キングスマン (マシュー・ヴォーン監督 / 原題 : Kingsman The Secret Service)

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予告編を見てピンと来た映画は、極力見に行くことにしている。予感が外れることももちろんあるが、今回は大当たりだ。「キングスマン」、間違いなく今年見た映画の中で最高の一本だ!! 近々もう一度見に行ってしまうかもしれない。

ロンドンで高級オーダーメイド紳士服店が並ぶ場所、サヴィル・ロウ (Savile Row)。日本語の「背広」の語源になったというこの場所は、私も仕事で何度か行ったことがある。お客さんのオフィスがそこにあるからだ (私の仕事はアパレルではないのだが・・・)。どんなところかと思いきや、ロンドンではどこにでもある、狭い一方通行の道だ。
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映画の設定は、ここに並ぶ仕立て屋のうちの 1軒、キングスマンという店が、実はスパイ機関の本部になっているというもの。面白いのはこのスパイ機関、国には属しておらず、独立系だということだ。英国の誇る MI-6 所属のジェームズ・ボンドやそのパロディとしてのオースティン・パワーズ、または「Mr. ビーン」のローワン・アトキンソン演じるジョニー・イングリッシュは皆、国家あってのスパイであったが、21世紀の国際秩序においては、新たなスパイ・キャラクターは、豊富な資金を持つ個人であるという設定の方が面白い。対する敵は、これまた国家の範疇には収まらない、ゲリラ活動や IT テロだ。スパイではないが、バットマンもそのような発想でできており、そのシリーズで執事役を当たり役としているマイケル・ケインが、ここでもいかにも彼らしい役柄で出ているのを見ると、何やら信頼できそうな気がするのだ (笑)。
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何より、あの名優コリン・ファースが、きっちりとした着こなしでアクションに挑み、眼鏡をかけて傘を振り回している姿をチラリと予告編で見せるのがよい。ハリウッド流の単純なアクションものではなく、英国風の何か屈折したものがありそうだ。
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映画が始まってすぐに、「あ、これはやっぱりいける」と確信した。中東を舞台にしたミッションが描かれるのだが、旧型のラジカセのアップからカメラが引くと、地上戦闘員が攻撃を受け、さらにアジトになっている古い砦の爆撃へとずぅーっとカメラが昇って行き、爆撃によって砕け散る建物の破片がタイトルになって行くという、そのテンポ感が只者でない。すぐに似ている作風を頭の中で探すと、あったあった、私の大好きなガイ・リッチーだ。あとになって分かったことには、この映画の監督、マシュー・ヴォーン (やはり英国の振付師、マシュー・ボーンとは別人) は、「ロック、ストック & トゥー・スモーキング・バレルズ」や「スナッチ」といったリッチーの傑作のプロデューサーであるとのこと。「レイヤー・ケーキ」という作品でリッチーが監督を降りてしまったのでしょうがなく自分で監督し、それが好評だったのがきっかけでメガホンを取るようになった由。この映画は全く知らないが、調べてみると、主演がなんと、ダニエル・クレイグだ。その後、「キック・アス」という作品を監督していて、これは記憶にあるが、大して見たいと思わなかった。それから、「X-MEN ファースト・ジェネレーション」の脚本・監督、同じく「フューチャー & パスト」の製作・原案をこなしている。こうして見てくると、恐らくこの「キングスマン」は、これまでの作品とは一線を画した、彼自身にとっても新境地なのではないか。

とにかく、大変面白いのだ。若い主人公エグジー (今回が映画デビューとなるタロン・エガートン) がスパイとして逞しく成長して行くというストーリーなのだが、普通、お上品な男が、闘いの場で野生に目覚めるというパターンになるはずが、この映画では全く逆。まず、成長前がこれ。
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そして、成長後がこれだ。
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バッチリ決めた英国紳士が、並み居る敵をバッタバッタとなぎ倒す、そのギャップが面白い。このような方法を取る場合、作品にリズム感がなかったり、小ネタが不発であったりとかの状況で、見るも無残な企画倒れになるリスクがあるのだが、この映画は、まさに目の覚めるようなアイデアと表現方法、そして役者の呼吸で、大変見事だ。今、書きながら映画を思い出して、笑ってしまったり、爽快感を味わっている自分が何やら不気味である (笑)。実際、荒唐無稽なアイデアに対して観客が抵抗感を示すか示さないかは、細部の積み重ねによって決まるのだ。その意味で、いや全く見事な映画だ。

特筆すべき見事なシーンは 2つ。ひとつは、コリン・ファースが暴れる教会の場面。もうひとつは、主人公たちが敵 (これが IT 起業家にして悪党のサミュエル・L・ジャクソンなのだ!!) の本拠地で絶対絶命となり、主人公の教官 (最近いろんな映画、例えば「裏切りのサーカス」や「イミテーション・ゲーム / エニグマと天才数学者の秘密」で印象に残る演技連発の名バイプレイヤー、マーク・ストロング) の案で一か八かの勝負に出るシーン。前者は、あえて言うならば、殺戮シーンとして映画史に残るであろう (この映画が R15 指定になった一因もこのシーンだろう)。完璧に作られたリアリティに圧倒される。後者は、これはただ、腹を抱えて笑おう。エルガー作曲による行進曲威風堂々第 1番、英国の第 2国歌と言われる中間部の流れるシーンだ。劇場で手を叩きたくなるほどの素晴らしいシーンに、久しぶりに会った。

その他、出演者もいろいろ多彩であるが、例えば、敵役のサミュエル・L・ジャクソンの秘書兼用心棒 (?) 役のソフィア・ブテラはどうだろう。
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最近パラリンピックもメジャーとなり、足の不自由な選手の走りや跳躍も日常のものとなったが、このガゼルというキャラクターは、通常なら人の機能を補うべき義足によって、一般人を遥かに超える殺傷能力を持つ。この逆説がまさにこの映画にぴったりだ。演じるのは、世界的なダンサーであり、ナイキのブランド・アンバサダーであるソフィア・ブテラ。
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まあ、このようなイキのよいキャストが組めるというのも、この監督の実力のひとつなのであろう。あ、そうだそうだ、よいキャストと言えば、ひとり気になる役者が出ている。この人だ。
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アーノルド教授という役名で、途中で殺されてしまう脇役だ。さて、この俳優の名は? 誰あろう、マーク・ハミル。ほかでもない、「スター・ウォーズ」のルーク・スカイウォーカーだ。同じような角度の写真で、面影があると言えばあるような。
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さてさて。既に予告編の上映も始まっているスター・ウォーズの新作、「フォースの覚醒」(日米同時12月18日公開) でルーク・スカイオォーカー役に復帰とのこと。予告編では既に、ハリソン・フォードがチューバッカとともにハン・ソロ役として姿を見せているが、彼らに加え、レイア姫のキャリー・フィッシャーも出演するらしい。いやはや、どうなることやら。

話が例によって脱線してしまったが、この「キングスマン」、私の見たのはシルバーウィーク中のレイトショーだったが、かなりの混雑であった。映画の観客層の通ぶりを測るには、終映後のエンドタイトルでどのくらい人が出て行くかを見れば大体分かるが、この映画の場合、案の定、ほとんどの人が出て行かなかったのだ。さすが、日本も捨てたものではない。プログラムによると、本作の好評により、次回作の噂も出ているとか。私としては、それは若干の不安材料だ。だって、次回作でしゃあしゃあとコリン・ファースが出てくると、ちょっと興醒めですよね。なので、まずこの作品はこの作品として、一旦完結としたい。いやお見事。

by yokohama7474 | 2015-09-23 22:20 | 映画 | Comments(0)
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