ダニエル・バレンボイム指揮 シュターツカペレ・ベルリン ブルックナー・ツィクルス第 3回 2016年 2月11日 サントリーホール

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バレンボイムとシュターツカペレ・ベルリンのブルックナー・ツィクルスの 3回目。今回の曲目は以下の通り。
 モーツァルト : ピアノ協奏曲第 24番ハ短調K.491 (ピアノ : ダニエル・バレンボイム)
 ブルックナー : 交響曲第 3番ニ短調

前日に続いて短調のコンチェルトである。こちらもドラマティックな要素を持った曲であるが、やはりバレンボイムの演奏は重い悲劇性よりも清澄さの表現を目指したものと思われた。これまでの 3回の演奏の中でも、今回は特にピアノの即興性が際立っていたと思う。常に導入部は静謐さを伴い、細かいフレーズの最後では音型を自由に変えていた。オケもそのような円熟のピアノによく付き従い、各パートの自立性と相互依存性がともに優れており、まあ一言、見事な演奏としか言いようがない。よくまとまっているのにどこかスリリングな演奏。なかなか聴けるものではない。

一方、メインのシンフォニーであるが、過去 2回が譜面を見ながらの指揮であったのに対し、今回は暗譜。全 9回のうちの 1/3 の道程にあたる今回、いよいよブルックナーの書法が充実し始めていることがよく理解できた。ブルックナーが書いたシンフォニーとしては、番号付きの 1、2、3番と、1番以前に書かれた習作の 00番、1番と 2番の間に書かれた 0番を含めて、これが 5曲目になるわけだが、ここまではチューバが使われていない。この後の第 4番以降はすべてチューバが使われるので、明確に作曲家の中の音のイメージが広がって来たものと理解される。1番、2番と順番に聴いてきた耳には、この 3番はかなり、洗練されてきたとまでは言わないまでも、楽想がまとまってきたなという印象だ。この曲は「ワーグナー」の愛称でも知られるが、それは、ブルックナーと面会してこの曲と第 2番の楽譜を見せられたワーグナーが、「(2曲の中では) トランペットで始まる曲がよい」と評したことから、トランペットで始まるこの曲がワーグナーに献呈されたことによる。私は前回、2番のシンフォニーを結構好きだと言ったが、この 3番よりもそちらの曲の方が粗削りであるかゆえに独特の表現力がある点がよいと思うわけであって、3番は、その意味ではちょっと中途半端な感じがするのである。しかしながら、今日のバレンボイムの演奏では、まさに彼が得意とするワーグナーを思わせる響きが時折聴かれ、これはブルックナーのワーグナーへの憧れが昇華した曲なのだなと改めて感じた次第。

私が過去に聴いたバレンボイムの生演奏の中には、東西ドイツ統合からまだ日も浅い 1992年、ベルリンのシャウシュピールハウス (現在の名称はコンツェルトハウス) でベルリン・フィルを指揮したものが含まれる。その頃はベルリン・フィルハーモニー・ホールが改修中で、この響きの悪いホールがベルリン・フィルの定期演奏会場として使われていたのである。そのときバレンボイムが指揮したメインの曲目は、リストのダンテ交響曲。滅多に演奏されないこの曲を、小柄な体をいっぱいに使って精力的に指揮する彼の姿に圧倒されたものだ。それから既に四半世紀近く経っているわけであるが、さすがに当時よりも身振り自体は少し小さくなったかもしれないが、パワーあふれる音を引き出す技は健在であるどころか、ますます凄みを増しているように思う。ひとつには、ベルリン・シュターツカペレというオケとの出会いも大きいのではないだろうか。ちょうど上記のベルリン・フィルとの演奏が行われた 1992年に彼はこの歌劇場とオーケストラの音楽監督に就任したわけで、それまでは日本でもおなじみのオトマール・スウィトナーの指揮する、地味で古色蒼然とした東側のオケという印象であったものが、バレンボイムが就任してからは相当にパワフルで洗練されたオケに発展していることは明白だ。もちろんそのことは何度も実現している日本公演 (オペラも、またオケだけのケースも) で充分認識しているつもりではあったが、今回の連続演奏会を聴いているうちに、改めてそのことに思いを致すようになった。ここまでの 3曲で、はっきり分かるミスはひとつもなく、それぞれのパートの持ち味がよく出ていると同時に、バレンボイムのひとつの大きな楽器として壮大に鳴っている様子は、実に圧倒的である。今回の 3番はともかく、1番、2番という、このコンビでも滅多に演奏したことがないような曲でも、完璧に音が鳴っていた。この指揮者とこのオケは、現代の名コンビと言ってよいであろう。

さてこれからいよいよ名曲第 4番以降の傑作の森に入って行くわけであるが、これからどこまでの高みに上って行くのか、大変に楽しみである。このような機会に恵まれたことを大いに感謝しよう。「あ、そう」と言われてしまいそうなマエストロの表情です (笑)。
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by yokohama7474 | 2016-02-12 01:06 | 音楽 (Live) | Comments(0)
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