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山田 和樹指揮 日本フィル (サクソフォン : 上野 耕平) 2015年 9月 5日 サントリーホール

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もしクラシックにあまり興味がない人でも、名前を覚えておいて欲しい指揮者がいる。山田 和樹。1979年生まれなので、今年 36歳ということになる。その活躍ぶりにはまさに目を見張るものがあり、今後ますます活動の幅を広げて行くことが期待されるし、何より、小難しいことを言わず、でも同時に通も唸らせるようなマニアックなことも、その童顔で文字通り涼しい顔でやってのける、そんな逸材だ。覚えておいてきっと損はないと思う。

日本フィルの正指揮者として彼が今回取り組んだのは、別宮 貞雄 (1922 - 2012) の交響曲第 1番。このオーケストラの意義ある活動のひとつとしてよく知られているのが、初代音楽監督であった渡邉 暁雄の提唱によって始まった日本フィル・シリーズである。これは現代音楽作曲家にオーケストラ曲を委嘱するというもので、1958年以降既に 39作に及ぶ新作を委嘱、初演してきた。そして今このオケが取り組んでいるのは、過去の初演作の再演である。現代音楽、特にオーケストラ曲は、初演に漕ぎ着けるだけでも大変であるのに、再演されるという機会はほとんどないのが実情である。集客の点でリスクを抱えながらも、そのような意義深い活動を地道に行っているこのオケの姿勢は、高く評価されるべきであると思う。委嘱作の再演はこれが 9作目である由。

今回のプログラムは実に凝っている。メインの別宮 貞雄の作品に至るまで、まず、作曲者が学んだフランスのダリウス・ミヨーの代表作のひとつ、バレエ音楽「世界の創造」作品 81 を置き、そこで登場する 23歳の若きサックス奏者、上野 耕平にソロを受け持ってもらうべく、イベールのアルト・サクソフォンと 11の楽器のための室内小協奏曲を加え、そして、別宮が終生尊敬したベートーヴェンの交響曲第 1番ハ長調作品21を持ってきたというもの。

私は特に熱心な別宮のファンではないが、その交響曲の CD は Fontec レーベルのものを何枚か持っていて、今回も、交響曲第 1番は手元にあるだろうと思って調べたところ、3番、4番、5番の 3曲だ。おっとー、1番はないか。と思ってあとでよくよく考えたら、NAXOS の日本の作曲家シリーズで持っていましたよ。交響曲 1番と 2番。これで、この作曲家の交響曲はすべて手元で聴けるということになる。
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別宮は、東大の理学部物理学科を卒業後、同じ大学の文学部美学科を再度卒業したという異色の学歴を持つ。パリ音楽院でダリウス・ミヨーやオリヴィエ・メシアンに学ぶ。これは貴重な、師ミヨーとのツー・ショット。
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詳細は省略するが、私はミヨーの音楽が大好きで、特に今日演奏される「世界の創造」は、学生時代に毎日のように聴いていた頃がある、思い出の曲だ。こういう機会に実演で聴くことができて、本当に嬉しい。また、イベールの洒脱味も独特のもので、若い上野のソロで活きのいい演奏を聴くと、なんともワクワクして来るのである。

メインの別宮の交響曲は、非常な熱演であった。作風は、最初の楽章はショーソンの交響曲風かと思ったが、抒情的に歌うところもあった。「なげき」と題された第 3楽章は、なかなかあなどれない深さと厳しさを持つ曲であったし、終楽章は、(山田がプレトークで語った通り) ショスタコーヴィチ風だ。山田は、常にめりはりをはっきりさせた明確な音楽を紡いで行く。過去の作品を継承する責任感と同時に、音楽を奏でる歓びにあふれる演奏であった。
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さて、この日の真の驚きは、ベートーヴェンである。21世紀のベートーヴェンは、小編成でキビキビと演奏されるのが通例。もし大規模オケで思い入れたっぷりにテンポを揺らそうものなら、指揮者の知性が疑われるような時代である。それを山田は、コントラバス 8本、管楽器は通常の倍の大編成でやってのけたのだ。実際、今までの人生で私自身、この曲をこれまでに何百回聴いてきたか分からないが、こんなに個性的な演奏にはついぞお目にかかったことはない。第 1楽章では、提示部を反復しつつも、ベートーヴェン特有の畳み掛ける音型を強調し、管の絡み合いと弦の推進力が絶妙。第 2楽章では、なんとなんと、冒頭の第 2ヴァイオリンがソロで始まって、その後ヴィオラ、チェロもソロとなり、木管との掛け合いの後、第 1ヴァイオリンが入るところで初めて合奏になっていた。そのような版の楽譜があるのであろうか。はたまた、音楽の展開を効果的にするための独自の変更か。いずれにせよ、これまで聴いたことがない!! (終演後に第 2ヴァイオリンの首席奏者を立たせていた) 第 3楽章は比較的スムーズであったが、やはり弦と管の掛け合いが顕著。そして、とどめの驚愕は第 4楽章だ。冒頭の和音が延々と延ばされ、まるで第九の "vor Gooooooot!!" のフェルマータかと思った (笑)。それから主部に入って音楽が走り続けるまで、音が止まってしまうくらいテンポを落とすのだ。言ってみれば昔の指揮者の芝居がかった音楽のようでもあるが、でもそこには不必要な音の粘りはなく、どんなにいじっても不潔な感じがしないのだ。これぞ指揮者の能力の見せどころ。山田の手腕はまさに天才的だ!!

この人、現在 3年がかりで進行中のマーラー・シリーズでもそうなのであるが、演奏前にプレ・トークをすることが多い。今回は珍しい作品が多いこともあり、ひとりで舞台に出てきて、20分くらい楽しそうに喋ってくれた (ステージマネージャーが舞台まで巻きを入れに来たくらい 笑)。このベートーヴェンについては、嬉しそうに、「大きい編成でやります」と言っていた。なんでも、4番のシンフォニーのベートーヴェンによる演奏のパート譜が残っていて、場面によって大編成で演奏したことがそれによって分かるという。確かに、同時代の楽器の性能の限界をもどかしく思っていたであろうベートーヴェンが、現代の進化したオケの大音響を聴くと、手を打って喜ぶかもしれない。原典ばやりの昨今、自分がよいと信じる方法で音楽を奏でることができるこの指揮者、本当に素晴らしいと思う。

プレ・トーク終了時に慌ててカメラを向けたが、去り際のこんな写真しか撮れなかった。まあでも、このプログラムを生で聴くことができた記念として、ご覧の皆様ともシェアさせて頂きます。山田 和樹、是非名前を覚えて頂きたい。
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by yokohama7474 | 2015-09-06 00:38 | 音楽 (Live)