007 スペクター (サム・メンデス監督 / 原題 : Spectre)

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007 シリーズの第 24作。ある時期から街に上のようなポスターが貼り出され、その原題、SPECTRE を見て、「スペクトレ」って何だ? と思われた方もいるかもしれない。英国の英語は、米国の英語と違って、時に RE を ER の発音で読むのである。よってこれは「スペクター」と発音する。ま、日本語表記もあるから余計な心配は無用ですが (笑)。

私はこのブログでいろいろなことを問わず語りに白状しているが、ここで新たに白状すると、007 シリーズをほとんどまともに見たことがない。それは、幼時より怪獣・幽霊・物の怪の類が登場する超常現象の方が、現実世界で人と人、あるいは国と国が争い合う話よりも興味があったからだ。それからもうひとつ。初代ショーン・コネリーは胸毛とポマードのバタくさい印象で子供心に親近感を覚えず、またロジャー・ムーアやピアーズ・ブロスナンは甘いマスクのために、どうにも精悍さが足りないような気がしていたのだ (すぐ女を口説くのもけしからんと思っておりました 笑)。その点、今回が 4作目となるダニエル・クレイグには、なんというか、危ないまでの精悍さがみなぎっていて、世の中の正統派ジェームズ・ボンド・ファンと逆行するかたちで (?)、彼によって初めて 007 物に興味を持ち始めたのである。前作「スカイフォール」はボンドの生い立ちに遡りつつ、なんとも陰鬱な色調の映画に仕上がっていたが、今回のこの「スペクトレ」、じゃなかった「スペクター」もストーリーはつながっていて、やはりボンドの幼少期に立ち入って行く。既に冷戦の存在しない時代、敵の見えない環境において、スパイ映画はこのような展開を示すしかないのかもしれない。その意味では、相変わらず終末感に終始伴われた映画であるとも言える。

映画はメキシコの「死者の日」の風景から始まる。
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「The Dead are alive. 死者は生きている」というモットーが画面に出て来て、この強烈なラテンの祭の雰囲気を文字で伝えてくるが、監督のインタビューによると、「ほこりまみれの暑くエキサイティングな場所に観客を放り込もうと考えた。死者の祝福というのがこの映画のテーマにつながっている」とのこと。なるほど、映画を見終った今となってはそれはよく理解できる。いやそれにしてもこの「死者の日」、行ってみたいなぁ。以前から大変興味がある。エイゼンシュテインの「メキシコ万歳」などという古い映画もありました。

映画のテンポは非常によく、このメキシコのシーンからローマ、アルプス、モロッコと舞台が移り変わり、その一方でロンドンの MI-6 での諜報戦略の転換が描かれて行く。これは「ミッション・インポッシブル」も同じだが、旧態然とした諜報組織 (ここでは 00 = ダブルオー = Project) は時代遅れとして、実戦を行っているスパイの活動が止められてしまう。まあもちろんスパイ映画である以上は、そのような敵対勢力は最後には手痛いしっぺ返しを食うのであるが。ところでこれが MI6 のビルという設定。これ、ロンドンのテムズ川沿いに実在するビルで、ヴィクトリア駅から南の方のガトウィック空港方面に向かう際に、へぇー、何のビルだろうと思ってよく眺めていたものだ。
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ここでストーリーを追うのは避けることにして、印象的なシーンをいくつか。ロケ地という意味では、「ミッション・インポッシブル ローグ・ネーション」の記事でもご紹介した、オックスフォード近くの世界遺産、ブレナム宮殿が今回も登場する。悪の組織スペクターの会合が開かれる場所の入口という設定だ。もっとも映画ではそれはローマにあるという設定である。ローマのシーンでの中心はなんといってもカーチェイスなのであるが、ここでボンドの乗る車は、いわゆるボンド・カーを提供してきたアストン・マーチンが、市販用ではなくこの映画のために開発した DB10 という車種。私は車の知識はまるっきりないが、おー、こりゃカッコいい。子供みたいな感想ですみません。
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そこでチェイスをする相手とは、モロッコを走る長距離列車の中でも格闘することになる。
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このシーンは、何気なく見ていればまあ普通のアクションシーンと言えるだろうが、私の目には、この凄まじい肉弾戦の感覚こそが、ダニエル・クレイグの非凡さを如実に表していると思えた。列車という狭い場所を選んだ点も効果的で、映画がカット割りという技術で断片をつないで行くということを忘れさせるほど、迫真力に満ちたシーンである。これを見ると、もし自分が人生のどこかの時点で運悪く悪漢と素手で取っ組み合うような事態に陥っても (まぁ、あまりないとは思うが 笑)、このように戦えば勝てるのではないかと思われてくるから不思議だ。この立ち姿、精悍ではないですか。
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さて、ジェームズ・ボンドと言えばボンド・ガールだが、今回はフランス人女優、レア・セドゥ。ウッディ・アレンの「ミッドナイト・イン・パリ」や、「ミッション・インポッシンブル ゴースト・プロトコル」などにも出ていたようだが、全然記憶にない。今回は予告編で、濡れた瞳で「スペクター」と悪の組織名を告げるシーンが印象的であったが、全編を見てみると、うーん、どうかなぁ。英語にフランスなまりが全然ないのはよかったが、役柄が自立した女性という点を中途半端にしか描いておらず、またコケティッシュな雰囲気というより少し線が太い感じで、意外性 (例えば、か弱い女性が必要に迫られて逞しく活躍するといった設定... 少しその要素はあるが) をあまり強く感じられなかったのが残念。
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それよりも、少ない出番で強い印象を残すのは、こちらはイタリアの至宝 (?)、モニカ・ベルッチだ。今年 51歳と、さすがにちょっと年取りましたがね。
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もちろん女優だけでなく、ボンドの上司役であるレイフ・ファインズなど、いい味出している。それにしてもこの映画、主要登場人物全員のポスターを作っているのか?!
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ポスターには顔の出ていない (笑)、監督についても触れておこう。サム・メンデス。名前はなんとなく聞いたことがあるような気がする。監督デビューはケヴィン・スペイシー主演の「アメリカン・ビューティー」で、それ以外でも「ロード・トゥ・パーディション」の監督でもあり、この 007シリーズの前作「スカイフォール」も彼の手になるものだ。実はダニエル・クレイグは「ロード・トゥ・パーディション」に出ていて (そうでしたかね?)、それ以来のつきあいであるようだ。なかなか腕の立つ監督であると思う。1965年生まれだから私と同い年のイギリス人の監督だ。
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さて、全編 148分に及ぶ大作であったが (007 シリーズで最長である由)、全く退屈することなく見ることができた。強いて言えば、いくらオメガがスポンサーとは言え、その時計を活用するシーンでは、おいおい、このシチュエーションだと時計外すだろうと思ったことは否めないことくらいか。ありえない設定も許せてしまう、流れのよさがある映画だ。

ただ、今後このシリーズはどうなって行くのだろう。これだけボンドの幼少の頃に踏み込む一方で、明らかに敵の存在は見えなくなって来ている。また、最後のシーンでは、ボンドは MI6 を辞め、彼女を助手席に乗せた昔ながらのアストン・マーチン DB5 でいずこともなく去って行くのだ。過度にノスタルジックな雰囲気にはなっていないものの、やはりある意味での終末感は漂っている。
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ダニエル・クレイグの好調ぶりから言っても、ここでシリーズが終わってしまうことはないように願いたいが、でも、次は「ジェームズ・ボンド vs イーサン・ハント」なんていうのはやめて下さいや。ま、「ジェームズ・ボンド vs スパイダーマン」よりはいいかもしれないが・・・。私の方では以前、「スカイフォール」に先立つ 22作のセット DVD を買ってあるので、徐々にキャッチアップします。

by yokohama7474 | 2015-12-23 00:34 | 映画 | Comments(0)
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