2015年 10月 02日
ワーグナー : 楽劇「ラインの黄金」(指揮 : 飯守 泰次郎 / 演出 : ゲッツ・フリードリヒ) 2015年10月 1日 新国立劇場
過去 2回のツィクルスは、英国のキース・ウォーナーによる、いわゆる「トーキョー・リング」と言われたポップなもの。私は最初のツィクルスを 4年がかりで見たが、大変面白かった。そして今回、飯守音楽監督の指揮、東京フィルの演奏になる新ツィクルスは、なんとなんと、今は亡きドイツの名演出家、ゲッツ・フリードリヒの演出によるものだ。かつてベルリン・ドイツ・オペラで現代的演出を手掛け、日本ではとりわけ、4部作の一挙上演として日本初演となった「指環」の演出で知られる。これは、時を表すトンネルが常に背景にあることで、「トンネル・リング」と呼ばれ、日本でも有名となった。その実演は 1987年のこと。当時学生であった私は、人生初のオペラ体験を、あろうことかザルツブルク音楽祭でするという大それたことをやった年であったが、「指環」の全曲は録音でもまだ聴いたことがなく、もちろん経済的にも余裕がなくて、「いやー、日本で指環ツィクルスを聴けるなんて、すごい時代になったねぇー。ぜってー行くだろ、オイ」と言う先輩を羨ましく思ったが、ぜってーと言われても、行くことが叶わなかった。実はこのフリードリヒ、人生で 3回、この「指環」を演出していて、このベルリン・ドイツ・オペラのものが 2回目。最初は英国ロイヤル・オペラであり、最後の演出が 1996年フィンランド国立歌劇場での公演で、今回日本で上演されるのは、この最後のものだ。つまり、亡きカリスマ演出家の遺産を日本で初紹介するということであり、飯守音楽監督の意気込みが感じられる。尚、この公演、入り口で SP が沢山いるなと思ったら、皇太子ご夫妻臨席の公演であった。私の安い席からは、お姿を拝見することはできなかったが、皇太子のオペラ・コンサート鑑賞は決して珍しいことではなく、会場では特に混乱もない。
さて、この演出であるが、極めてシンプルな舞台装置で、歌手の動きも多くなく、先のバイロイトの「指環」などを見てしまった身としては、むしろ保守的な演出とすら言ってもよいだろう。ちゃんと冒頭でヴォータンは寝ているし、アルベリヒは隠れ兜を被って大蛇にも蛙にもなる。また、フローラの背の高さに黄金が積まれるシーンもちゃんとあり、なんだかとっても安心するのだ (笑)。トンネル・リングを見ていない私としては、比較はできないものの、その後のベルリン・ドイツ・オペラ来日時に見た一連のフリードリヒ演出のワーグナー、「マイスタジンガー」「トリスタン」「オランダ人」「タンホイザー」などを思い出しても、とりわけこの「指環」はおとなしいような気がする。それにしても、今、1993年と 1998年の同オペラハウスの来日公演のプログラムを見てみると、演目も多いしスター歌手も沢山出ていて、プログラム自体も分厚く、「フリードリヒ」「フリードリヒ」と、この演出家についての記事があれこれ掲載されている。彼は 2000年に死去しているが、現在、これだけの知名度と人気のあるオペラ演出家は、もういないだろう。これは、私も面識のある音楽ジャーナリスト、寺倉 正太郎氏の記事。
さて、歌手について簡単に触れておきたい。まず、ヴォータンのユッカ・ラジナイネンは、前回の新国立劇場の「指環」ツィクルスでも同じ役を歌ったらしいが、安定した歌唱で、なかなかよかった。さらに突き抜けた何かがあればもっとよかったが・・・。さらに、ローゲ役のステファン・グールドとエルダ役のクリスタ・マイヤー。この 2人には共通点があって、なんと、私もブログで取り上げた、今年のバイロイトでの「トリスタンとイゾルデ」(10月25日深夜に NHK BS プレミアムで放送予定) で共演しているのだ。グールドがトリスタン役、マイヤーがブランゲーネ役。ただ、今回はグールドの方が若干ミスキャストではないか。トリスタンやジークムントを歌う人がローゲを歌ってよいものでしょうか?! 先入観もあってか、狡猾さがあまり感じられなかった。一方のマイヤー、エルダ役がなかなか向いていると思う。カーテンコールでもいちばん大きいブラヴォーをもらっていた。以下は、劇場で売っているゲネプロからの生写真。このオペラは今日が初日だったから、多分、ネットに上げている人はまだ少ないと思う。サービスサービス。