エベレスト 3D (バルタザール・コルマウクル監督 / 原題 : EVEREST)

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私は山登りをしない人間ではあるが、そこそこの山であれば、「あぁ、登頂すると気持ちいいだろうなぁ」と思うことはある。とはいえ、まだ記憶に新しい御嶽山の噴火や、それほどの規模の悲劇でなくても、それなりの頻度でニュースになっている山での遭難のニュースを耳にすると、なんとも暗い気持ちになるものだ。人間が自然を御することは所詮不可能であり、一旦自然災害が起こってしまえばなすすべもない人間の身の危うさを思い知るからだ。特に、このエヴェレストのような、普通に考えて命を危険にさらすような無謀なことを、巨額の資金をかけてでもやろうという人がいることを、私は全く理解できない。この映画の冒頭にある通り、1953年にエドモンド・ヒラリーとテンジン・ノルゲイが初登頂を達成して以来、最初の頃はプロの登山家でも 4人に 1人が命を落としたという。うーん。理解できない。と言いながら、なぜかこの究極の登山には心惹かれるものがある。もう 10年以上前になるが、「そして伝説は残った」という本を読んだことがある。副題は、「伝説の登山家マロリー発見記」とあって、ヒラリーとテンジン (と普通言うが、なぜファーストネームとファミリーネームの組み合わせなのだろう?) よりも先、1924年にエヴェレスト登頂を目指して消息を絶ったジョージ・マロリーの遺体が 75年ぶりに発見されたことに関するドキュメンタリーであった。ここで私を惹きつけるのは、極限の世界で生還を目指すことのロマンということは多分できそうだ。

そんなわけで、久しぶりに劇場で見た映画がこれである。1996年に実際に起きた遭難事件に基づいており、3D の威力もあって、その描写はかなりリアルだ。この時代だからほぼ全編 CG で作ったのだろうと思いきや、実際にエヴェレストやアルプスで大々的なロケを敢行しているという。いやー、3D カメラを抱えたスタッフの皆さんは大丈夫だったのだろうか。

この映画、登山の話だから、登場人物の顔が分かりにくいだろうと思ったら、ある程度思った通りであったが、そのキャストは非常に豪華だ。主役の登山会社の経営者には、先に「ターミネーター 新起動」でのジョン・コナー役をご紹介したジェイソン・クラーク。その妻役はなんとキーラ・ナイトレイだ。但し彼女は登山をしないので、ほかの俳優よりも安いギャラだっただろう (笑)。主人公を助けようとする仲間に、「アバター」の主役を務めたサム・ワーシントン。ベースキャンプでの頼りになる女性スタッフに、名女優 (最近あまり見なかったが) エミリー・ワトソン。その他、ジョシュ・ブローリンやジェイク・ギレンホールなど、充実の顔ぶれだ。但し、この映画の難点は、まさにその設定にある。山に登ってしまえば、顔や姿がよく分からないので、登山服の色などで人物を識別するしかなく、また、迫真の演技をしようにも、こんな吹雪の中では、見ている人に分かるように撮影するのは極めて難しい。おー、さむ。
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実際、このような高峰にとってみれば人間など、蟻んこのようなちっこい存在であり、いかに通信技術や装備が発達し、天候予報の精度が上がろうと、何千年何万年と当たり前のように起こり続けているちょっとした吹雪によって、人間の体力も知力も、あっという間に吹っ飛んでしまうことの絶望感。急峻な峰を辿る人々の姿を上空からとらえたカットは、そのような絶望感を存分に表現していて、それだけでもこの映画の価値はあると思う。ただ一方で、多くの登場人物がいる中で、その個人的な背景が描かれるのは 2人だけだ。主要キャストで唯一山に登らないキーラ・ナイトレイが、電話での会話という難しいシチュエーションで、なかなかの演技を見せてくれる。この映画でほぼ唯一の、人間の愛を描いたシーンだ。
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但し、改めて思うと、いわゆる実話に基づく壮絶なストーリーを持つ映画 (最近でいうと「アメリカン・スナイパー」とか) に比べると、この映画はもうひとつドラマとしての迫力に欠ける面がある。それは、登山における遭難には、もちろん人間の判断ミス等々の微妙な要素もあるものの、上に書いたような自然 vs 人間の、最初から話にならない無謀な対決が描かれてしまうと、ドラマ性を加えるのは所詮無理であるからだ。なので、この映画を見る際に、気の利いたストーリー展開を期待してはいけない。ただひたすら、自然の驚異と、微々たる力でそれに立ち向かおうとする人間の営為を見るしかない。

これから冬に入って行くので、雪山に登る皆さんはこの映画を見て、勇気ある決断が生死を分けるということを再認識されてはいかがでしょう。ご無事を祈ります!!

by yokohama7474 | 2015-11-14 09:59 | 映画 | Comments(0)