2015年 12月 12日
シカゴ・ウェストン・コレクション 肉筆浮世絵 - 美の競艶 上野の森美術館
この展覧会は、個人コレクションとしては世界有数の規模と質を誇るシカゴの日本美術収集家ロジャー・ウェストン所蔵の肉筆浮世絵約 130点からなる。江戸初期から明治に至る、50人以上の絵師たちの作品が展示されている。浮世絵と言えば色鮮やかな版画を思い浮かべるのが通常だが、ここに並ぶ作品はすべて肉筆画。もちろん版画の浮世絵も素晴らしいが、肉筆ともなると世界で一点しかないわけで、そこには画家の真剣勝負の軌跡が明確に残っているものだ。また、保存状態のよい浮世絵は、日本国内よりも海外に残っているケースが多いようだ。それは、西洋人が浮世絵の美しさに感嘆したために、その価値に相応しい敬意を持って大切に維持保存したという事情によるものだろう。日本人はどうも自分たちの持てる能力を客観的に評価することを苦手としていると思われてならない。最近では少し変わってきているようにも思われるが、でもやはり、浮世絵展よりモネ展の方が圧倒的に人気が高い点を思うと、やっぱりまだまだ西洋崇拝は根強く残っているのだろう。だが、よく知られているように、モネは浮世絵から多大な影響を受けているわけで、浮世絵がなければ、我々の知るモネもなかったわけである。・・・まあこの話を始めると長くなるのでこの辺で気分を切り替え、この展覧会の作品について感想を書いて行こう。
そもそも浮世絵とは、浮世、つまり現実世界の営みを描いたものであり、描かれる対象は非常に広い。もちろん版画によって一般庶民に広く普及したものであろうが、その代表的な画家と認識されている歌麿や北斎は、一方で沢山の肉筆画を残している。また、一般に浮世絵の祖と言われる菱川 師宣 (ひしかわ もろのぶ 1618? - 1694) の代表作、「見返り美人」は実は肉筆画なのである。このように、江戸時代を通して肉筆浮世絵は描かれ続けたのだが、この展覧会は、その浮世絵の源流から始まる。もともと 16世紀前半 (つまり戦国時代だ) に京都を中心とした上方で、現実世界の題材が描かれ始める。そして江戸時代に入り、寛永 (1624 - 44)・寛文 (1661 - 73) 頃には富裕な民間層の依頼によって歌舞伎や遊里が描かれるようになった。寛文美人図と呼ぶらしいが、主として寛文年間に描かれた、主として一人立ちの美人図のジャンルがある。この展覧会では、LED 照明によって極めて鮮やかに浮かび上がる寛文美人図の数々が、まず訪問者の目を射る。こんな具合だ。