2015年 09月 06日
山田 和樹指揮 日本フィル (サクソフォン : 上野 耕平) 2015年 9月 5日 サントリーホール
日本フィルの正指揮者として彼が今回取り組んだのは、別宮 貞雄 (1922 - 2012) の交響曲第 1番。このオーケストラの意義ある活動のひとつとしてよく知られているのが、初代音楽監督であった渡邉 暁雄の提唱によって始まった日本フィル・シリーズである。これは現代音楽作曲家にオーケストラ曲を委嘱するというもので、1958年以降既に 39作に及ぶ新作を委嘱、初演してきた。そして今このオケが取り組んでいるのは、過去の初演作の再演である。現代音楽、特にオーケストラ曲は、初演に漕ぎ着けるだけでも大変であるのに、再演されるという機会はほとんどないのが実情である。集客の点でリスクを抱えながらも、そのような意義深い活動を地道に行っているこのオケの姿勢は、高く評価されるべきであると思う。委嘱作の再演はこれが 9作目である由。
今回のプログラムは実に凝っている。メインの別宮 貞雄の作品に至るまで、まず、作曲者が学んだフランスのダリウス・ミヨーの代表作のひとつ、バレエ音楽「世界の創造」作品 81 を置き、そこで登場する 23歳の若きサックス奏者、上野 耕平にソロを受け持ってもらうべく、イベールのアルト・サクソフォンと 11の楽器のための室内小協奏曲を加え、そして、別宮が終生尊敬したベートーヴェンの交響曲第 1番ハ長調作品21を持ってきたというもの。
私は特に熱心な別宮のファンではないが、その交響曲の CD は Fontec レーベルのものを何枚か持っていて、今回も、交響曲第 1番は手元にあるだろうと思って調べたところ、3番、4番、5番の 3曲だ。おっとー、1番はないか。と思ってあとでよくよく考えたら、NAXOS の日本の作曲家シリーズで持っていましたよ。交響曲 1番と 2番。これで、この作曲家の交響曲はすべて手元で聴けるということになる。
メインの別宮の交響曲は、非常な熱演であった。作風は、最初の楽章はショーソンの交響曲風かと思ったが、抒情的に歌うところもあった。「なげき」と題された第 3楽章は、なかなかあなどれない深さと厳しさを持つ曲であったし、終楽章は、(山田がプレトークで語った通り) ショスタコーヴィチ風だ。山田は、常にめりはりをはっきりさせた明確な音楽を紡いで行く。過去の作品を継承する責任感と同時に、音楽を奏でる歓びにあふれる演奏であった。
この人、現在 3年がかりで進行中のマーラー・シリーズでもそうなのであるが、演奏前にプレ・トークをすることが多い。今回は珍しい作品が多いこともあり、ひとりで舞台に出てきて、20分くらい楽しそうに喋ってくれた (ステージマネージャーが舞台まで巻きを入れに来たくらい 笑)。このベートーヴェンについては、嬉しそうに、「大きい編成でやります」と言っていた。なんでも、4番のシンフォニーのベートーヴェンによる演奏のパート譜が残っていて、場面によって大編成で演奏したことがそれによって分かるという。確かに、同時代の楽器の性能の限界をもどかしく思っていたであろうベートーヴェンが、現代の進化したオケの大音響を聴くと、手を打って喜ぶかもしれない。原典ばやりの昨今、自分がよいと信じる方法で音楽を奏でることができるこの指揮者、本当に素晴らしいと思う。
プレ・トーク終了時に慌ててカメラを向けたが、去り際のこんな写真しか撮れなかった。まあでも、このプログラムを生で聴くことができた記念として、ご覧の皆様ともシェアさせて頂きます。山田 和樹、是非名前を覚えて頂きたい。