佐々木 丸美著 雪の断章

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最近、街の本屋さんの数が減ってしまって、ぶらっと立ち読みする楽しみが減ってしまったが、それでも大規模書店に行けばその楽しみは未だに存在している。こう暑くなってくると、子供の頃、長い夏休みにすることがなくて、本屋に涼みがてらでかけ、あれこれつまみ読みした思い出が甦ってくる。もっともその頃は、今ほど暑くはなかったような気がするが・・・。

話が脱線してしまったが、ある時本屋に積んであった本の帯に、「夢中で読めた。紛うことなき徹夜本だ。」というコピーが見えた。手に取ってみると、男か女か分からない、見慣れない作者名。なじみのない題名。時々私がそうするように、この時もそのままこの本を持って、レジに向かったものだ。帰宅してふと気づいたことには、これ、昔斉藤由貴が主演していた、相米 慎二監督の映画の原作ではないか!! ということは、最近の本ではない。本を開いてみると、1975年の作とのこと。それは古い。作者は北海道在住の女性作家であるが、2005年に 56歳で急逝しているとのこと。この作品は、ロシアの童話、マルシャークの「森は生きている」に着想を得て書かれたもので、孤児である女の子が青年に育てられる過程が描かれているが、途中で起こる毒殺が物語の大きな転換点となるというもの。

創元推理文庫だし、当然ミステリーと思って手に取った私は、徹夜本という触れ込みにもかかわらず、想定外の大変な忍耐を強いられつつ読み進んだが、なかなか殺人事件は起こらないし、起こったあとも物語は牛歩のごとき進展のなさだ。結局、何週間も放置するような事態に陥り、徹夜どころか、読み終わるのに 2ヶ月ほど要してしまった。結局これは、ミステリーではないし、殺人事件に驚くべきトリックがあるわけでもない。描かれた少女の心理を追うべき書物なのであろう。・・・ということは、大変申し訳ないが、私にとっては本来 No Thank You の分野の本である。何より、登場人物の発想、発言、行動にリアリティがない。こういう人が本当にいるなら、ちょっと会ってみたい。もちろん、文学はリアリティなくとも成立しはするが、この書物の手法では、どうであろうか。リアリティのないことは美点になるとは思えない。登場人物たちの会話が、どこまで行ってもきれいごとに見えてしまうのだ。

比較すること自体酷かもしれないが、同じ孤児を主人公とした名作に、シャーロット・ブロンテの「ジェーン・エア」がある。あれはまさに強烈な作品で、読んでいて何か血がかぁっと熱くなる経験をしたものだが、大変残念ながら、もし日本に同等の天才がいたとしても、同じレヴェルの作品を書くことはできないと思う。それは、自己と他者という対立関係において、言語というかたちで形成されるコミュニケーションの方法が、日本人と欧米人 (日本語とラテン語系言語) では決定的に異なるからだろう。やはり日本語の文学は、日本人が宿命的に追っている曖昧な自己表現を前提として書かれるべきではないか。

この作者は現在再評価が進んでいるとのことらしく、否定的なことを書くのは気が引けるが、この本をミステリーと思って手に取ることさえなければ、また違った読み方もあったのかもしれないなと思う。因みに、斉藤由貴主演の映画も、見ておりません。あしからず。


by yokohama7474 | 2015-07-30 01:06 | 書物 | Comments(2)
Commented by kuraji.koichiro at 2015-07-30 23:25 x
相米慎二の雪の断章は、すべてのシーンが超長回しの1カットのみで構成されているチャレンジングなものでした。懐かしいです。
Commented by yokohama7474 at 2015-07-31 22:53
> kuraji.koichiroさん
コメントありがとうございます。懐かしいですなぁ。
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