文楽「生写朝顔話 (しょううつしあさがおばなし)」2015年 7月22日 国立文楽劇場 (大阪)

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元来、演劇に分類される伝統芸能 (能、文楽、歌舞伎) には興味のある方である。しかしながら、最近は特に日本のオーケストラを聴きに行く機会が増えたこともあり、残念ながらこちら方面にはなかなか足が向かない。今回、大阪訪問の機会に是非文楽を見たいと思いたち、久方ぶりに渇望を癒すことになった。調べてみると、前回の文楽鑑賞は、東京の国立劇場で平成 24年だから、実に 3年ぶりの文楽ということになる。

周知の通り、文楽 (人形浄瑠璃) は近年、橋下大阪市長の方針により、厳しい環境に置かれている。種々議論はあるだろうが、効率的な興業マネジメントの観点は、いかにユネスコ文化遺産であろうと必要であり、昨今の経緯によってさまざまな自助努力がなされたのなら、それは意義のあることだ。ただ一方で、1つの人形に 2人も 3人も人形遣いが必要で、かつ習熟にこれだけ時間のかかる人形劇というものも世界に例がないと思われ、要するに商業ベースに乗ることなど所詮は無理ではないか。オペラも大変な金食い虫なので、本場イタリアの歌劇場でも予算削減が深刻な問題になっている。経済のないところに文化はなく、もちろん人間の生活が最優先とはいえ、人間たるもの、文化なくしては生きて行けないのもまた真実。金額的なインパクトを冷静に考えながら、かけがえのない文化遺産を守って行きたいものだ。

さて、伝統文化の継承には、その時代時代の観客にアピールすることがいちばん。大阪で文楽を見るのはかなり久しぶりではあったが、劇場も雰囲気が明るくなり、字幕導入をはじめとする様々な工夫により、客席はほぼ満員の大盛況だ。劇場には小さいながら資料館も併設されていて、なかなかためになる。
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また、客席に向かうエスカレーターを昇る際に、今回の演目「生写朝顔話 (しょううつしあさがおばなし)」の主要登場人物の写真が、垂れ幕として大きく展示されている。
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今回は、夏休み期間中に 3つの演目が上演されているうち、第 2部だけを見たのだが、上演時間は、2回の休憩を挟んで 3時間半近い。それでもこの「生写朝顔話」の、恐らくは半分程度の上演であろう。第 3部で続きが上演されるものの、最後の段がいくつか省略されるし、今回の第 2部も、その前の部分を省略しての上演だ。これはワーグナーも真っ青、全編上演は、文字通りまる一日仕事ということだ。もちろんそれだけ長い話なので、あれこれ複雑ではあるのだが、かいつまんでストーリーを説明すると以下の通り。儒学者 宮城 阿曽次郎 (みやぎ あそじろう) は、武士の娘 深雪 (みゆき) と出会い、扇に朝顔の歌をしたためて愛の証とする。ところがこの 2人、運命の波に弄ばれ、なかなか再開することができない。深雪に横恋慕する医者 萩の祐仙や、人買い 輪抜 吉兵衛などの脇役が聴衆の笑いや怒りを買うが、朝顔の歌が二人を結びつけるよすがとなり、曲折を経て最後は結ばれるというもの。飄々とした笑いの場もあり、まさに断腸の思いで登場人物たちが呻吟する情念の場もあり、まさに人生の様々な感情が凝縮された芝居である。どうやら中国の物語に想を得ているということらしいが、同じ題材による読本、歌舞伎の成立のあと、1832年 (天保 3年) に文楽として初演されたとのこと。

この日の上演のクライマックスは、浜松小屋の段である。矜持ある武士の娘たる深雪が人買いにさらわれ、郭に出ることを拒んで脱出するが、つらい運命に悲嘆の涙を流しすぎたあまり (!!) 失明し、子供たちからもいじめられる落ちぶれた境遇。そんな彼女をようやく探し出した乳母の浅香が、折から深雪を追ってきた人買いの輪抜 吉兵衛と刺し違えて絶命するのだが、その表現がすごい。吉田 蓑助の操る深雪の細微な動きから流れ出る情念たるや、尋常ではない。人間の演じる哀しみの表現とは異なり、ここにはより純化した感情が立ち現われていると思う。リアリティを越えた何かがあって、人の心の奥深くにそのまま食い込んでくる。私の周りでは何人もの人が、この場面でハンカチを目に当てていた。このような並外れた Emotion を表現できる演劇形態が、世界にどのくらいあるであろうか。まさに文楽、恐るべしである。

このブログをご覧の方で、もしまだ文楽経験のない方がおられたら、是非一度ご覧頂くことをお奨めする。人生変わるかもしれません。

最後に、文楽人気向上にかけた関係者の努力の例を 2つ。ひとつはこれ。大阪名物、くいだおれ人形である。なぜこんなところに、と思ってあとで調べてみると、なんとこの人形、文楽人形製作者の二代目由良亀 (淡路島出身で、谷崎の「蓼食う虫」の中にも登場するらしい) の手になるものらしい。なんとまあ、こんなところにも大阪の文楽の伝統が生きていたのだ。
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そして、次がこれ。ちょうど今公開されている、「ターミネーター 新起動」のパロイディだ。画面の反射で見にくくなってしまっているが、ターミネーターのポスターに書いてある文句を逐一パロディとしていて、なかなかに凝っている。
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このような前向きな発想によって、日本の誇るすばらしい伝統芸能が、より一層発展しますように!!

by yokohama7474 | 2015-07-26 22:45 | 演劇 | Comments(0)