レオシュ・スワロフスキー指揮 チェコ国立ブルノ・フィル 2015年11月 7日 横浜みなとみらいホール

e0345320_21203129.jpg
このブログでは以前、7月19日の記事で、チャイコフスキーの 3大交響曲 (第 4・5・6番) を一挙に演奏するという無謀な (?) コンサートをご紹介したが、それは作曲家の出身地、ロシアのオーケストラによるものであった。それに対抗したのか否か分からないが、今度はドヴォルザークの 3大交響曲 (第 7・8・9番) を一挙に演奏するというコンサートが催された。こちらも演奏は作曲家の出身地、チェコのオーケストラによるものだ。スラヴ系作曲家の交響曲対決!! さて、その結果やいかに。

演奏したのは、レオシュ・スワロフスキー指揮チェコ国立ブルノ・フィルだ。まずはオーケストラの紹介から行こう。ブルノは、チェコ共和国第 2の都市。モラヴィア地方の中心都市で、プラハの東、約 200kmの距離にある。18世紀後半に炭鉱が見つかったことで、チェコの近代化には大きな役割を果たしたという。そのため注目すべき近代建築がいくつもあり、中でも、巨匠ミース・ファン・デル・ローエ設計によるモダニスム建築、トゥーゲントハット邸は世界遺産に登録されている。まあ、チェコ第 2の都市とは言っても、現在の人口は周辺を含めても 73万人とささやかなものだが、きっと豊かな文化を持つ街なのだろう。特に音楽愛好家にとっては、大作曲家レオシュ・ヤナーチェクの出身地として知られている。村上春樹ファン (因みに私は違います。スミマセン) にとっては、「1Q84」で使われていた、シンフォニエッタの作曲者と言えば通りがよいだろうか。この都市を代表するこのブルノ・フィルは、もちろんチェコ・フィルには見劣りするものの、チェコ有数のオケであることは間違いない。私にとっては懐かしい名前で、なぜならば、クラシックを聴き始めた頃、オスカー・ダノンという指揮者とこのブルノ・フィルによるチャイコフスキーの幻想序曲「ロメオとジュリエット」を FM からカセットテープに録音して、繰り返し聴いていたからだ。ダノンについては昨今ではとんと名前を聞かなくなってしまったが、この、超メジャーな「カラヤン / ベルリン・フィル」ではない、「ダノン / ブルノ・フィル」の演奏を聴き込むことで、私の生来の反骨精神が磨かれたような気がする (笑)。まあでも、演奏はカラヤンとベルリン・フィルの方がよかったかな (苦笑)。

指揮者は、レオシュ・スワロフスキー。1961年生まれなので、今年 54歳と、指揮者として勢いが出て来る頃だ。
e0345320_22244487.jpg
昨年から愛知セントラル交響楽団の音楽監督に就任しているらしく、また、在京のオケにも客演実績があるようだ。もともとノイマン、コシュラーという上の世代のチェコの名指揮者の薫陶を受け、また、ザルツブルク音楽祭ではショルティやアバドの補佐もした経験があるという。昔からのクラシック音楽ファンには、「スワロフスキー」というと、あのハンス・スワロフスキーの名前が浮かぶであろうが、この人は指揮者としてよりも、ウィーン国立音楽大学で名教授として活躍したということでよく知られている。アバドやメータも、彼の愛弟子であった。このハンス・スワロフスキーが今回の指揮者レオシュ・スワロフスキーの叔父であるという記述も目にしたが、ハンスは 1899年生まれのハンガリー系ユダヤ人であるので、よほど年の離れた弟がチェコで結婚したということでもない限り、可能性は低いだろう。

ともあれこの演奏会、先のチャイコスフキーの 3大交響曲の演奏会が東京芸術劇場を満員にしたのに対し、横浜みなとみらいホールは空席が目立つ結果となった。いくつか理由はあるだろうが、やはり最大の理由は曲の人気だろう。チャイコフスキーの方が派手だしよく鳴る。ドヴォルザークの場合、「3大」と言っても、明らかに 9番「新世界から」、8番、7番という順に人気が落ちる。それはやむなし。だが、首都圏の文化イヴェントとしての評価は、単に客の入りだけではない。内容が大事である。また、調べてみると今回、このコンサート以外にも 10/31 (土) に東京オペラシティでも同じ内容のコンサートが開かれており、そちらを合計すれば、チャイコフスキーと対抗できるか???

今回初めて知ったことには、この 3曲、それぞれ違う都市で初演されているのだ。7番がロンドン、8番がプラハ、そして 9番は言わずと知れたニューヨーク (冒頭に掲げたポスターには、ナンバーの部分に各都市の風景が織り込まれている)。7番はそれほど知名度が高くはないが、その悲劇性がブラームスを思わせ、彼のほかのシンフォニーのような土俗性がない分、洗練されているので、私は大好きだ。8番はその旋律美が際立つ名曲で、オーケストラの様々な魅力を満喫できる。そして 9番、「新世界」は、以前にも触れた通り、私が最初に親しんだ交響曲で、大っっっ好きな曲なのである。スワロフスキーとブルノ・フィルは大変真摯な演奏を聴かせてくれた。金管の音色が少しくすんだ感じがあって、暴力的には決してならず、かといって迫力不足にもならない。弦の表現力は豊かで、慣れた曲だからと言って手を抜くことは一切ない。すべて暗譜で振りぬいたスワロフスキーも、派手なところはあまりないが、プロフェッショナリズムを充分に見せてくれた。考えてみれば、チェコという、文化的伝統は豊かとはいえ、音楽文化の中心とは言えない国から出て、本家本元のドイツ人ブラームスを唸らせ、新世界で欧州代表として音楽の教鞭を取るという大出世をしたドヴォルザークとは、大変な人物だ。現在に至るまでチェコ人たちはこの作曲家を深く尊敬し、誇りを持っているのもむべなるかな。こんな怖い顔だったらしいんですがね。
e0345320_22583971.jpg
だが、ここで私のいたずら心が動き出す。ドヴォルザークもよいが、彼らの土地の本当の先輩である、ヤナーチェクだけの演奏会を聴けないものだろうか。もちろん、代表作 3作、つまり、シンフォニエッタ、タラス・ブーリバ、そしてグラゴル・ミサだ。それだけで聴衆が集まらなければ、村上春樹にタダ券を送り、宣伝で「村上春樹氏来る・・・かも」と謳えば、もしかして満員になるかもしれない。

とくだらないことを考えていると、アンコールが演奏された。もちろん、ドヴォルザークづくしのフルコースのこの日、アンコールに最適なこの作曲家のスラヴ舞曲のどれかだろうと思いきや、指揮者が聴衆に向かって宣言したことには、「ブラームス、ハンガリーブキョク、ダイゴバーン」とのこと。一瞬、「え? ブラームスがドヴォルザークに太鼓判を押したっていうこと?」と思ったが、太鼓判ではなく、第 5番でした。な、なんでここだけブラームス? ま、熱気のこもった演奏だったので、ドヴォルザークさんも、「尊敬するブラームス先生の曲なら許そう」と、髭の中で笑ってお許しになったかもしれない。お互い太鼓判かい。でも、なんでブラームス??

by yokohama7474 | 2015-11-08 23:14 | 音楽 (Live) | Comments(0)