マネー・ショート 華麗なる大逆転 (アダム・マッケイ監督 / 原題 : The Big Short)

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最近は見たいと思った映画を何本も見逃してしまって残念な思いをしていたが、おっと、1ヶ月ほど前に封切られたこの映画。調べてみるとまだ劇場にかかっているではないか。クリスチャン・ベールとかブラピも出演しているとなると、見ないわけにはいかんでしょう。しかも、何やらリーマン・ショックの裏を書いて大逆転した輩どもの痛快ストーリーであるらしい。このブログでは私個人のことを書くことは極力避けているが、何を隠そう、私も金融マンのはしくれ。どんな痛快ストーリーであるか、ちょいと見届けてやろう。監督のアダム・マッケイはコメディを多く手掛けてきた人らしいし、きっとゲラゲラ笑って胸のスカッとする映画に仕上がっているのではないか。
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まず、予備知識のない方々のために念のため、この映画の題名だが、「お金、短い」ではありません (笑)。この場合のショートは、英語の意味は「不足している」ということだが、この映画のキーとなっている「空売り」のこと (従って原題の Big Short とは、「大規模な空売り」という、そのものズバリの題名だ)。しかるべき担保の提供のもと、自分が持っていないポジションを売って将来買い戻すという約束のことで、リスクは大きいが、相場が下がったときに買い戻せば利益が出るということになる。この映画の内容は、全世界を震撼せしめたサブ・プライム問題とその結果としてのリーマン・ショックの裏で、その事態を見越した空売りによって、ウォール街の巨大金融機関を相手に立ち回った 4人の男たち (プラスアルファ) が描かれている。

見終わったあとの感想だが、いやー、痛快どころの話ではない。なんとも深刻な映画なのだ。これは言ってみれば、最近の米国の戦争を生々しく描いた「ゼロ・ダーク・サーティ」や「アメリカン・スナイパー」と同様の分類に属する映画と言ってしまってもよいだろう。登場人物の一部も組織も、多くの実名が使われていて、画面に頻繁に登場するあれこれの主要金融機関のロゴもすべて本物だ。当然当事者の許可あってのことであろうが、その描き方に少しでも行き過ぎがあればすぐに訴えられてしまう世界だ。最新の注意が払われているのであろう。その意味でこの映画は疑似ドキュメンタリーになっていて、明らかにアフレコではなく撮影場所で音声を拾っている箇所や、手持ちカメラが激しく揺れる画面などがあちこちにあり、あえて言えば、プロフェッショナルな映画技術をあまり感じさせないような仕上がりである。登場人物が鑑賞者にそのまま語りかける場面も多い。映画をストーリーではなく映像と音声 / 音響のアマルガムとして鑑賞する私にとっては、この作り方はかなり苦痛。いやそれ以上に、このストーリーの意味する現代社会の深刻な様相に、なんとも憂鬱な気分になったのである。痛快ストーリーだろうと思って劇場に行ったので、なおさらである。

こういうことを書いてしまうと身も蓋もないが、個々人が金を欲しいという素朴な欲求は健全なものであれ、その積み重なりである資本主義の行きつくところ、もはや肥大化して全体像の見えない醜い欲望の塊がうごめいている。世界の中で米国だけが、あるいはさらにニューヨークだけが突出していると言えようが、そのような資本主義の発達が人間にとって幸せなことであるのかどうなのか、この疑似ドキュメンタリーは容赦なく問いかける。それが私の感じた憂鬱の原因なのだ。我ながらあまりに素直な感想だと思うが (笑)、本当だから仕方ない。

このブログは世界経済とか資本主義についての意見を開示する場ではないので (自分の経験から、少しそういうことを語りたい誘惑もあるものの 笑)、話題を変えると、ここで登場する 4人の主要キャラクターの描き方はそれぞれにユニークで、よくできている。特に、ロック好きのファンドマネージャーを演じるクリスチャン・ベール。
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ある種の自閉症であろうが、数字に対するこだわりやその実行力には並々ならぬものがあるというエキセントリックな役柄で、同じ「実業家」と言っても、バットマン・シリーズのブルース・ウェイン役とは大違いの演技である。実にリアリティがあって、見ているものを圧倒する。演技の幅に脱帽だ。

それから、もとバンカーだが現在では個人でブローカーを営むという役柄のブラッド・ピット。
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若い二人組を助ける役柄で、このようにひげを蓄えた物静かな男。登場場面はそれほど多くないが、その抑えた演技が、金融の世界で起こっている救いようのない事態の深刻さを、逆に実感させる。

もうひとり、躁鬱気味で、兄を自殺で失うという悲劇の記憶にとらわれ、周りの顰蹙を買う多動な人物でありながら、その一方で意外なほどの正義感の強さを持つファンド・マネージャーを演じるスティーヴ・カレルが面白かった。このような人物は存在すると思う。彼の行っていることは、周りの人たちにとって迷惑なことなのか、あるいは大いに意味のあることなのか。単純な割り切りでは済まない矛盾を抱えた現代の人間像だ。
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こうなると残りのひとりも紹介せねば (笑)。本作で語り役を務める銀行家役のライアン・ゴズリング。ウォール街の匂いがプンプンという役柄で、ちょっと憎たらしい人物像であるが、このように見てくると、主要キャラクターのバランスという点で、よく考えられていると思う。
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繰り返しだが、実話に基づくこのような物語を、たかだか数年後に映画にしてしまう米国は、本当に侮れない国である。日本にいてこの映画を見る我々は、さて一体これを対岸の火事として見るのか、自分たちもその一部をなしている現代世界の問題として見るのか。答えは見る人によって違ってこよう。だが、目をそむけたくなる戦争の真実を知るのと同様、金融の真実を知ることも、意味のあることではないか。まあでも、もうちょっと痛快ストーリーにしてくれた方がよかったなぁ・・・。なんとも憂鬱な気分に沈む私でありました。


by yokohama7474 | 2016-04-03 12:11 | 映画 | Comments(2)
Commented by 吉村 at 2016-04-07 14:35 x
弊社が同意してるとはおもえないんですけどねー。リアルですね。
Commented by yokohama7474 at 2016-04-07 17:05
そ、そうですか。ゲリラも堂々とやれば怖くないということですかね。笑
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