ウラディーミル・フェドセーエフ指揮 NHK 交響楽団 (ピアノ : チョ・ソンジン) 2015年11月20日 NHKホール

このブログを始めて間もない 6月 6日の記事で、今年の 5月30日に聴いた、ロシアの巨匠ウラディーミル・フェドセーエフ指揮のチャイコフスキー・シンフォニー・オーケストラの演奏会について採り上げたが、実はそれに先立つ 1ヶ月ほど前の 4月にも、同じ指揮者が N 響定期を指揮するのを聴いていた (曲目は、R・コルサコフの「シェエラザード」がメイン)。N 響の定期は毎月 3プログラムあり、通常は同じ指揮者が 3プログラムとも指揮するのであるが、指揮者が若手であったり高齢であったりする場合には、1プログラムの指揮というケースもある。フェドセーエフの場合、83歳という高齢ということか、4月定期も 1プログラムのみの指揮であったが、今回も同様に 1プログラムのみ。
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さて、80を過ぎた巨匠の指揮である。秋深まる今日この頃、どんな人生の深みを感じさせてくれる深くて渋いプログラムであろうか。

 ショパン : ピアノ協奏曲第 1番ホ短調作品11 (ピアノ : チョ・ソンジン)
 グラズノフ : バレエ音楽「四季」作品67から「秋」
 ハチャトゥリアン : バレエ音楽「ガイーヌ」から「剣の舞」「ばらの少女たちの踊り」「子守歌」「レズギンカ舞曲」
 チャイコフスキー : 大序曲「1812年」作品49

な、なに? コンチェルトは置いておいて、後半の曲目はズンドゴポカポカの爆裂系ばかりではないか。これを 80過ぎのお爺さんに指揮させるとは、N 響はなんと意地悪なオケなのか (笑)。ところが驚いたことに、そんな意地悪なオケのズコズコドッカンなプログラムが、なぜか全席売切れで、当日券もない状態。その理由は、多分彼の出演だろう。
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チョ・ソンジン。まだ 21歳の若い韓国人ピアニスト。今年 10月20日に結果が発表されたばかりの、ショパン・コンクールの覇者だ。私はこれまで彼のピアノを聴いたことはないが、名前は何度か耳にしたことがある。調べてみると、2009年、15歳のときに浜松ピアノ・コンクールで優勝しており、2011年にはチャイコフスキー・コンクールで 3位に入っている。なるほど、天才少年として既にキャリアを歩んできたわけだ。今日の Yahoo ニュースにも、今回の来日に際してポーランド大使館で行われたインタビューの様子が報道されているが、なるほど、既に日本に一定のファン層を持っているわけだ。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20151120-00000007-pia-ent

N 響は、どういう仕組みなのかは分からないが、前回ショパン・コンクールが開かれた 2010年にも、優勝者のユリアンナ・アヴデーエワ (先のベルリン・ドイツ交響楽団の記事で採り上げた) が、優勝からそれほど日を経ずしてソリストとして登場した。事前の発表では、ソリストは「ショパンコンクール優勝者」となっていたから、コンクール自体となんらかの関係があって、優勝者がすぐに N 響のステージに登場するのであろう。ともあれ、これから世界に羽ばたくきっかけをつかんだ若い演奏家を、その優勝後の興奮冷めやらぬうちに聴けるというのは、かなりの特権と言ってよいであろう。

このピアニスト、事前のイメージでは、バリバリ弾くタイプかと思っていたが、今日のコンチェルトではなんとも繊細な演奏ぶりであった。NHK ホールの響きがデッドであることもあり、あるいは線が細いと感じた人もいたかもしれない。私は、聴こえてくる音の情報からあれこれ想像力で補って聴いていたが、ひとつ感じたのは、これは発展途上の若い音楽家というよりも、既に完成されたスタイルを持つ音楽家の奏でる音楽だということだ。その抒情には卓越したものがあり、しかも月並みな情緒とは一線を画する。緩徐楽章などは、耽溺していないのに何か切ない思いを抱かせるという不思議な音空間を作り出していた。まだあどけない少年のような顔つきであるが、ただ才能があるというだけでなく、相当に厳しい鍛錬を積んで来ているのであろう。意識してあのような微妙な音楽を紡ぎ出せるなら、これから多様な展開が期待できるような気がする。ただ今日の演奏は、出来としては驚くようなものではなかったかもしれない。アンコールのショパンの前奏曲作品28の 4も含めて、派手なパフォーマンスはなく、聴衆の拍手もさほどの熱狂はなかった。私は実は、この人はロマン的抒情と全く関係ない音楽、例えばバルトークとかプロコフィエフが面白いのではないかと思う。またの機会を楽しみにしよう。日本のマスコミが、韓流スターのように彼を扱わないことを切に希望する。

さて、フェドセーエフであるが、83 とはとても思えない、異様な若さを感じさせる。当然立ったままの指揮であり、それどころか、指揮台に勢いよく駆け上る元気さである。だが、今回のプログラムを読んで初めて知ったことには、彼は今年の 2月に突然倒れてモスクワの病院に運ばれて緊急入院したらしい。病名はよく分からないが、かなり重篤な状態であった由。ところが、その 2ヶ月後、4月上旬には指揮台に復帰、その後来日して N 響を何の問題もなく振った。それから 5月には手兵であるチャイコスフキー・シンフォニー・オーケストラと、ベルリンや台北や東京で演奏会を開き、そして今回は 1年のうちで実に 3度目の来日である。今回も前回もその前も、見たところ全く病気の影響はなく、相当頑健な人のようである (笑)。そう言えば音楽も、決して爆演系ではないものの、優雅さよりは強さを感じさせるものだ。そうであるからこそ、今回のようなロシア物の派手な曲をずらりと並べて平然と指揮できるわけだろう。ハチャトゥリアンの「ガイーヌ」は、「剣の舞」が超のつく有名曲であるが、「レズギンカ舞曲」もノリノリの名曲で、フェドセーエフはよくアンコールでも採り上げる。今日の演奏も充分に鳴っているとは思ったが、N 響はちょっとまじめすぎるかもしれない。先日 NHK でも流れた 1991年の、当時のモスクワ放送交響楽団 (現在のチャイコフスキー・シンフォニー・オーケストラ) との来日公演の伝説的なアンコールの映像がこれだ。オーケストラは崩壊寸前と言ってもよいが、小太鼓奏者が全体を最後まで引き締めた。この方、今年の来日公演でもまだ太鼓叩いていましたよ。
https://www.youtube.com/watch?v=cECWCDhBHKE&feature=player_embedded

また、最後の「1812年」は、相当な有名曲である割には実際にステージで演奏されることは少ない曲だ。ナポレオンの攻撃に耐えたロシアの勝利を祝うこの曲、皮相的とおっしゃる方もいるかもしれないが、祈り、戦争、敵の敗走、勝利の凱歌と遷り変わる描写が秀逸で、しかも旋律が美しく、大変迫力に富んだオーケストレーションでできているので、私にとっては中学生の頃以来熱愛している曲である。83歳のパワーが炸裂、最後にはずらりと並んだトランペットとトロンボーンが起立して吹きまくっていた。終演後、指揮者は個別の奏者を立たせることなく、オケの全員を何度も立たせていた。総力戦で敵を撃退したという感じであったのだろう。

帰宅してから、過去に自分が行ったフェドセーエフの来日公演のプログラムを引っ張り出してみると、1986年来日時にサインをしてもらっているのを発見。このときの曲目は、チャイコフスキーの「ロメオとジュリエット」、ストラヴィンスキーの「ペトルーシュカ」、ムソルグスキー = ラヴェルの「展覧会の絵」であった。まだ覚えていますよ。このときの来日公演の何通りかの曲目を眺めてみて、どれがよいかを考えると、今でもやはりこの日の演奏会を選ぶだろうなぁと思う。我ながら 30年近く進歩がないと思いつつ、ま、言い方を替えれば、チョ・ソンジン並に若い頃から感性が確立していたということか、などと都合よく解釈したりする (笑)。当時の私は 21歳になるところ。まさしく、今のチョ・ソンジンと同じ年頃なのだ!! 私のような凡人ではあっても、人には誰しも、それぞれ歴史があるもの。たまに振り返ってみるのもよいだろう。でも、明日はまた別のコンサートだ (笑)。前を向いて行きましょう。
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by yokohama7474 | 2015-11-21 00:44 | 音楽 (Live) | Comments(0)
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