鎌倉 鶴岡八幡宮 / 鎌倉国宝館 (肉筆浮世絵の美)

2016年の初詣は、既に元日に芝の増上寺詣でで済ませたことは記事で採り上げた通りだが、今回、神奈川県立近代美術館 (カマキン) の最後の展覧会に出向いた機会に、隣接する鶴岡八幡宮に詣でることとした。以前鎌倉からほど遠からぬところに住んでいた頃、大晦日の深夜に初詣としてここに来たことがあったが、さすがに関東有数の初詣スポット、押すな押すなの大変な人出で、多くの警備員たちが長いロープで人の列を時折切りながら、少しずつ前に進めていたものであった。今回は 1月も既に 9日目。それほどの混雑ではないが、ただそれでも、本殿に続く石段の上で人が右往左往しようものなら危ないことこの上ないので、石段下でロープによる人数制限がなされている。それゆえ、時間帯によって以下のような光景の違いが現れる。昔読んだ心理学の本に、同じ風景でも、沢山人がいるときといないときで印象が違うということから人間の感覚の狂いが生じると書いてあったが、うーむ、ちょっとシュールです。
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いやそれにしても、日本人は初詣が好きだ。日本の悪いところをあれこれ考える機会も多い私だが、こういうときには「善男善女」の一群として、おとなしく警備員たちの指示に従う日本人は、充分に公共の精神のある人たちだなと思う。この日は天気もよく、朱塗りの門が青空を背景として本当に清々しい。
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大銀杏はが倒壊してしまってからもうすぐ 6年だが、若木がすくすくと育ってきていて、何やら勇気づけられるものがある。今後この木の成長が人々の心の支えになって行くことだろう。神社のサイトにも説明がある。

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https://www.hachimangu.or.jp/about/guidance/ooicho.html

面白かったのは警備員の人たちの服装だ。男女ともに、ドデかい腕章のついた赤くて長い派手なマントに帽子 (男は黒、女は赤) をかぶり、軍隊調というかコスプレ風というか、多くの人たちを颯爽と捌く姿がなかなかカッコイイ。
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さて、今年も商売繁盛を祈念して (ん? もしかして神様間違えてる???)、鎌倉国宝館へ。ここへは多分 15年かそれ以上行っておらず、久しぶりにちょっと覗いてみたいと思ったのだ。すると、あっ、こんなポスターが。
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昨年の記事で大絶賛とともにご紹介した、上野の森美術館で開かれているシカゴのコレクションによる「肉筆浮世絵展」(1月17日まで) の向こうを張った展覧会ということか。これはますます楽しみだ。国宝館に入ってみると、右側には平常展示の仏像の数々が展示され、左側ではこの肉筆浮世絵の展覧会が開かれている。仏像コーナーでは、近年修理された薬師三尊とその眷属である十二神将がなんとも存在感を放っている。これはもともと辻薬師堂という鎌倉市内の小さなお堂にあったものを鎌倉市が管理しているもの。頼朝が創建した東光寺の境内にあったお堂と言われているらしい。本尊の薬師如来は平安時代の作。十二神将は 8体が鎌倉時代、4体が江戸時代のもの。等身大よりは一回り小さく、出来栄えも第一級とは言い難いが、揃って黒光りしており、なかなかの迫力である。運慶が鎌倉で彫ったと伝えられる大倉薬師堂というところにあった十二神将の早い頃の模刻とも言われているらしい。
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また、この国宝館の顔とも言える、円応寺の初江王、明月院の上杉重房像などとも久しぶりの再会だ。鎌倉時代の彫刻の特徴は、その人間的なこと。特に武士の都であったここ鎌倉では、神韻縹渺たる如来像よりも、荒々しさ、あるいは人間くささがふさわしい。
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さて、一方の「肉筆浮世絵の美」展であるが、これは、氏家武雄というコレクターの蒐集品で、昭和 49年に鎌倉市との協力によってここ鎌倉国宝館を所在地とする財団法人となり、平成 24年に公益財団法人に移行したとのこと。氏家は昭和初期に製薬会社を設立して財をなし、国内の美術品が海外流出することに心を痛め、40年かけて肉筆浮世絵をコレクションしたとのこと。その昭和 49年に日経新聞に掲載されたのが以下の記事。日経には今でもこのコーナーがあり、時に驚くような執念を実らせる人の話が載っていて面白い。
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氏家コレクションは全部で 60点弱のようだが、今回の展覧会では 37展が展示されている。上野の森美術館でも見た菱川師宣、懐月堂派や宮川長春、一笑師弟、京都の西川祐信 (すけのぶ)、そして歌麿に加え、多くの北斎 (またはその周辺) が含まれていて、見応えは充分だ。ただ、上野の森美術館の LED を使用した鮮やかな色彩を見てしまうと、通常のライトでの展観では満足できないところもあり、その点は少々残念だ。以下、菱川師宣の「桜下遊女と禿図」、そして宮川長春の「美人立姿図」。
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美人画だけでなく、様々な当時の風俗を描いた作品がここでも誠に楽しい。これは、奥村政信の「当流遊色絵巻」。いやなんとも楽しそうに踊っている。
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上述の通り、北斎が幾つも展示されているが、全部が全部本人が描いているようには正直思われない。だが、なんでもこなしたこの天才画家の凄さを垣間見ることができる。これは「酔余美人図」。酔った遊女のしどけない姿態であるが、色っぽいのに下品な感じが全然しない。真っ赤な盃を見て、「あちきを酔わせるなんてひどいでありんす」などとつぶやいているのだろうか。
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これは「蛸図」。北斎の蛸と言えば、有名な春画 (私は行けなかったが、先般開催されて話題になった春画展にも出ていたらしいし、新藤兼人監督の昔の映画「北斎漫画」というのもあった) があるが、これはタコの表情を正面から描いたシンプルなもの。だが、巧まずしてユーモラスな感じが漂っている。「ええっと、ボク、何か悪いことしましたっけ」とトボけているようでもある (笑)。
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かと思うとこの「桜に鷲図」の峻厳さと力強さはどうだ。このとき北斎実に 83歳。おそるべき生命力だ。
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そんなわけで、短い時間ながら新春の鎌倉を満喫した。小町通りで少し買い物もしたが、そこはまさに人の海になっていた。ただ、普段は混雑が大嫌いな私も、天気のよい新春の一日の散策では、人波に揉まれながらも穏やかな気分であった。それはやはり、この鎌倉という街が持つ懐の深さということなのではないだろうか。次回はお寺回りをしに来よう。

by yokohama7474 | 2016-01-11 18:52 | 美術・旅行 | Comments(0)
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