東京都 稲城市の仏像 (常楽寺、よみうりランド 聖地公園)

成人の日にあたる 1月11日 (月)、1 並びの縁起のよい日に、稲城市に出掛けることとした。稲城市ってどこよ? と思われる向きもあるかと思うが、そうですね。私もそう思いました (笑)。稲城市は東京の西部。実は我が家からは多摩川を遡った上流にあたる。こんな位置だが、これは分かる人には分かるが、分からない人にはさっぱり分からない地図でしょうな。
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なぜ、今までの人生で縁もゆかりもなかった稲城に初めて行ったかというと、昨年の 10月に星になった我が家の愛犬、メスのビーグル、ルルの遺骨がこの地に埋葬されているからだ。個別の墓を作ることはしなかったが、ここの集団墓地に合祀されているので、一度お参りしようと思ったもの。ルルのかたちはこの世からなくなってしまったものの、我々夫婦のすぐ横に今でもいると感じているので、感傷的になることなく墓参りすることとした。・・・まあ、やはり哀しいのですがね・・・。

ともあれ、この稲城の地に素晴らしい仏像が何体かあることを知り、この機会に拝観することとした。まず最初は、常楽寺である。遠く奈良時代、実に行基菩薩の開創と伝わる古刹である。現在では天台宗であり、街中にあるが、なかなか立派な門構えだ。
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実はこの寺、調べてみると、あの仮面ライダーで、カマキリ男のアジトとしてロケされた土地であるという。うわー、これ、私が子供の頃の話ですよ。行基菩薩の頃よりは時代は降るものの (笑)、相当昔の話である。この門はその撮影当時はまだなかったようですな。
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幼い頃の思い出はそれとして、ここで拝観すべきは、東京都指定文化財の仏像だ。江戸時代、化政期 (19世紀初頭) に編纂された、新編武蔵風土記稿の中に、行基が阿弥陀三尊を自ら刻んだと記されているらしく、まあ、行基の時代に日本に阿弥陀信仰があったか否かはともかく、古くから土地の人たちに親しまれ、崇められた仏像が、大切に保管されているということだろう。以下が阿弥陀堂。観光寺ではないので普段は閉まっているが、事前にお寺に連絡をしておき、お堂を開けてもらった。多摩川三十三霊場の札所のひとつになっているらしい。
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ご本尊の阿弥陀如来はさすがに行基の時代、つまり奈良時代には遡らないが、平安時代末期、12世紀半ばの作とされていて、関東の仏像としては異例に古いものだ。大きさはいわゆる半丈六で、さほど大きくはないし、同時代の中央の、例えば定朝様の洗練された仏像には彫刻技術は及ばない。だが、造形的に無理はないし、間近でご尊顔を拝するとわずかに朱が残っていて長い歴史を感じさせ、その佇まいはなんとも神々しいのだ。この関東の地で大事に守られてきた仏さまであることがひしひしと感じられ、人々の素朴な信仰心を実感することができる。
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さすがに堂内の写真撮影ははばかられたので、お堂の扉を開け放った様子だけ外から撮影した。堂内は天台宗に典型的な内陣と外陣がはっきり分かれた形態であるが、冬の澄んだ空気が、この世と聖なる空間との境界を曖昧にする中、自然光に照らされた阿弥陀三尊の佇まいには、本当に心が洗われる気がする。尚この寺にはもう一体、江戸時代の閻魔大王像が東京都指定文化財となっている。カマキリ男も、しゃれた場所をアジトにしたものだ (笑)。
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さて、稲城の仏像めぐり、その次に向かったのは、よみうりランドである (実際には敷地が稲城市と川崎市にまたがっているようだが)。えっ、これは単なる遊園地ではないのか?! そんなところに仏像があるわけないよね!? 確かに、入り口を入ってすぐのこのような景色からは、仏像のことを連想することすら不可能だ。ここのキャラクター、ランドドッグが出迎えてくれ、後ろに見えるのは、ここの名物であるバンデット (Bandit --- 英語で悪漢とかならず者という意味。昔、「バンデット Q」という映画もありました) というジェットコースターのレールである。
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だが、少し進むと、あっ、あれはなんだ!!
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複雑に絡まるバンデットのレールの向うに、何やらアジアの仏塔 (パゴダ) が見えるではないか。ちょっと行ってみよう。どれどれ、園内の地図によると、あー、これだ。見えにくいが、左の端、バンデットのレールの奥、現在地表示の上の方に、「聖地公園」という緑色に塗られた場所がある。でも、何の説明もないので、とにかく行ってみるしかない。
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アシカショーをやっている場所を右手に見て、この看板に従って進んで行く。
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ええっと、何やら全く人影が見えない、閑散とした場所になってきたぞ。この細い道を、バーベキューハウスを通り過ぎて行くらしい。
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バンデットの絡み合ったレールの横や下を通り、若者たちが絶叫を挙げているのを聞きながら歩いて行くと、動物たちの慰霊碑というものがある。今回はもともと我が家の亡き愛犬の墓参りなので、このような石碑に心を動かされる。少し行くと滝まである。実はこのあたり、夏には蛍を見ることができるとか。
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さらに進んで行くと、あっ、見えてきました。これは多宝塔である。こじんまりしているものの、なかなかシャープな形である。17世紀の建造で、もとは兵庫県加古郡の無量寿院という寺にあったものらしい。この多宝塔の本当にすぐ上を、遊園地から京王線のよみうりランド前駅まで運行されているゴンドラが通っていて、ちょっとびっくりする。

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さて、この先に進む前に、この場所が何であるかをご説明しよう。この聖地公園は、1964年のよみうりランド開園時からここに存在し、もともとのコンセプトである「娯楽・宗教・文化・スポーツ」に基づいてここに作られたものであるようだ。読売新聞の社主であった正力松太郎という巨人が、このような一見ミスマッチな構成を考えたものであろうか。もちろん昭和の時代に入っても、いろいろな古美術の収集とか歴史的建造物の移設の例はあれこれある。だがなんと言ってもここが面白いのは、寺ではなく遊園地の中におきざりにされたようなこの雰囲気と、そこに収められている仏像の素晴らしさなのだ。まず、平安時代初期、9世紀前半に作られた聖観音像。
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入り口に鍵のかかったお堂の外から、「あなたを広くインターネットでご紹介するからお許し下さい」と心の中で念じて撮影したもの。というのも、この仏像は明らかに古く、また明らかに一流の仏師の手になるもので、堂々たる国の重要文化財なのだ。見事な衣文の処理や、左足に重心をかけた姿勢など、奈良時代末期から平安時代初期の特徴が顕著だ。まさほとんど人のやってくることのない遊園地の片隅に、これだけの仏像があろうとは・・・。堂の前に掲げてある説明版によると、京都の長岡京市に今も存在する楊谷寺 (ようこくじ) にもともとあったものだという。千年以上も前にこの仏像を彫った仏師は、その数奇な運命を知ったらきっと驚愕するであろう。

もう一体にはさらに驚きだ。このような六角円堂に入ってみる。
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これは、1301年作の妙見菩薩像。やはり国指定の重要文化財である。妙見菩薩とは、中国の星宿思想における北極星を神聖化したもので、このように彫刻で表されるのは珍しく、重要文化財に指定されている彫刻は全国でもこの一体である。制作年がはっきり分かるのは、銘があるからのようだが、もともとは伊勢神宮外宮の妙見堂にあったものとのこと。鎌倉時代の仏像らしく写実的で、その存在感が素晴らしいが、その一方で、なんとも言えない神秘性があるのだ。柵に覆われてはいるものの、堂内に入ってぐるりを回って至近距離で拝観できるので、飽きることなく何周もぐるぐる回ってしまった。このような小さなお堂で一人淋しく佇んでおられるのはもったいない。是非多くの人々に見て頂きたい。

実はこの妙見堂の横に小さな小屋があって、そこに管理人のような女性がいたので、堂内に入ってもよいことを確認させてもらったが、調子に乗って、先の聖観音像も堂内で拝観したいと申し出ると、快く鍵を開けて頂いた。近くで拝観すると、お顔に浮き出た年輪が絶妙の気品を漂わせていて、やはり素晴らしい仏像であることが分かった。「宣伝していないのでほとんど人は来ませんね」と淡々と語る管理人さんの口ぶりが印象に残ったが、やはりもったいない話である。

また、釈迦の舎利と髪 (それぞれ、スリランカとバングラディシュから贈られたもの) を安置するパゴダ = 仏塔の中にも入れて頂いた。これが入口すぐのところから見えていた建物だ。
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仏舎利と釈迦の遺髪は、それぞれ金色の容器に収められてガラスケースに入っているが、管理人さんによると、掃除のときに開けてみると、中には本当に骨と髪が入っていたとのこと。DNA 鑑定できるわけではないので、真実として釈迦のものか否かは分からず、多分に宗教心によって評価が左右されるものと思うが、多くの人に、実に尊いと思わせるものであることは確かだろう。

さてこの聖地公園、ほかにも面白いものがまだまだある。これは、八祖師像。日本の仏教八宗の開祖、つまり、最澄、空海、法然、栄西、親鸞、道元、日蓮、良忍の彫像。いわば日本仏教のオールスターだ。さすが読売、往年のジャイアンツのメンバーのようですな。
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これは聖門という名のついた門。もともと京都御所にあったものを、石庭で有名な龍安寺を経てここに移築されたらしい。
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ここは神社ではないのだが、このような狛犬も、なんとも雰囲気になじんでいるのだ。
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さらに、ウッドオパール (木の化石がオパール化したもの) や、遠くインカ帝国の国宝も。
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以前この場所は水族館であったらしく、そこで昭和天皇が詠んだ歌。当時の侍従長、入江相政の揮毫になるもの。
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とこのように素晴らしい文化的な空間である聖地公園。特に 2体の仏像は素晴らしく、たまたまこの地の近くに眠ることになった亡き愛犬のことをよろしくお願いしますと祈りを捧げて、すがすがしい気分で遊園地に戻ったのであるが、途中でまたまた注意を惹く看板に出くわし、神聖さとギャグの混在に目が白黒だ。まず、ジェットコースター「バンデット」のレールの下に見えたのがこれ。
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いやいや、「デッド」はまずいでしょ (笑)。ゾンビじゃないんだから。バン「デット」。「デット」ですよ。と思うと次はこれだ。
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手前には「遊園地に入ることはできません」とあるのに、奥には「遊園地はこちらです」とある (笑)。どっちなんだよー。いや、正解は遊園地につながっているのだが。

こうなるとそのまま帰るのも惜しくなり、観覧車に乗ってみました。かなり高くまで上り、少し怖くなるくらいであったが、慣れてくるとなかなかに気持ちがよい。遠く新宿の高層ビル群が見える。
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初めて来た稲毛市。なかなかに味わい深い場所でした。ご縁をくれた亡き愛犬、ルルに感謝!!

by yokohama7474 | 2016-01-14 22:41 | 美術・旅行 | Comments(0)