円熟の境地。ただ、時代の趨勢か、日本人指揮者が N 響定期を振ることができる機会が減って来てしまっているように思う。翻って言えば今月は、有望な若手外国人指揮者が 2人、指揮台に立つということになる。

アンドリス・ポーガ。1980年生まれのラトヴィア人。今年 35歳ということになる。
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音楽好きなら既に周知の通り、ラトヴィアの首都リガは、ワーグナーを宮廷楽長に迎えたこともあり、現代においても、指揮のマリス・ヤンソンス及びアンドリス・ネルソンス、ヴァイオリンのギドン・クレーメル、チェロのミッシャ・マイスキーを輩出した土地柄。きっと何か、音楽を導く要因があるのであろう。このポーガは、数年前に N 響のオーチャードホール定期に登場したことは知っていて、実際に聴くことはできなかったが、そのときのチャイコフスキー 4番が聴衆の熱狂を呼び起こしたとのこと。今回の演奏会を聴いて、それが分かるような気がした。強いて既知の指揮者に例えると、アラン・ギルバート (ニューヨーク・フィル音楽監督) に似ていると言えようか。もちろん、大柄な外見が連想を煽るということもあるが、大柄な割には繊細な部分があるところまで、そっくりである。ただ、すべてを吹き飛ばすような音響に、今の彼の真骨頂があると言って間違いでないように思う。

ともあれ、今日のメインのラフマニノフ作曲交響的舞曲作品45 は、依然粗削りな面もありながら、作品の本質に肉薄する名演であったと思う。私にとっては、マゼールとベルリン・フィルのディスクが新譜として出て以来の長いつきあい (30年?) の曲であるが、実演で聴ける機会はさほど多くない。このオケとしても、当然デュトワとは演奏していると思うが、それほど手の内に入った曲ではないはず。にもかかわらず、日本のオケがこれだけ作品の本質をあらわにする演奏をなしえることに、指揮者もなにがしかの思いを抱いたものではないか。ここでラフマニノフ論を展開すると長くなるが、今回新たに気づいたことは、彼の 70年の人生で、実はこれが最後の作品であるということ。たったの作品45である。やはり彼の人生においてはピアノを弾く時間が長かったのだろうなと、改めて思う。実際、その作品のうち、何曲が本当の名作であるのか。オーケストラ作品では、交響曲第 2番は無類の傑作 (最近では、映画「バードマン」で、いい使われ方をしていました)。でも、ほかには? この交響的舞曲は、ディエス・イレエの引用や、やけに耳に残るサックスの使用など、謎めいた点がある作品だ。その意味で、ハリウッドはラフマニノフ調の音楽を利用したというイメージはあるものの、彼の作品で本当に「ハリウッド調」のものは少ないと思う。

今日の演奏会での主役は、実はホルンのラデク・バボラークだったと言ってしまった方がいいのかもしれない。
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言わずとしれた、もとベルリン・フィル首席の、現代最高のホルン奏者。演奏したのは、ロバート・レヴィン補完のモーツァルト作曲ホルン協奏曲第 1番ニ長調 K.412 に、R・シュトラウス作曲ホルン協奏曲第 1番変ホ長調作品11。まあとにかく唖然とするテクニックは健在で、こちらは客席でふんぞり返って聴いていても何の不安もない。まさに脱帽。このバボラーク、最近ではソロの CD なども出しているようであるが、考えてみれば、ホルン奏者でソロでやっていくということは、実際にはほぼ不可能に思われる。伝説のデニス・ブラウンから、ペーター・ダム、バリー・タックウェル、デイル・クレヴェンジャーなど、皆オケの楽員ですよね。バリバリの現役で、ソロでやって行こうなどと思えるのは、このバボーラクくらいではないでしょうか。是非、新時代を切り拓いてもらいたい。

ところで、バボーラクのアンコールは、自作のロッシーニを題材にした曲を取り上げたが、私は思うのである。今日の 1曲目、モーツァルトの交響曲第 1番変ホ長調 K.16 は、本当はロッシーニの序曲のどれかであるべきではなかったか。そうすれば、ポーガの音楽の生命力がより発揮されたであろうに。

by yokohama7474 | 2015-06-13 00:47 | 音楽 (Live) | Comments(0)