地球日本史 2 鎖国は本当にあったのか 西尾幹二責任編集

どこかで読んだのだが、日本人ほど自国論が好きな国民はいないそうである。確かにその種の本はいろいろあって、ベストセラーも多く、また自分自身や、自分の周辺を考えてみれば、日本人の発想や社会のシステム、組織の意思決定方法等々につき、欧米やアジア各国との比較において、いろいろな議論をすることが多い。その理由はいろいろ思い当たることもあるが、人によって意見は様々。議論しているうちに、なぜ我々は日本人論を戦わせるのかという方向になることもある。こうなってくると、「日本人論」ではなく「日本人がなぜ日本人論が好きか論」になってしまい、厄介なので深入りしないが (笑)、まあ興味深いことではある。

今回読み終えたのは、「地球日本史」という 3冊シリーズのうちの 2冊目、「鎖国は本当にあったのか」という題名のついたもの。因みに 1冊目は「日本とヨーロッパの同時勃興」と題されており、これは数ヶ月前に読んだ。3冊目の「江戸時代が可能にした明治維新」も購入済だが、読まずに積んだままになっている本の多さに鑑みて、実際に手に取るのは少し先になるであろう。
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大体私はいい加減な人間であって、古本屋で 1冊目を手に取り、面白そうだと思ったので、買ってきてそのままにしており、随分と時間が経ってから、全く別の古本屋で 2冊目が売られているのを知って、「あ、シリーズ物だったのか」と初めて気づいて購入。そうなってくると 3冊目も購入しようと思い、ネットで古本を購入。つまり私の手元で仲良く並んでいる 3兄弟は、生まれも育ちも別々な者同士が、縁あって集まってきたというわけだ。

さて、このシリーズはもともと産経新聞の連載をまとめたもの。ドイツ文学者で評論家の西尾幹二が責任編集となっているが、様々な分野から総勢 30名程度だろうか、専門の執筆者を集めている。この西尾幹二は、一般的には保守の論客と言われていると理解しており、私はこれまで、大部な「国民の歴史」なども、シリーズの「国民の芸術」とともに、その前提で面白く読んだことがあるが、それよりもなによりも、最初に彼の著作を読んだのは、いや、読まされたのは、中学生のとき学校の国語の教材であった「ヨーロッパの個人主義」だ。今でも探せばその本は本棚の奥から多分出て来ると思うが、ヨーロッパのことなど何も知らなかった当時の私にとっては、この簡潔な題名が大変印象的で、漠然としたヨーロッパのイメージ作りの基礎となったように思う。今調べてみると、その著作は 1969年のもの。この「地球日本史」シリーズは 1998年からの刊行であるから、その間に 30年近い時間が経過している。地球日本史というからには、日本の歴史的事象を地球規模で見て、それがいかに同時代の世界において優れたものであったかを、手を変え品を変えて主張しているのが本書である。

著作家にはそれぞれの立場があり、読む側としては本を選ぶ権利があるのであるから、ちゃんとどういう立場の人が発言しているのかを念頭に置いて読むことが肝要であると私は思っている。歴史認識については特にそうで、それは何も日本に限ったことではなく、アメリカでもヨーロッパでもアジアでも同じであろう。書かれていることを真摯に考えることだけでなく、それ以外の可能性も常に念頭に置いておかないと、あらぬ方向に自分自身の考えを導いてしまう恐れがあると、私は思う。また、書かれた時代という要素も大きい。本書は前世紀に書かれたものであるゆえ、世界の秩序とか、新興国の状況、またインターネット社会という観点からは、多少なりとも Out of Date な面があることは否めない。

この本には、各項目の筆者についての短い紹介が載っていて、皆さん立派な学者さんだが、いかんせん、年齢層はびっくりするほど高い。生年は軒並み 1930年代か 1940年代、中には 1920 年代の人すらいる!! (今日現在未だ存命であるか否かは調べておりません) その意味でこの本は、気鋭の若手学者が通説に挑むということではなく、酸いも甘いも知り尽くしたベテラン学者の方々が、ふがいない若手学者に喝を入れるといった風情だ (笑)。

ただ、ひとつひとつの項目を見てみると、素人目にもいささか乱暴な議論が多いと思う。まあ、学術書ではないので、それでもよいのかもしれないが、本当にこれらの主張を通したいなら、きっちりとした学問的議論も必要なのではないだろうか。と言いつつも、本当に面白い議論があれこれ入っていて、興味は尽きない。ごく一部を以下のご紹介する。

・日本は 17-18 世紀、ちょうどヨーロッパが「世界史」の体現者として振る舞い始めたほぼ同時期に、世界的レベルでの先端を行く「有力文明」の一つに達していた。その意味で、奇しくもユーラシア大陸の東の端と西の端が同時に世界を引っ張った。
・ヨーロッパ人はアジアに来て、銀の流通量に驚いた。16世紀の最大の銀の供給源は日本であった。当時世界一の経済大国であったスペインは、植民地で産する金銀の量に依拠しており、そのために略奪を働いた。その点日本は、自国内で産する銀によって、スペインをも凌ぐ世界一の経済大国であった。
・秀吉の朝鮮出兵は、征服欲によるものではなく、拡大する西欧への対抗措置としての東アジア経営を考えてのものであった。
・16世紀後半の日本は、世界最大の鉄砲の生産・使用国になっており、ヨーロッパのどの国にもまさる軍事大国であった。しかるに日本はその後の江戸時代に、鉄砲の制限・縮小に向かって行ってしまった。

まだまだあるが、このあたりでやめておこう。私はこれらのポイントについての検証を行う能力はないので、それらが正しいか否かを論じる立場にはない。ただ、日本人が正しく自分たちの歴史を知って、評価すべきは評価し、批判すべきは批判するという態度は、国際社会の中でしかるべき責任を果たすために必要であるように思う。その観点から、この本に学ぶところは多い。あ、でも、どさくさまぎれに、写楽は北斎であったという説も入っているが、それは鵜呑みにしないようにしよう (笑)。


by yokohama7474 | 2015-09-17 01:42 | 書物 | Comments(4)
Commented by 杜の都は雨 at 2015-09-17 21:55 x
懐かしいですね、今チョン。
国語の教科書は全然使わなかったですよね。
私は、大学に入ってから『反=日本語論』を文庫本で読んだことをしみじみ思い出します。
あとは、『世界史の基礎知識』のコピーをとったこととか(なんで、あの一冊が買えなかったのでしょうか……?)。
子どもの歴史の勉強に付き合っていると、自分の中学生時代の精神年齢の幼さばかり思い出されて、まぁ、今に至るまで、さほど成長もしなかったものだと呆れてしまいます。
でも、歴史書は、歳を経るごとにおもしろくなりますが。
貴君は、既に梅原猛やら岡部伊都子やらを愛読していましたよね、出会った頃には。

最近、必要に迫られて、『市販本 新しい公民の教科書』をブックオフで買って(108円)、他の教科書と比べ読みしました。
こちらは、西部邁ですが。
Commented by yokohama7474 at 2015-09-17 23:51
大昔のことを書いても知っている人が見ているとは、なんとも気の抜けないブログです (笑)。人は誰しも、子供っぽい部分と大人の部分が共存しているもの。成長も人それぞれですよね。貴兄は昔から抜群の大人度 (?) を持っていたと思いますよ。
Commented by スネ毛の聖子No1 at 2015-09-19 17:40 x
1週間、パリに滞在していました。帰国前にのぞいたら、歴史話が出ていて、懐かしさ一杯です。時々、西洋史学科にでも行っていたらどんな人生だったろう、と思うことがあります。世界歴史の基礎知識、一生懸命読みました。弓削透の本などもわざわざ読みましたね・・・パリは毎日雨模様で寒いくらい、ヨーロッパはもう秋です。難民・移民が大量に欧州に押し寄せている、というのが連日トップニュースで、戦後最大の欧州の危機、とまで表現する人もいるようです。歴史の重みの一端が現れているのでしょうか。また日本でお会いしましょう!
Commented by yokohama7474 at 2015-09-19 23:14
おっと、古巣のパリ訪問でしたか。正直、貴兄がコメントをくれるとしたら、やはりこの名前かなと期待しておりましたよ (笑)。欧州は移民、日本は安保改正と、世界は激動中ですが、まずは東京で一杯やりましょう。
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