ボルドー展 - 美と陶酔の都へ - 国立西洋美術館

西洋の都市の中で、フィレンツェとかヴェネツィアとか、渋い例ではシエナなどという都市を特集した展覧会は、かつて日本で開かれているが、それらイタリアの諸都市以外に、どこが対象になりうるだろうか。もちろん、ウィーンとかパリとかロンドンなら、いろんな切り口で紹介できよう。でも、ボルドーを紹介するという今回の企画は、おっとそれがあったかと思わせるような意外性があって面白い。というのも、ワインに関する展示以外に何があるのか? と思ってしまうからだ。そういう人たちには、このポスターにおけるドラクロワの絵画をご覧頂こう。この荒れ狂うけものの強烈な印象に、興味を惹かれることであろう。よくワインに、「けものの匂い」という形容があるが、そう。ボルドーとけものの関係やいかに。
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さて、展覧会は、25,000年前の原始的な彫刻から始まる。これは、「角を持つヴィーナス」と名付けられている。
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ボルドーの属するアキテーヌ地方は、フランス南西部に位置し、スペインと隣接している。すぐ西側は大西洋に面しており、そこに注ぐジロンド川 (世界史で、フランス革命の主要な党派にジロンド派というのがあると習いましたね)、さらにはその上流ガロンヌ川が、ボルドーにワイン栽培に必要な水分と土壌を与えたわけであるが、どうやらその遥か以前に人類は、この地域の洞窟のあちこちに暮らし、生きた記録を残したようだ。スペインのアルタミラ洞窟と並んで壁画で有名なラスコー洞窟も、同じアキテーヌ地方に位置している。まあそれにしても、この造形の発想の豊かなこと。人間はなぜ、自分たちの似姿や狩りの様子を描いたのだろう。繰り返される日々の中で、動物にはない自覚を持って、何かを「記録」しようとした、その意志こそが、ただの無機物に「歴史」を刻んだわけである。何やら胸がドキドキする話ではないか。

さて、古代ローマによるガリア征服後、この地は地中海と大西洋を結ぶ中継地として発展したらしい。そして、早くからワイン生産がなされ、なんと、1世紀 (!!) からボルドーはワインの一大生産地として知られていたという。恐れ入りました。また、中世以降は、聖地サンチャゴ・デ・コンポステラへの巡礼の経由地としても栄えたらしい。

世界史上、経済でも文化でもよい。ボルドー出身の著名人には誰がいるか。恥ずかしながら、私自身はこの問いには答えられなかった。だが、3M といって、モンテーニュ、モンテスキュー、モーリヤックが 3大ボルドー出身者であるそうな。ほかにも、画家ではドラクロワ、ルドン、マルケがボルドー出身。また、ゴヤも、晩年にスペインから亡命してこの地に住んでいたらしい。ワインを産する土地には、やはり豊かな文化の水脈があるのだろう。

ポスターになっているドラクロワの「ライオン狩り」は、実は、よく構図の分からない絵だ。全体像はこんな感じ。
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真ん中の馬が切れているのがお分かりになるだろうか。実はこの絵、1855年に完成したものの、1870年に火災に遭ってしまい、上部を失ってしまった。だが、名作には当時から人々にインスピレーションを与える力があるものらしく (この点、追って記事をアップ予定の、ダ・ヴィンチの「アンギアーリの戦い」にも共通する)、幸いにも、模写が残っている。これを見ると、ライオン狩り全体の構図がよく分かり、円熟期のドラクロワらしい、動きと色彩に満ちた素晴らしい作品であったことが分かるのだ。
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そして、これを描いた画家の名前は、オディロン・ルドン。世紀末象徴主義を代表する、あのルドンだ。ルドンのイメージはロマン主義者のドラクロワとは随分と異なるが、この作品、完全に原作の動きの特徴がとらえられているにもかかわらず、独特の幻想的な色彩感は、まぎれもないルドンなのである。後世の人間は、様々な画家をつい○○派という整理をして単純に分類してしまいがちだが、画家それぞれの個性は、別に○○派に合わせて絵画に表れているのではない。それぞれの見た世界をそれぞれの方法で再構築しているわけで、このルドンによるドラクロワの模写は、全く個性の異なる 2人の天才が、期せずして違う方法で世界の見方を教えてくれるという稀有な例ではあるまいか。

展覧会ではその他、昔日のボルドーの繁栄の様子を伺うことのできる遺品があれこれ展示されていて、興味が尽きなかった。以前インドに旅行に行った際に食事で同席した初老の女性がボルドー出身と聞き、「じゃあ、子供の頃からワイン飲んで育ったんですね」と軽口 (私の悪い癖です・・・) を叩いたところ、真面目な顔で否定されたことを思い出すが、ボルドーでワイン生産が盛んであるのには、古来より脈々と流れる文化的な背景があればこそということを今回実感した。私自身は一度出張でボルドーに行ったことがあって、滞在が週末を越えたので、ワイン畑ごと世界遺産になっているサンテ・ミリオンなど訪ねて大変楽しかったが、実は、そのように構えなくても、平日のランチの際、とある世界的企業の系列の工場の社員食堂にて、蛇口のついた横倒し状態の樽からほぼ全員がワインをグラスに注いでいるのを見て、彼らの日常生活の豊かさを思い知ったものだ。もちろん彼らは、午後も普通に働くのだ。オイオイ大丈夫かと言ってはいけない。それがフランスなのだ。ましてや場所がボルドーだ。ワイン飲まないわけにいかんでしょう。私自身、ワインについて体系的に勉強したわけではなく、けものの匂いとボルドーの関係を明確には説明できないが (笑)、まあともかく、太古の昔から人間とともにあり、文化の発展にも寄与し、また、ただ単に酩酊によるよい気分と仕事の効率(?)を人々にもたらしてきたワインを、とにかく楽しもうではありませんか。というわけで、我が家の安物のワインセラーから引っ張り出した高級ボルドー、これから飲みますよ。
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by yokohama7474 | 2015-07-20 00:42 | 美術・旅行 | Comments(0)
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