チャイルド44 森に消えた子供たち (ダニエル・エスピノーサ監督 / 原題 : CHILD44)

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あれは 2009年、ということはもう 6年も前のことになるが、「このミステリーがすごい ! 海外版第 1位」という本の帯が目に入った。「このミステリーがすごい!」についてご存じない方は以下をご覧頂くとして、ミステリーを読もうと思うときには結構な信頼度をおけると思われるランキングで、私のような無節操な乱読家にはありがたい。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%93%E3%81%AE%E3%83%9F%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%81%8C%E3%81%99%E3%81%94%E3%81%84!

本との出会いには、題名とか装丁とか、そのときの自分の興味とか、いくつかの要素が関係するが、このときには、さらに以下の文言が決め手となった。「リドリー・スコット監督で映画化決定」--- その本が、上下 2冊に分かれた、トム・ロブ・スミスの「チャイルド44」であった。旧ソ連のスターリン時代を舞台とした、なんとも後味の悪い作品だが、ここで描かれた人間心理は、犯罪者の側のそれよりも、犯罪を解明する側のそれに重点が置かれており、心胆寒からしめるものがあった。衝撃的な内容であったので、読み終えたあと、回りの人たちにも一読を薦めた覚えがある。

ところが、その後待てど暮らせどリドリー・スコットが映画化したという話は聞かなかった。時々、「あれはどうなっているのかなぁ」とは思っていたが、そろそろその思いも薄れつつある頃、この映画の宣伝を目にした。結局、リドリー・スコットは監督は務めず、製作者のひとりだ。ただ、この映画のプログラムによると、リドリー・スコットがいち早く原作に目をつけたのは本当のことらしい。作者はこれが処女作、しかも、スコットのアプローチは原作の出版前のことというから恐れ入る。そして監督として起用されたダニエル・エスピノーサはスウェーデン人で、「イメージマネー」なる日本未公開なるも同国映画史上最も興業成績を挙げた作品でデビュー、その後、デンゼル・ワシントン主演の「デンジャラス・ラン」がヒットしたという。

一言で言うとこの映画のテーマは、圧政の中で反体制者を始末する義務を負った警察が、都合の悪い事実に目を覆いながら、連続殺人 (44人の子供) の犯人を真剣に追うことをせず、適当に犯人をでっちあげて次々に逮捕していたという事態の異常性と恐ろしさである。そこには、スターリン時代に社会を覆っていた恐怖が色濃く表れている。人々は社会への忠誠を試され、反体制派は、発見されれば裁判も受けずに射殺される。人としての感情を押し殺して職務遂行を是とする者や、自分勝手な欲望を取り繕って他人を出し抜く者が跋扈する。そのような中では、連続殺人事件の犯人を放置することは国家への反逆とみなされるため、警察は、とにかく真犯人など誰でもよいから捕まえて自白させ、処刑するのだ。実話をもとにしているため、原作はロシアでは発禁らしい。

さて、映画そのものについて語りたいのだが、さて何を語ろうか。このブログでご紹介する映画では既に 3本目の主演作となるトム・ハーディは素晴らしい。ここでの彼の役回りは、エリート警察官で、組織への忠誠心は充分にあるのだが、不正を看過することのできない誠実な性格で、妻や友人への思いやりの心があるがゆえに、自らを危険かつ不利な環境に追い込んでしまう、そんな人間だ。爽やかさはほとんどなく、善玉か悪玉かすら、すぐには分からないような役柄だ。それから、旧ソ連を舞台にした映画ということで、まるでロシア語のような不明瞭な英語を喋る点も、演技の一環なのであろう。
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ところでこの俳優、バットマンシリーズの「ダークナイトライジング」に出演していたらしい。うーん、覚えがないなぁと思って調べてみると、ベインという悪役だった。
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こりゃ分からんって (笑)。ただ、今回も協演しているゲイリー・オールドマンとは、そこでも同じ映画に出ていたのですな。協演シーンがあったか否かは覚えていないが・・・。この人、もともと様々な役柄をこなす怪優であるが、最近は演じるキャラクターの傾向が決まってきたような気もしますね。今回はトム・ハーディが左遷される地方の警察の上司で、人当りは決してよくないものの、信念を持つ男の姿を渋く演じている。でも、この人が出ると、まともな役でもなんだか怪しく見えるんだよねぇ(笑)。
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原作の詳細は覚えていないものの、映画はおおむね原作に忠実なようだ。但し、犯人像の設定でひとつ大きな違いがあり、こればかりは私も、映画を見ながらすぐに気づいた。原作の方が呵責ないとも言えるが、実は映画の方が、一般的な人々の内に潜む狂気を浮彫にして残酷であるとも考えられる。ソ連時代、地方で飢餓が発生すると、極度の食料不足から、人の肉を食うという事態まで発生したと聞く。なんとも痛ましい限りだが、この映画の背景がそういう時代であったという認識があるとないでは、映画の持つ重みが格段に異なる。その一方で、この映画があらわにする人間の狂気とは、実は我々の何気ない日常の裏にも潜んでいるものであると思う。

思考停止、真実に目をそむけた上司への盲従、メンツの偏重、都合の悪い話の隠蔽等々、間違った自分に気づいたら、深呼吸してこの映画を思い出そう。

by yokohama7474 | 2015-07-30 22:44 | 映画 | Comments(2)
Commented by dd907 at 2017-04-08 12:47
映画や本の話をしだすと、ゆうに1冊の本が出来てしまいそうになりますよね。最近は洋画ではリドリースコットの映像が好きです。オールドマンは「ベートーヴェン」が良かったです。レイフ・ファィンズの「イングリッシュペイシェント」「嵐が丘」「オネーギンの恋人」がお気に入りですが、やはり心の大半を占めているのはいわゆる王道の、ゴッド・ファーザーやヒッチコック、ヴィスコンティなのです。たまに見るとホッとします。
Commented by yokohama7474 at 2017-04-09 11:30
> dd907さん
このブログでは、過去の名作映画を対象とした記事を書くことは多分ほとんどないのですが、新作からの連想でそれらに触れることがあるので、気長にお待ち下さい (笑)。ヴィスコンティなどはリヴァイバルもあって、それらを見ることができればまた記事にします。
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