ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン 2016 ピエール = ロラン・エマール ピアノ・リサイタル 1 2016年 5月 3日 東京国際フォーラム ホール D7

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今年もゴールデン・ウィーク恒例のイヴェントがやってきた。大規模なクラシック音楽の祭典、ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンだ。その毎年の盛況ぶりに鑑みて、必ずしもクラシック音楽ファンでない人たちにもそれなりに知名度のあるイヴェントになっていると思うが、これはもともと、ルネ・マルタンという人の提唱により、フランスのナントで始まった音楽祭で、過去 20年ほどの間に世界各地でこの名前を冠した音楽祭が開かれるようになっているのだ。東京でも 2005年から毎年 5月 3・4・5日に有楽町の東京国際フォーラムで毎年開催されている。この「ラ・フォル・ジュルネ」というフランス語は、「熱狂の日」という意味であるが、これはモーツァルトの名作オペラ「フィガロの結婚」の原作であるボーマルシェの戯曲の題名 (日本語では「狂おしき一日、またはフィガロの結婚」という題が一般的) に由来するものらしい。そうだ、あの物語では、ある一日のうちに様々なことが起きるわけで、まさに狂おしい一日が描かれているわけだ。この音楽祭、普通と違うのは、そのような狂おしい一日を彩るために参加する音楽家の圧倒的な数である。第一線で活躍中の世界的な音楽家から通好みの珍しい人や楽団、また昔懐かしい演奏家まで、それはそれは大変な幅を持ったラインナップなのである。そして、1回あたりの演奏会の時間は 45分程度で休憩なし。そしてチケット代は、最高でも 3,000円とお手頃。毎年テーマを決めて、そのテーマに関する様々な曲があれこれ演奏される。会場の東京国際フォーラムはホールや会議室を沢山持つ大型施設であるが、この音楽祭の期間中には 6つのホール (収容人数 153 からなんと 5008!! まで) がフル稼働。文字通り朝から晩まで (本当に朝 10時から夜 10時まで!!) 入れ代わり立ち代わり、いろんな演奏家がいろんなコンサートを繰り広げるのだ (まあ世の中にはいろんな業界があるので軽々には言えないが、3日間連続でこの巨大施設がフルに使用されるイヴェントが、ほかにそうそうあるとは思えない)。お客はそのひとつを楽しむもよし、ハシゴするもよしということになる。そのため、会場中央のオープンスペースには飲食物を提供する屋台もあり、そこでも時折音楽が演奏されるのだ。まさに音楽漬け。
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クラシック音楽のイヴェントとも思えないほど多くの老若男女が集うまさに熱狂の日、それがラ・フォル・ジュルネなのである。主催者ルネ・マルタンが「クラシックの音楽祭がなぜ 100万人を集めたのか」という本を書いていて、私もそれを以前読んだが、なんとも驚くべきイヴェントがこのラ・フォル・ジュルネであり、日本でも既に東京だけでなく、今年は新潟、びわ湖、金沢でも開かれるのだ。今年のテーマは「自然と音楽」。過去には特定の国や時代がテーマになっていることが多かったが、今回のテーマはかなり幅広い内容を許すものであろう。自然に触発されて書かれた曲や、自然を表そうとした曲や、まさに千差万別。因みに有料公演一覧はこちら。
http://www.lfj.jp/lfj_2016/performance/timetable.html

私も過去何度かこの音楽祭に来ているし、金沢まで聴きに行ったこともある。正直、スケジュール表を見ているとあれこれ行きたいとは思うものの、若干胃もたれぎみにもなる。そんなわけで今回は 4つの演奏会を選んだ。とは言っても実際そのうちの 3つはひとつの内容を演奏時間の関係で分けてあるだけなので、実質的には 2つということになる。

この記事で採り上げるのは、その 3分割されたコンサート。現代最高のピアニストのひとりで、特に現代音楽にかけては並ぶ者のないフランス人、ピエール = ロラン・エマールのリサイタルである。
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彼が今回弾くのは、20世紀音楽の巨塔、オリヴィエ・メシアンの超大作、演奏時間 2時間半超を要するソロ・ピアノのための「鳥のカタログ」である。全 7巻、13曲から成っており、様々な鳥の鳴き声を模した超絶技巧のオンパレードである。各曲に鳥の種類が題名としてつけられているが、題名となった種類以外の鳥の鳴き声もあれこれ入っており、全部で実に 77種類の鳥の声が使われているとのこと。私はロシアの鬼才ピアニスト、アナトール・ウゴルスキの 3枚組の CD を持っているが、いかんせん輸入盤なので、鳥の種類の日本名が分からず、その意味ではどの曲がどんな鳥というイメージは全くない。まあ、鳥の種類を日本名で聞いたところで、そちら方面に疎い私には、あまり意味はないとも言えるが (笑)。

今回はこの長大な曲の 3回シリーズの 1回目ということであったが、スケジュール表によると演奏時間 75分とある。げげっ、これはラ・フォル・ジュルネの原則を破る長さではないか!! そして実際にコンサートが始まってみて納得。なんと、あのエマールが自分で曲を解説してくれ (フランス語の通訳つき)、かなりの種類の鳥については、映像で実際に鳴いているところを投影してからの演奏ということになって、まあその、鳥の名前をまるで覚えられない私でも、ふむふむなるほどという感じにはなったものだ (笑)。しかも演奏順序は、オリジナルの順番とは異なって、毎回エマールの選択とおぼしき順番となるようだ。今回の演奏曲は以下の通り。
 キバシガラス (第 1巻から)
 ヨーロッパウグイス (第 5巻から)
 コシジロイソヒヨドリ (第 6巻から)
 ムナジロヒバリ (第 5巻から)
 クロサバクヒタキ (第 7巻から)

いやー、そんな鳥、どれも知らないって (笑)。実はコンサート入場時に受け取った、簡単な曲目と演奏者紹介の紙 (ちなみにこの音楽祭、以前は公式プログラムを作成していたが、今回は見当たらなかった。コスト削減だろうか) には 4曲しか記載がなかったところ、実際には 5曲演奏されたので不思議に思っていたところ、帰りがけに出口に 1曲追加の表示があって、無事、5曲すべての題名を知ることができました。って言っても、しつこいようだがどの鳥も知りませんがね (笑)。ちなみにこれが最初に演奏された曲の題名になっているキバシガラス。くちばしが黄色いカラスということなんでしょうな。
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このコンサートは 18時 45分開演であったが、エマールは登場すると同時に、「にんにちは、だか、こんばんは、だか分かりませんね。ラ・フォル・ジュルネでは朝から晩まで音楽尽くしで、まるで鳥の歌のようですから」と冗談を口にして場内を笑わせた。気難しそうに見えるが、さすがフランス人、エスプリがきいています。いやそれにしても、鳥の映像の後に、その鳥の鳴き声をメシアンが模倣した凄まじいパッセージを、何事もないようにパラパラと弾いてみせるエマールの技術には舌を巻く。しかもその解説ぶりが非常に面白く、例えば、この曲にしばしば聴かれる無音状態は、ただ無音であるだけでなく、沈黙に耳を澄ませる姿勢から瞑想につながるようなものであるとか、ベートーヴェンのソナタ (第 18番「狩」の第 1楽章が引用された) のリズムパターンがある鳥の鳴き声としてメシアンが使ったものと一緒であるとか、ある箇所はペダルの効果がまるでオルガンのようだとか (メシアンはオルガン奏者でもあった)、曲によっては、羽ばたくような鍵盤上の両手の動きそのものが鳥の飛翔の姿を模しているのかもしれないとか。そして最後の曲では、「これは砂漠の鳥ですが、このライトの下は暑くて、今私はまるで砂漠にいるようです」とジョークを言ってまた笑わせた。そのタッチの正確さ、音楽の強靭さ、曲の性格を弾き分ける懐の深さ。いずれも素晴らしい。この手の曲は聴いているうちに眠くなるものだが、全く眠気を起こすことなく、食い入るように耳を澄ませることとなった。考えてみれば、演奏時間の制限のために集中力の持続が可能になり、加えて演奏者の解説が聞けるというこのような機会は、この音楽祭であるからこそ実現した、非常にユニークなものである。この日、あれこれのコンサートのためにこの場所に集った多くの聴衆と同様、私も熱狂の日を楽しむことができた。エマールの「鳥のカタログ」シリーズはあと 2回。記事にするネタがあるかどうか分からないが (笑)、大いに楽しみたい。

by yokohama7474 | 2016-05-04 00:25 | 音楽 (Live) | Comments(0)
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