ダブルインパクト 明治ニッポンの美 名古屋ボストン美術館 / 世界に挑んだ明治の美 宮川香山とアール・ヌーヴォー ヤマザキマザック美術館

今回は、名古屋で開かれている 2つの展覧会を同時にご紹介する。というのも、この 2つの展覧会、内容が重複しているからだ。

まずは、名古屋ボストン美術館の、「ダブルインパクト 明治ニッポンの美」から。
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これは、東京藝術大学と名古屋ボストン美術館の共同企画。明治の日本人が見た西洋美術と、明治に来日した西洋人が驚いた日本美術の展覧会だ。ここ数年、明治の日本の美術工芸についての素晴らしい展覧会が幾つか開かれてきた。今私の手元に図録がある限りでは、2004年 (えっ、もうそんな昔?) に東京国立博物館で開かれた「世紀の祭典 万国博覧会の美術」と、昨年三井記念美術館で開かれた「超絶技巧! 明治工芸の粋」が挙げられる。ともすれば西洋一辺倒になりがちな日本人の美意識であるが、近年になってようやく日本人が日本の美術の価値に気づき、誇りを持てるようになってきているということだろう。実際、この手の展覧会では、驚くような展示品と出会うことが多いのである。

名古屋ボストン美術館は、世界的な東洋美術コレクションを持つ米国ボストン美術館の分館で、年に何度も本館の所蔵品による展覧会を開催している。もちろん東洋美術だけではなく、西洋美術のコレクションも膨大なのだが、なんと言ってもこの美術館、近代日本の美術の父とも言うべき岡倉天心が中国・日本美術部長を務めていたという実績があり、それによってかけがえのないコレクションが出来上がったわけである。
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今回の展覧会で物珍しいものを挙げればきりがないが、まずはこちらから。河鍋暁斎の「蒙古賊船退治之図」。日本が開国寸前の 1863年 (文久 3年) の作品で、鎌倉時代の元寇になぞらえて、西洋からの黒船を一蹴する大和魂を描いているわけだ。うーん、それにしても、爆裂が敵船を吹っ飛ばして、まるでマンガの世界です。もしかして、旭日旗ってこれが起源ではないのかと思えるほどのインパクト。
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それから、これは高橋由一の「浴湯図」(1878年)。実はこれ、師匠にあたる英国人イラストレーターであるチャールズ・ワーグマンの作品の模写である由。日本の集団入浴を珍しがったワーグマンの描いた絵を、集団入浴に慣れた日本人である由一が模写するという入り組んだ関係はどうだろう。
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お次は江戸末期から大正時代にかけて活躍した浮世絵画家、揚州周延 (ようしゅう ちかのぶ) の「梅園唱歌図」(1887年)。この人、中国人かと思いきや、純然たる日本人である。先に取り上げた「江戸の悪」の展覧会でも多く作品が展示されていたし、また、高幡不動にも作品がいくつか展示されていた。明治期にはこのような西洋風の出で立ちをたくさん描いている。
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その他、明治期の洋画、日本画あれこれ展示されていて興味は尽きないが、大変面白いのは、ポスターにもなっているこの絵だ。小林永濯 (こばやし えいたく) の「菅原道真天拝山祈祷の図」。
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菅原道真が天の啓示を受けて、今まさに天神に生まれ変わろうかという場面。からだは背中から押されたようにつま先立ち。両腕は感電状態、杖は放され帽子は宙を舞う。さながら劇画のような表現であり、明治期の日本画壇においては極めて異色を放ったに違いない。

そして、これまたすごいのが、明治期の工芸である。いずれを取っても神品というにふさわしい。この鈴木長吉の「水晶置物」は、1877年に水晶だけがまず、第 2回内国勧業博覧会に出品され、ボストン美術館の依頼で、1902年に竜と波の置物が作られたとのこと。超絶的に美しい!!
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日本が開国による刺激を受け、海外で展示されることを目的として制作された品々には、実際、鬼気迫るものを感じる。その意味で、上記の展覧会に続けて、同じ名古屋のヤマザキマザック美術館で開かれている「世界に挑んだ明治の美 宮川香山とアール・ヌーヴォー」という展覧会を見ることができたのは大変に有意義であった。これは、世界的工作機械メーカーであるヤマザキマザックのコレクションを集めた美術館であり、同社本社ビルの中にあるが、なんというか、本当にヨーロッパの美術館そのままの雰囲気なのだ。それもそのはず、壁紙ひとつ取っても、確かハンガリーだかどこかの欧州の国からの取り寄せの特注品だ。通常展示はこんな雰囲気。名古屋地区の方には、是非一度この美術館を訪問されることをお奨めする。
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初代宮川 香山 (1842 - 1916) は、神業と賞賛された高浮彫で知られる工芸家。ま、無駄なことをグダグタ書くより、その作品をご覧頂きたい。最初のカニのついた鉢は、重要文化財だ。
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なんと素晴らしい。息を呑むとはまさにこのこと。いかにテクノロジーが進歩しても、このような究極の職人技には適わないだろう。願わくばこのような水準のモノ作りの技術を日本人が受け継いでいけますように。この展覧会では、宮川の作品のほかに、ラリックやガレの作品も展示されていて、それはそれで当然美しいのだが、既に世の中でよく知られている。真の驚きは、宮川の作品だ。実は今回、ラリックやガレはヤマザキマザック美術館の収蔵品であったが、宮川の作品の多くは、宮川香山真葛ミュージアムというところの所蔵である。この聞きなれない美術館、京都かどこかかと思って調べたら、なんとなんと、横浜駅近くではないか。それは知らなかった。今度行ってみることにしよう。

さてさて、最後にもう一度、ダブルインパクト展の展示物に戻ろう。今回私の目を引いたナンバーワンは、これだ!!
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この種の置物を自在置物という。江戸時代後期に高石重義という人が作ったもので、ボストン美術館の所蔵。体長 2mで、驚くなかれ、口や手足の関節が動くのみならず、胴体は円筒状のパーツをつなぎ合わせてできており、とぐろを巻くような複雑なポーズも自由自在。これ、すごすぎる。ゾクゾクする。というわけで、調べてみたところ、マリア書房という出版社から自在置物の写真集も出ているし、さらに!! 嬉しいことに海洋堂がこの竜のフィギュアを作っているのですぞ。というわけで、拙宅の混沌の塊のようなフィギュアコーナーに加わってもらうこととしました。2枚目、竜が嬉しそうにのけぞっているのがお分かりでしょうか。
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Commented by 杜のバッカス at 2015-08-01 00:59 x
小林永濯,えい「たく」ですね。
大英博物館に『九相図』がありました。養老さんの影響で,九相図の見比べ,好きなんですよね。
この人,青木繁なんかより面白味がありますよね。

龍の写真,カオスの中にコスモスがあるような。
猿沢の池から昇った龍のバックに興福寺があるという趣きでしょうか。
Commented by yokohama7474 at 2015-08-02 22:15
失礼しました。「えいとく」だったら「永徳」になってしまいますな (笑)。九相図ねぇ。先日水戸で開かれた山口晃展で、現代的九相図が展示されていて、隣のカップルが無邪気に、「これ、なんて読むんですか」なんて質問していたっけな。谷崎の「少将滋幹の母」でもよーく読んでみましょう。
by yokohama7474 | 2015-07-25 01:18 | 美術・旅行 | Comments(2)