赤坂大歌舞伎 操り三番叟 / お染の七役 (中村勘九郎、中村七之助ほか出演) 2015年 9月23日 赤坂 ACT シアター

このブログをご覧の方なら先刻ご承知のことかと思うが、世界の都市で、ミシュランの星付きレストランが最も多く存在するのはどこか。パリ ? ニューヨーク ? ロンドン ? いえいえ、東京なのです。それもそのはず、ここ東京には、フレンチやイタリアンやスペインバルに加え、中華や各種エスニック、そして、すき焼きから寿司に至る和食の店がゴマンとあるからだ。それは文化面でも同じこと。ただ単に、オーケストラコンサートや舞台での芝居の上演、しかも質を考慮に入れるということなら、東京はロンドンに及びもつかないが、伝統芸能を数に入れれば、間違いなく東京は世界一の舞台芸術の街だ。そう、能や歌舞伎、文楽の公演が目白押し。中でも歌舞伎は、近年の相次ぐ名優の死去にも関わらず、相変わらず盛況に見える。最近、日本のオーケストラの演奏会に足を運ぶ必要があって時間的に余裕がないとはいえ (いやいや、誰にも強制されたわけではなく、自分で勝手に行っているわけだが 笑)、年に数回は日本の伝統芸能を見たい。そんなわけで、赤坂 TBS 本社に隣接した赤坂 ACT シアターで興行中の、赤坂大歌舞伎を覗いてみた。
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この赤坂大歌舞伎、2008年に、故中村勘三郎の発案で始まったらしい。勘三郎が 2012年に世を去ってからは、2013年、今年 2015年と、二人の息子、勘九郎と七之助が中心となって継続されている。私は歌舞伎マニアでは全然ないが、勘三郎は、コクーン歌舞伎を始めたときの「東海道四谷怪談」や、ニューヨークでの平成中村座「夏祭浪速鑑」など、忘れられない舞台に何度か接していて、志半ばにして逝ったこの名優の無念に思いを馳せることがままある。勘九郎、七之助の兄弟は、彼の血を受け継いで活発な活動を行っていて嬉しい限りだが、まだまだ清濁併せ呑む迫力には及ばないように思う。いやしかし、このような伝統と格式とは違う新たな舞台での活動が、芸の引き出しを増やして行くことはまず確かなことであろう。上のポスターの右側、勘九郎の額には、くっきりと「赤坂」の文字が。
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今回、赤坂 ACT シアターには初めて足を運んだ。こんな感じのモダンな外見だが、敷地内には、べっ甲や根付けや彫り細工など、江戸時代以来の伝統工芸の店が軒を連ねて、芝居へのワクワク感を否が応にも盛り上げる。
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今回の出し物は 2演目。最初が、長唄囃子連中、「操り三番叟 (あやつりさんばそう)」。メインが、「東海道四谷怪談」で知られる四世 鶴屋 南北 (1755 - 1829) の、「於染久松色読販 (おそめひさまつうきなのよみうり)」、通称「お染の七役」だ。
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最初の「操り三番叟」の主役は兄の勘九郎。もともと祝いの場で舞われる儀式舞踊「三番叟」が様々な形態に発展したうちのひとつで、見せ場は、等身大の人形、三番叟が後見の手によって活発に踊り出す場面。操り人形さながらの動作で派手に舞う勘九郎の技は見事だ。これはコミカルで軽々とした動きでないと観客は楽しめなが、これだけ動ければ非の打ちどころがない。しかも黄色い靴下を履いているあたりがモダンだ (笑)。
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「お染の七役」は、上演時間正味 2時間15分。ストーリーは若干複雑で、何組ものカップルや横恋慕や悪人の悪巧みやとぼけた丁稚や大立ち回りが出てくる。登場人物も多くて、ストーリーを追うのがなかなか骨だが、実はその必要はそれほどない。というのも、七之助演じる 7役の早変わりを楽しんでいるだけでも充分だからだ。この戯曲、もともと大阪で実際に起こった質屋の娘、お染と奉公人、久松との心中事件が題材になっていて、1813 年の初演時 (なんと、200年以上前か!!) に大当たりを取ったらしい。正式な題名よりも、「お染の七役」で知られているのが、主役のお染役の役者がほかにも 6つの役を演じ、合計 7つの役になるからだ。しかもこの 7人には、お染本人とその恋人 久松、さらには久松の許嫁 お光、また久松の姉 竹川、その他、芸者あり、質屋の後家あり、やさぐれた悪女ありと、なんとも凄まじいバラエティ。立ち姿や声色もたちどころにして変える必要のある難役だ。しかも冒頭の方では、ひとつの役で舞台から去った数秒後には全く違う恰好で出てくるのだから恐れ入る。また大詰めでは、なんと寄り添うカップルを一人で演じる !! という離れ業。
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そんなわけでこの兄弟、清濁併せ呑む存在目指して、これからまだまだ芸域を広げて行くであろう。鑑賞する我々も、日本人ならではの特権を味わいつつ、東京にはこんなにすごい伝統芸能があるということを誇りに思おう。ミシュランの演劇編ってできないものだろうか。

by yokohama7474 | 2015-09-23 23:42 | 演劇 | Comments(0)