画鬼 暁斎 三菱一号館美術館

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幕末から明治にかけて活躍した絵師、河鍋 暁斎 (かわなべ きょうさい 1831 - 1889) の展覧会であるが、ひとつひねりがあって、近代日本で様々な洋風建築を設計した英国人建築家、ジョサイア・コンドル (1852 - 1920) との関係に焦点を当てている。それは、近代都市東京を彩った初期の建築である、オリジナルの三菱一号館の設計者がコンドルであって、この三菱一号館美術館は、それの忠実な復元であるという由緒によるものだ。なかなかに気が利いている。

暁斎は、随分以前から私の興味を惹いてやまない画家なのであるが、その理由は、まさにその狂気をはらんだかのような迫真の筆に圧倒されるからである。この展覧会でも使われている「画鬼」という称号 (?) は自らによるものであるらしく、まさに鬼気迫る創作態度は、画を描く鬼と呼ぶにふさわしい。本人の面構えも、以下のごとく、期待を裏切らないものだ。バクモンの太田がしなびたような顔 (?) だ。
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ともあれ、その筆致の凄まじいこと。今回の出品作の中では、例えばこの「文昌星之図」はどうだろう。自由闊達な筆遣いが大変な勢いを感じさせる。
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但し、この暁斎という画家、あまりに多くのジャンルで多くの作品を手掛けた、ある意味では濫造したがゆえに、いまひとつ全体像が見えにくいという評価になっていて、実際その通りであると思う。本人は狩野派としての自覚があったとのことだが、浮世絵や、今回ひっそりと (?) 展示されている春画を含めて、世間の要望があれこれあって、それに貪欲に応えて行った面もあるのかもしれない。考えてみれば、同時代の画家として、狩野芳崖 (1828年生まれ) や橋本雅邦 (1835年生まれ) がいるが、これらの画家たちには重要文化財指定の作品がある (代表作は、狩野芳崖の有名な「悲母観音」だ)。一方、暁斎よりも後の世代、日本美術院創設後の画家たち、横山大観 (1868年生まれ) や菱田春草 (1874年生まれ) にも重要文化財があれこれある。それに引き替え、暁斎はどうだろう。重要文化財指定など、あるのだろうか。調べてみたところ、実は暁斎にも重要文化財指定の作品がどうやら一点あるらしい。それは、「北海道人樹下午睡図」というもの。但しこれは、モデルが探検家、松浦武四郎ということで、北海道開拓史との関係での価値が評価されての指定であろうと思う。このような絵である (今回の展覧会には出展されません)。
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私の場合、1989年に太田記念美術館での暁斎展を見て大いに魅せられ、1994年には大英博物館でも、"Demon of Painting / The Art of Kawanabe Kyosai" という展覧会を見て、暁斎の大ファンになったのである。手元で大事にしている大英博物館での展覧会の図録は以下の通り。表紙になっているのは、劇場の緞帳として百鬼夜行を即興的に描いたものの一部。どうです、なんとも暁斎らしい勢いがあるではありませんか (今回の展覧会には出展されません)。
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あえて今回の出展作でないものの写真を掲載するには意味があって、上述の通り、今回の展覧会は、建築家コンドルとの関係がひとつの目玉になっているゆえ、本来の暁斎の天衣無縫な作風の作品は、それほど多くないからだ。もちろん、コンドルとの関係も興味津々。コンドルの代表作として今日に残るのは、神田のニコライ堂や旧岩崎邸だろうか。だが、本当の彼の代表作は、鹿鳴館であり、上野の帝国博物館であったはずだ。帝国博物館、今の東京国立博物館は、既に重要文化財だが、もともとは関東大震災の前にコンドルの壮大な建物が存在していた。
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また今回、東大が保存する鹿鳴館の階段を初めて見ることができた。おー、なんという浪漫。
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そして、なんとも気持ちが高まるのは、この英国人コンドルが、暁斎に弟子入りしたことだ。当時のあらゆる人が、先進国からの使者として崇めたであろうコンドル。そのコンドルが暁斎に弟子入りして絵が学んだことの意義を、今一度考えてみたい。西洋のものが万能であるわけではない。各地域、各場所に素晴らしい文化があり、それは、それぞれの土地の人たちが意識しないと分からないものなのかもしれない。暁斎に弟子入りしたコンドルの作品を見てみよう。これが西洋人の手になるものだと分かるだろうか。
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こうして見てくると、暁斎の狂気をはらんだ芸術は、実は世界的に価値のあるものであったことが分かる。権威主義とは無縁の生涯を送った暁斎。その生き様を、もう一度しっかり見直し、自分だけの暁斎を心の中で育みたい。

by yokohama7474 | 2015-08-02 21:11 | 美術・旅行 | Comments(0)