アンドレア・バッティストーニ指揮 東京フィル (ピアノ : 反田 恭平) 2015年 9月11日 東京オペラシティコンサートホール

アンドレア・バッティストーニ。1987年イタリアのヴェローナ生まれなので、今年まだ 28歳。本年より東京フィルハーモニー交響楽団の首席客演指揮者に就任した。
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この指揮者の 1枚の CD が、日本のクラシック界で大変な騒ぎになっている。2013年にサントリーホールでライヴ録音した、レスピーギのいわゆるローマ三部作である。レコード芸術誌では、辛口のベテラン評論家、宇野 功芳までが大絶賛。トスカニーニ以来の名盤という評価もある。実は私はその評価を目にして、そのコンサートを聴き逃したことを後悔したが、CD を買って聴いてみようとは思わなかった。東フィルで聴けるのであれば、是非生で聴いてみよう、そう思った。そして、今年の 5月、プッチーニの「トゥーランドット」(なぜかこのブログにはよく出てくる。先日もミッション・インポッシブルの記事で触れたばかり) のセミ・ステージを聴いて、噂にたがわぬその圧倒的なパワーを目の当たりにして驚愕したものだ。この指揮者、もしかすると大変な存在になるかもしれない。そんな大器をいち早く見つけて日本に紹介し、のみならず、電光石火の早業 (?) で首席客演指揮者に指名してしまった東フィルの慧眼と行動力に、心から感服する。昨年までこのオケの常任指揮者であったダン・エッティンガーは、やはり世界的に活躍する若手指揮者であるが、いかんせん、在京のほかのオケのシェフに比して登壇機会が少なく、また、実演にもムラがあったように思う。その点、このバッティストーニという無限の可能性を持つ若手と、同じく今年からだったと思うが、特別客演指揮者というポストについた、こちらは経験豊富なミハイル・プレトニョフが中心になってこのオケを引っ張って行くのであれば、さらなる高みに到達して東京の音楽シーンを彩ってくれることが期待できよう。

さて今回の演奏会であるが、曲目は以下の通り。
 ヴェルディ : 歌劇「運命の力」序曲
 ラフマニノフ : パガニーニの主題による狂詩曲作品43
 ムソルグスキー (ラヴェル編) : 組曲「展覧会の絵」
一目見て分かることは、これはロシア・プログラムだということだ。え? ヴェルディはイタリア人じゃないの? と思った方。常識として覚えておくべきは、この「運命の力」というオペラは、ロシアのサンクト・ペテルブルクにあるマリインスキー劇場からの委嘱で書かれ、そこで初演されたのだ。

実のところこのコンサートに行けるか否か、ぎりぎりまで分からなかったので、3日前になってようやくチケットを購入した。そのとき既に最前列とか、各階の後ろの方かまたは端っこしかなかったが、まあなんとかチケットをゲット。会場に行ってみると、このような表示が出ていた。
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おー、滑り込みセーフ。よかったよかった。そうして始まったコンサート。実は、最も印象づけられたのは、今日のもうひとりの出演者、ピアニストの反田 恭平 (そりた きょうへい) であるとは、予想外の展開であった。

反田は1994年生まれというから、まだ今年 21歳という若手だ。上のポスターでも使っている写真では、かなりのイケメン風に見える。桐朋に入学するも、途中でモスクワ音楽院に移り、学業と演奏活動を両立させているという。日本でのデビュー・リサイタルは来年 1月だというから、今回のコンサートは、その前哨戦としてのオケとの協演ということだろうか。
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ところが、今日のいでたちはイケメンというよりも、そうだなぁ、時々ラーメン屋で見かけるような、若いけど筋の通った個性的な雰囲気を持つ、長髪を束ねた店主という感じかなぁ (笑)。ステージに登場したとき、少し写真と印象が違ったのです。そしてピアノを弾き出してびっくり。全くアカデミズムの硬直を感じさせない、自由な感性で、即興性もあって、ジャズピアニストのようだが、その一音一音の生命力がなんともすごい。そもそもこのラフマニノフの曲、一応は変奏曲なのだろうが、なんともとりとめのない曲だ。狂詩曲とは、このブログの題名にもしている「ラプソディ」のことで、自由な形式の楽曲のこと (まあメチャクチャなラインナップで延々とりとめのないことを書き殴っているこのブログには、ふさわしい題名と言えましょうなぁ。あっはっは)。ただ。ただである。この曲、大変に有名で、それはそれは美しい箇所があるのだ。第 18変奏。TV CM にもよく使われており、多分誰でも聴いたことのある曲だ。私も大好きで、恥ずかしながら、聴いているだけで毎度毎度、目が潤んできてしまいそうになるのである。このメロディーだ。
https://www.youtube.com/watch?v=V4O_l7CUQcI

反田はこの部分を、感傷を交えずに、ただ曲の美しさを強靭なタッチで弾き抜いた。前かがみの姿勢で強い集中力を持ち、でも気取りは皆無で、ひたすら音楽に入り込むその純粋さに、やはり今回も目が潤みそうになり、あくびをしてごまかした (笑)。素晴らしい演奏。そしてアンコールに、ホロヴィッツの「カルメン幻想曲」を弾いたのだが、カルメンの原曲を奇妙に変形して自らのヴィルトゥオロジーを発揮する場にしてしまったホロヴィッツの悪魔的精神状態が伺われる曲だが、その強烈な表現力は、ホロヴィッツと同類ではなく、情熱の下に、冷静な現代性のような感覚を感じる。たまたま You Tube で彼の演奏するこの曲の映像があったので (本当はそういう音楽の紹介はしたくないのだが)、ご参考まで。但し、実演のアンコールよりも、これはさらに冷静さが勝った演奏に聞こえる。因みにこの反田が弾いているピアノは、ホロヴィッツの愛奏していたものだという。
https://www.youtube.com/watch?v=eLaXJyVYdzI

さて、指揮者について冒頭で持ち上げておいて、ピアニストのことばかり書いている、いつもながらのラプソディぶり (?) であるが、その理由は、今日のバッティストーニは、手放しで大絶賛という出来ではなかったと思うからだ。「運命の力」の冒頭は、金管をきっちり統制しながら力強さもうまく出ていて感心したが、クライマックスに向けてうねり上がって行く熱狂という点では、もっとできるだろうという気がした。後半、全休止 (時々終わりと勘違いして拍手する人がいる箇所 笑) の手前では、一旦ブレーキを踏んですぐにまたアクセルを踏むという細かい演出もあり、オケも危なげなくついて行ってはいたが、その先の追い込みに課題があったと思う。また、「展覧会の絵」では、管楽器に時折細かい傷があり、少し残念であった。いや、それよりも、各曲の性格の描き分けが少し不足していたかなぁ・・・。本当なら最後のクライマックスで鳥肌を立たせてもらうべきところ、熱狂にまでは至らなかったか。

もちろん、どんな演奏家でもよい時悪い時があり、今日の演奏とても、決して悪い出来であったとは思わない。期待が大きすぎただけに、少し厳しく聴いてしまったのかもしれない。次回は年末の第九、この指揮者は初めてこの曲を振るらしい。ちょっと不安はあるが、伝統にとらわれない若さの力が漲る快演を期待したい。

ところで、終演後に指揮者とピアニストのサイン会があり、CD を買えば参加できるとのことであったので、とうとう、冒頭に触れたレスピーギの「ローマ三部作」の CD を買ってしまいました。サイン会の様子。
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そして、ゲットしたバティ (と呼ぶそうだ。バティストゥータみたいだね) のサイン。
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若い演奏家のステージに触れるのは本当にいいものだ、などと老人のような感想を持ってしまったが、ふと冷静に考えると、今年バッティストーニ 28歳。反田 21歳。ということは、私は 2人の年齢を合計したよりも年寄りなのだ!! うげー、参るなぁ。


by yokohama7474 | 2015-09-12 02:06 | 音楽 (Live) | Comments(0)