Mr. ホームズ 名探偵最後の事件 (ビル・コンドン監督 / 原題 : Mr. Holmes)

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誰もが知る名探偵、シャーロック・ホームズ。英国の作家サー・アーサー・コナン・ドイル (1859 - 1930) が生み出したこのキャラクターは、21世紀の今日に至るも大人気で、ガイ・リッチーがロバート・ダウニーJr.とジュード・ロウを起用したシリーズがあるし、また最近、あの怪優ベネディクト・カンバーバッチ主演のテレビシリーズの映画化 (見たかったのに、気が付いたら上映終了していた!) もあった。そんな中で本作はかなりの異色作と言えるだろう。93歳になり、養蜂を趣味として田舎で引退生活を送るホームズ。彼が (ドイルのオリジナルシリーズには存在しない) 未解決の最後の事件を抱えており、そのトラウマに苦しんでいるという設定。普通ホームズと言えばロンドン、ベーカー街にある架空の住居にあるこの表示のように、鹿撃ち帽にパイプというイメージで知られる。
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ところがこの映画ではそれはワトソンの創作で、パイプは吸わないし、出かけるときは上のポスターのようにシルクハットをかぶっているという設定。この映画の原作は 2005年に出版されたミッチ・カリンという作家によるもの。従来にはない新たなホームズ像を描こうとしているようだ。

ここで主役のホームズを演じるのは、英国の名優、サー・イアン・マッケラン。今年 77歳になるベテランだが、一般的にはなんと言っても、「X-Men」シリーズのマグニートー役と、「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズのガンダルフ役でよく知られた顔だ。
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私はこの役者さんの顔がなんとも好きだし、ホームズ物も好き (熱狂的シャーロッキアンというわけではないが) なので、これは是非見たいと思って劇場に出掛けたものであった。だが残念なことに、映画の出来自体には少しばかり失望した。まず、従来と違うホームズ像を描き出すには、なるほどその設定は面白いねと思わせる何かがないといけないと思うのだが、さて、その点はどうだろう。要するに、主人公がホームズである必要があるかという疑問にどう答えるかということ。私には結局その疑問は解けずに終わってしまった。超人的推理能力は、93歳であろうと 103歳であろうと、ホームズならもっとあるはずだ。ラスト近く、傷ついた少年の母の批判をおさえつける推理というのが出てくるが、「えっ、それですか」と言いたくなるほどあっけないものだ。それから、この作品では日本とのかかわりが出てくるが、その必然性もあまり感じない。終戦直後の広島などという、かなり大胆なシーンもあるのであるが、さて、そこまで極端な設定が果たして必要であったか。エンドタイトルを見ると、実際に日本で撮影したシーンもあるようで、日本人スタッフの名前も多くあったが、ここで描かれている日本には、音楽の使い方を含めてリアリティがない。もちろん映画であるから、別に本当の日本を描く必要があるとも思わない。問題は、その描き方が映画の中でどこまで必然性があるかということなのだ。日本人であるべき登場人物の何人かが、どこからどう見てもほかのアジア人であるのはご愛嬌として (予算の問題もあるだろうから)、なぜにホームズが日本に来る必要があって、また日本がホームズにとってどういう意味があるのか、この映画からひしひしと感じられるものは何もない。因みに、原作者ミッチ・カリンは日本に住んでいたこともあるらしく、そうであれば、この作品における日本の描き方に違和感を感じたのではないだろうか。また、日本の俳優としては真田広之が頑張っているが、いつものことながら、「英語を喋る日本人 = 異文化に属してその異文化を体現するが、一応言葉でコミュニケーションできる人」という設定であって、ある意味で特殊な役であると言うしかない。
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この映画で真に見るべき演技は、家政婦の息子でホームズを慕う少年ロジャー役を演じたマイロ・パーカーであろう。
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2002年生まれながら、これが 3本目の出演映画で、次回作はなんとティム・バートンの新作であるそうな。決して美形ではなく、むしろ癖の強い顔立ちだが、自分がその場面でどのような感情を演じるべきかをよく分かっているようだ。映画のプログラムにインタビューが載っていて、そのコメントが面白い。

QUOTE

ロジャーとホームズは時々言い合いになるけど、二人は本当に親友だと言えると思う。僕が好きなのは、二人の友情の育み方。映画のはじめの方ではホームズはロジャーを煙たがっているけど、映画を通して絆ができていって、最後には親友になる。それがすごくいい。

UNQUOTE

撮影当時 13歳の少年の言葉と思えるだろうか。日本語では 10代の少年はこういうモノの言い方はしないだろう。それこそ日本と英国の文化の違いということだろうか。

誤解ないように申し添えると、カイル・マッケランの演技自体に不満があるわけではない。60代の回想シーンのホームズと、90代のホームズとの演じ分けもさすがであり、彼ならではの独特のユーモアも漂っていて、それは見る価値があるだろう。
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監督のビル・コンドンはアメリカ人で、同じイアン・マッケラン主演の「ゴッド・アンド・モンスター」(古典的ホラー映画「フランケンシュタイン」を監督したジェームズ・ホエールの生涯を描いた 1998年の映画) で脚本・監督を担当してアカデミー脚本賞を受賞。ほかにも、ビヨンセが出演した「ドリームガールズ」などの監督作がある。今回の作品はそれなりに丁寧な作りであるとは思うが、上に書いたような設定のそもそも論においては、残念ながら演出で脚本の欠点をカバーとまでは行っていないように思う。

最近では昔ながらのキャラクターを再利用するケースが増えていて、それだけ新しいキャラクターの創造にはリスクが伴うということだと思うが、作り手には、そのキャラクターが従来持っているイメージとどのように対峙するかを真剣に考える態度が求められる。なるほどこれならキャラクター流用の意味があるな!! と思える映画に出会うことを期待したい。

by yokohama7474 | 2016-03-31 22:58 | 映画 | Comments(0)
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