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コードネーム U.N.C.L.E (ガイ・リッチー監督 / 原題 : The Man from U.N.C.L.E.)

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ガイ・リッチーの新作と聞いて、何を置いても見に行こうと思ったのであるが、よく分からなかったのはこの題名だ。「コードネーム UNCLE」だと? Uncle とはもちろん、英語で叔父のこと。題名だけ見ると、なんのことやら分からない。そんなこともあってだろうか、11月14日に封切られたこの映画、それほどヒットしているようには思われない。私が見たときも、レイトショーとはいえ、観客は一桁の人数であった。どうも宣伝に問題ありではないかと思いつつ、今ここで私が騒いでもわめいても、時既に遅しなのであろうか。この監督の次回作、大丈夫だろうか・・・。せめてこの記事で、この映画の真価に少しでも迫りたい。

まず題名から行こうか。私も知らなかったのであるが、この U.N.C.L.E. は、邦題でもご丁寧にアルファベットの間にポツがついている通り、何かの略号だ。何の略号かというと、"United Network Command for Law and Enforcement"、つまり「法とその執行のための連合ネットワーク司令部」ということだが、まあ要するに悪と闘う陰の国際組織ということだろう。これは 1960年代のテレビドラマ、「0011ナポレオン・ソロ」のリメイクである。このドラマ、昔日本でも放送していたのは知っているものの、スパイ物という以上の知識は私にはない。今般改めて調べてみると、米国のエージェント、ナポレオン・ソロとソ連のエージェント、イリヤ・クリヤキンが、ともに悪と闘うという内容らしい。なるほど、こんな雰囲気でしたね。
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そもそも冷戦真っ只中の時代、米国とソ連がともに闘うという想定はなかなか大胆なものであったろう。あるいは、現実を描くのはあまりに過酷なので、少し夢物語調を追い求めてそのような展開になって行ったものか。いずれにせよ今は既に 2015年。ソ連崩壊から四半世紀を経て、そのような時代のドラマをどのようにリメイクすべきか。以前「キングスマン」の記事でも触れた通り、世界の大きな対立構図が消えてしまった今となっては、スパイが何を相手に闘うかという設定は非常に難しいものとなっている。この映画の脚本・製作・監督であるガイ・リッチーは、もともとのテレビドラマへのノスタルジーもあるのだろう、1960年代当時を舞台として設定した。そうすると、時代の制約によって、「キングスマン」や「ミッション・インポッシブル」に出て来るようなコンピューターハッキングや GPS や極小のハイテク器具などは使えない。そもそも携帯電話は世の中に存在せず、トランシーバーが主要な通信手段であり、部屋に仕掛ける盗聴器は虫みたいに大きいし、せいぜいが自動車に載っている巨大な移動電話が最新鋭機器だ。そんな設定で観客を楽しませるにはどうすればよいか。まずは演出、そして役者の演技、最後にストーリーということになろう。

ガイ・リッチーの名前が一般にどの程度浸透しているものかよく分からない。まあ、マドンナの元旦那ということで知られているとは言えるであろうか。だが、映画ファンにとっては、「ロック、ストック & トゥー・スモーキング・バレルズ」、「スナッチ」、そして、ロバート・ダウニーJr.とジュード・ロウのコンビによるシャーロック・ホームズ・シリーズによって、現代の最も注目すべき監督であるという認識がされているであろう。私も、上記の最初の 2作に完全にノックアウトされた口である。この監督の作品は、何が何でも見なければならないと思わせる、数少ない監督のひとり。今回の映画の映像においてまず注目すべきはその、昔のテクニカラーを思わせる若干毒々しい色彩であろう。一貫して何やらノスタルジックな雰囲気を作り出している。ただ、初期の 2作の強烈さに比べると、カメラワークや細部の演出の凝り方は少し大人しくなったかなと思う。彼の作品でおなじみの、人を食ったような超接写のスローモーションは、この映画ではあまり見られない。あるいは、マッドサイエンティストを倒す場面のとぼけたブラックさも、面白いけれども、かなりマイルドだ。もしかすると、そのあたりにこの映画の「中途半端さ」があるのかもしれない。

印象深かったのは、役者たちがいずれも性格の良さを感じさせる点で、ここにはスパイの非情な掟が取り返しのつかない悲劇を巻き起こすという事態は発生しない。主役のナポレオン・ソロは、このがっちりした爽やかさ (?) はどこかで見たと思ったら、現在進行中のスーパーマンシリーズの第 1作「マン・オブ・スチール」で主役を務めたヘンリー・カヴィル。来年は「バットマン vs スーパーマン」で、バットマンを演じるベン・アフレック (!) と対決する (?) らしい。考えてみれば、スーパーマンはこの映画のように銃を撃たないから、このような彼のショットは貴重かもしれない (笑)。
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イリヤ役のアーミー・ハマーは、本物のロシア人ではなくアメリカ人 (曾祖父がロシア系ユダヤ人とのこと) だが、ボソボソとロシア風の英語を喋り、その押し殺した感情の下から人のよさがにじみ出てくるキャラクターを演じて好感が持てる。
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この 2人のスパイと行動をともにするドイツ人女性、ギャビーを演じるのは、スウェーデン人のアリシア・ヴィキャンデル。初めて目にする女優だが、こんな感じなので、堅物のイリヤが心動かされるのも理解できるなぁ。カー・チェイスなどで実際の能力の片鱗を見せながらも、どこか初々しい役柄を巧みに演じている。
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そして、悪役であるイタリア人女性ヴィクトリア役は、オーストラリア人であるエリザベス・デビッキが演じていて、大変美しい。敵役はこうでなくてはと思わせるのだ。ところが、調べてびっくり。彼女は、「エベレスト 3D」で、ベースキャンプの心温かくも冷静な、髪を三つ編みにした医師を演じていた、あの女優なのだ。見ていて全く気付かなかった。さすが女優。化けています。あの名作、バズ・ラーマン監督の「華麗なるギャツビー」にも出ていたらしい。
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まあそんなわけで、それぞれにいい顔をした役者たちを見るだけでも、この映画には価値がある。ストーリーはどうかというと、私は結構面白いと思った。ノルタルジックな時代設定の中、趣向を凝らしたアクションが満載だが、敵をやっつけるのにそれほど奇抜なアイデアが出てくるわけではなく、素直に見ていればよいので、一般受けすると思う。ヒュー・グラントの役なども、別に驚くほどの内容ではないものの、嫌味もなく、ストンと落ちる感じ (?)。この方、ベテランの味が出てきましたね。これからが期待されますよ。
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この映画があまりヒットしなかったとするなら、なんとももったいない話。せめてこのブログでは、普通に見て面白いので、お奨めですと申し上げておこう。

by yokohama7474 | 2015-12-02 00:02 | 映画