クリムゾン・ピーク (ギレルモ・デル・トロ監督 / 原題 : Crimson Peak)

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ニューヨークに住んでいた 2007年頃、何やら私の琴線に触れる不気味な映画のポスターが私の目をとらえた。それはスペイン映画で、"Pan's Labyrinth" という題名。日本での公開もそのまま「パンズ・ラビリンス」であったようだが、ここでのパンとは、手のひらに目のある不気味な妖怪のような存在。ラビリンスはもちろん、迷宮という意味だ。結局私はこの映画を、廉価で購入してきた DVD で英語字幕とともに自宅で見たのだが、少女の見る幻影が不気味でありながらなんとも切なく、大変感動して、ラストではかなり涙腺が危なくなってしまった。こんなイメージだ。感動の超大作という感じがするでしょう (?)。
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今回の映画、「クリムゾン・ピーク」は、その「パンズ・ラビリンス」と同じギレルモ・デル・トロ (メキシコ出身) の脚本、製作、監督による作品。しかも上のポスターを見ると、なにやら不気味なゴシックホラー風だ。これは見るべき映画であろう。そもそもクリムゾンと名の付く映画は、「クリムゾン・リバー」「クリムゾン・タイド」など、タイプは違えどなかなか優れた映画が多い。クリムゾンとは、濃い赤色のことだから、毒々しい血のイメージと通じるし、言葉の響き自体がなんとも不気味で重々しくて、なかなかよい。もちろん、ロックバンド、キング・クリムゾンの名称もこの色に因むものであろう。このような屋敷が丘 (ピーク) の上に建っていて、冬に雪が積もったときに粘土質の土が浮き出て血のように雪を染める現象を、クリムゾン・ピークと呼んでいるという設定だ。
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この映画の舞台は 20世紀初頭の米国と英国。新旧両国の当時の微妙な関係が物語のひとつの大きな背景になっている。英国の旧家は没落し、準男爵という称号を持つ男が新たなビジネス機会を求めて姉とともに米国へ渡り、そこで知り合った女性と結婚して英国の古い屋敷に戻ってくるというストーリー。その花嫁イーディスを演じるのは、ティム・バートンの「アリス・イン・ワンダーランド」のアリス役を務めた、ミア・ワシコウスカ。
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1989年生まれだから、2010年作のアリスの映画では当時既に21歳。正直、アリスというイメージとは違ったし、全然可愛らしいとも思わなかったが、その不思議ちゃんな雰囲気だけはよかった。そのアリスも第 2弾の予告編が今劇場でかかっており、さすがに 20代後半のアリスはどうかとも思うが、ジョニー・デップやヘレナ・ボナム・カーターが相変わらず嬉々として演じているので、きっとそれも、公開されたらやむなく見に行くことになるのだろう。ともあれこの映画でのワシコウスカは、時代もののコスチュームが意外によく似合っており、恐怖に怯えながらも真実を求める勇気を持つ女性を、巧く演じている。ニコール・キッドマンと共演した「シークレット・ガーデン」でも不気味な少女を演じており、役柄のイメージが固定して来ているきらいはあるが、この作品の雰囲気にはぴったりでしょうと言われれば、まあそうかな。でもいつか、明るい女性を演じる日が来るでしょうかね。

その相手役、トーマス・シャープ準男爵を演じるのは、トム・ヒドルストン。
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「マイティーソー」での悪役ロキが強烈な印象を残した彼であるが、私にとってはもうひとつ忘れがたい映画があって、あのジム・ジャームッシュの近作「オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ」なのだ。この映画、あまりヒットしなかったと思うが、共演のティルダ・スウィントン (あのデレク・ジャーマンの鳥肌立つ素晴らしい作品群を飾った女優だ) とともに、哀しい吸血鬼の姿をリアルに描いてみせた、上質な映画であった。今調べてみると、ミア・ワシコウスカもあの映画に出ていた。おー、そうでしたそうでした。そして、上の写真と同じ男女の俳優がこんな風に全く違う共演をしていたということがすぐに分かってしまう、ネット社会の恐ろしさ (笑)。
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そしてもうひとり重要な役柄は、トーマスの姉、ルシール・シャープ。演じるのはジェシカ・チャステイン。彼女は誰あろう、キャスリン・ビグロー監督のハードな作品、「ゼロ・ダーク・サーティ」の主役だ。その変貌ぶりをご覧あれ。
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このように豪華な役者陣を配しているこの映画、出来栄えはというと、残念ながらもうひとつと言うしかない。前半のテンポは悪くないし、例えば作家志望のイーディスを皮肉る中年の婦人との間で、ジェーン・オースティンとメアリー・シェリーが引き合いに出されるやりとりがあるシーンなど、なかなかにウィットが効いていて、時代の雰囲気もよく出ていた。ところが舞台がシャープ家の古い屋敷に移ってからは、話の展開は鈍くなり、ラストに向かって明かされる謎の内容も、別になんということもない。そもそも、登場する幽霊たちのメッセージがよく分からないし、それらの人たちが残した惨劇の証拠を犯人側がそのまま置いているという設定も、いかにも説得力がない。あの「パンズ・ラビリンス」が持っていた切なさが、ここには決定的に欠けているのはどうしたことか。のみならず、あろうことかひとりの幽霊は床の上を這ってキリキリと音を出し、あの「呪怨」の伽椰子の真似までなさるのだ (笑)。もちろん、幽霊さんたちの登場シーンに怖さがないわけではない。でも、怖さの裏にはかなさとか切なさがあってはじめて、映画としての奥行が出ると思うのに、ここではまるでお化け屋敷の幽霊たちになってしまっている。ミア・ワシコウスカが冒頭に呟き、ラストでも繰り返す、"Ghosts are real." (幽霊は実在する) という言葉が宙に浮いてしまった感じである。こうやって一生懸命スタッフが作ったみたいなんですけどね。そういえばこの幽霊の顔、作っている二人の顔を足して二で割ったようですな (笑)。
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考えてみればこの監督、「パンズ・ラビリンス」のあとにハリウッドの大作を監督している。それは、「パシフィック・リム」。日本の怪獣ものに影響された Kaiju 映画であったが、期待して見た私の評価は No Tnank You な映画で、記憶から既にほとんど消去してしまった。うーむ、これはまずい傾向だ。この監督、自らの美点をうまく発揮できない方向に向かっているのでなければよいが。その意味で、一貫してずっと自分の持ち味を活かしているティム・バートンなどをもう少し見習ってはどうか。あるいは、もう少し低予算で趣味性の高いものに回帰してはいかがか。映画のプログラムには、「完璧なキャストがもたらしてくれるのは、大胆になるためのチャンスだ。勇気を持ち、実験的になるためのチャンス、さらに馬鹿げたことを試みるためのチャンス。映画はときに馬鹿げたことをやってみていいときがある」という監督の言葉が載っているが、その言葉の通りであれば、次は是非もっと馬鹿をやって欲しい。まあこの表情は子供の純真さをまだ持っているとでも評価しておきましょうか (笑)。
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by yokohama7474 | 2016-02-02 23:30 | 映画 | Comments(0)
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