唐画 (からえ) もん - 知られざる大坂の異才 武禅に閬苑、若冲も 千葉市美術館

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千葉市美術館は、日本美術専門美術館である。開館記念展の大歌麿展の衝撃は未だに新鮮だが、早いもので、もう開館 20年だという。なんとまぁ。もちろん、開館展以外にもこれまで何度もここに足を運び、貴重な展覧会を見てきた。ここでの展覧会の多くには、その価値があるからである。そして今般開催中の展覧会は、題して、「唐画 (からえ) もん - 武禅に閬苑、若冲も」となっている。副題として、「知られざる大坂の異才」とあり、ポスターには、蛙が「大坂から、めっちゃすごいん来たで!」と言っている吹き出しがある。・・・。ううーん、のっけから恐縮ながら、もう少しうまい宣伝ができなかったものか。「からえもん」という言葉はもともとあるわけではなく、この展覧会のために作られたようだ。この言葉を歴史に定着させようという意図からだろうか、それとも、まさかとは思うが、「ドラえもん」「ほりえもん」からの連想か??? いずれにせよ、別に柔らかくする必要はないように思う。「知られざる大坂 唐画の鬼才たち~ めっちゃええもん来てるやん」とかなんとかでどうしていけなかったのか。率直なところ、私自身、この題名の不必要な柔らかさによって、今回は見に行くのをやめようかと思った。なので、本当に危ないところであった。こんな面白い展覧会を見逃しそうだったわけだから。

大阪ではなく大坂と記述するだけで、既に江戸時代を扱っていることは明白だ。では、その大坂のどのような画家の作品が集められているのか。墨江 武禅 (すみのえ ぶぜん 1734 - 1806) と、林 閬苑 (はやし ろうえん 生没年不詳、1770 - 1780 頃活動) が中心だ。江戸時代中期の大阪で、狩野派が大勢を占める中、中国に由来する画題や表現を使った唐画師 (からえし) が活躍したらしく、この 2人がその代表として選ばれたもの。彼らの名前は私も聞いたことがなかったし、一般的には全くの無名であろう。それがゆえに、「からえもん」などという奇妙な造語を作るのでなく、内容が分かる展覧会名にすべきであったと思うものだ。

メインの 2名の作品。ほとんどが個人蔵である。ということは、美術館が購入するような Name Value がないということであろうか。ただ、師匠や同門筋の作品も揃えて見てみると、誠に見応え充分で興味は尽きない。例えばこの、武禅の「夏季美人図」を見てみよう。この女性、舞台の書き割りの中にいるのか? いや、そうではあるまい。画家はどうしても、背景とそこからそよそよ吹き入ってくる夏の風を描きたかったのではないか。
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武禅は山水図もいろいろ描いていて、水墨画もあるが、このような蕪村風の緻密で繊細な作品もある。「青緑山水渓流游回図」。大変きれいな絵である。
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また興味深いのは、光の描き方についてのあれこれの実験的な手法を試みていることだ。この「山家夕景図」では、塗残しの部分が雨を表し、傘を差した人物の持つ行燈には灯がともっている。
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面白いことに、洋風の絵も描いている。「花鳥図」。洋画の手本があったという説もあるらしい。
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さらに、この武禅という画家、当時流行った「点景盤」の作者としても第一人者であったらしい。点景盤とは、盆栽のように鉢の中にミニチュアの山水を模した石や植物を作り込むこと。武禅の名前は、この点景盤作者として当時の番付の筆頭に位置づけられている。このような画帖に様々なパターンを自ら記している。
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これらを見るだけで、江戸時代中期の大阪の多様性ある文化を偲ぶことができる。これまで一般に名が知られていない理由をもう少し知りたいものだ。

さて、もう 1人の林 閬苑は、一層個性的だ。生没年不詳ながら、40歳にもならずに死去したとのこと。生涯はよく分からないらしいが、人知れず今日まで伝来した作品の大胆さを見ると、一部の町人に熱狂的に支持されたようなことがあったのだろうか。まず、これは「奇岩図」。こんな描きかけのような作品に落款を付してある大胆さ。アヴァンギャルドだ。
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これも滅法面白い。「漁夫図」と題されているが、一気に描かれたとおぼしい斜めの二本の線は橋である。なんとスタイリッシュなこと。
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これは戯画調の「蹴鞠図」。蹴鞠をしていて、どうやらやんごとなき人が顔面で鞠をキャッチしたらしい。200年以上前に描かれた、今日のマンガにも通じるセンスに脱帽だ。
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もちろん閬苑は、まともな作品もあれこれ残している。だが、ともするとどこかにいたずら気が表れるのだ。これは、1780年の「睡起未顔粧之図」。中国絵画風に丸窓の向こうの情景を描いているが、題名の通り、寝起きで未だ化粧をしていない女性たちの姿だ。
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このように見てくると、江戸とも京とも違う、大阪ならではの感覚がはっきりあるように思う。ただ単に美麗な風景を描くだけでは飽き足らず、何かちょっとひねったことをしないではいられない浪速魂。いやはや、これまで知られていなかったのがもったいない。繰り返しだが、唐画だからどうということではなく、未だよく知られていない大阪の画家たちの作品を一堂に集めた貴重な展覧会であるという点を強調できなかったものか。尚、この千葉市美術館の展覧では、同館所蔵の若冲等々も加え、非常に充実した内容となっていた。千葉で 10月18日まで開かれた後、大阪歴史博物館で 10月31日から 12月13日まで開催される。

もうひとつ。千葉市美術館では、この展覧会と同時開催ということで、「田中一村と東山魁夷」という所蔵作品展が開かれている。およそイメージのかけ離れたこの 2人、たまたま千葉県人という点だけが共通かと思いきや、ともに 1926年に東京美術学校日本画科に入学した同期であったとのこと。ところが田中はすぐに退学、その後奄美大島で孤独・無名ながら独自性溢れる画風を確立。片や東山は国民的画家へと登りつめて行く。私自身がどちらを好きかはここでは書かないでおこう。だが、なかなかに面白い展覧会だ。
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さてさて、今回の展覧会とは直接関係ないものの、千葉には中世から近代に至る、興味深い建造物がいろいろあるのだ。またいつか改めてご紹介したいとは思うが、まずは手っ取り早く (?)、千葉市美術館の入っているビル (千葉市中央区役所も入っている) の 1階は、もともとの歴史的建造物を現代の建物で覆った構造になっている。建物の名は、旧川崎銀行千葉支店。1927年に竣工したネオ・ルネッサンス様式。今の建物は、「さや堂」と名付けられている。あいにく今日は貸切で撮影が行われていたが、普段は中に入ってレトロな気分に浸ることができる。
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侮りがたし、千葉。

by yokohama7474 | 2015-09-27 23:03 | 美術・旅行 | Comments(0)
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