2016年 05月 05日
特別展 信貴山縁起絵巻 朝護孫子寺と毘沙門天信仰の至宝 奈良国立博物館
それではまずご存じない方のために、信貴山 (しぎさん) という山についてご説明しよう。この山は奈良県生駒郡に属する霊場であるが、もうひとつの霊場である生駒山同様、大阪との県境に近いところに位置する。古く聖徳太子が物部守屋と戦った際に、この山に毘沙門天 (びしゃもんてん) が現れたという伝承があるという。この信貴山に存在する寺は、朝護孫子寺 (ちょうごそんしじ) と言って、その毘沙門天を本尊として未だに盛んな信仰を集めている。そしてこの寺に伝わる至宝が、かつてこの寺に住んだ僧が起こしたとされる超自然的な出来事を扱った絵巻物、国宝に指定されている信貴山縁起絵巻 (しぎさんえんぎえまき) なのである。それゆえ、奈良国立博物館で開かれている展覧会は、「信貴山縁起絵巻 朝護孫子寺と毘沙門天信仰の至宝」ということになる。信貴山の場所についてイメージを持ちたい方のために、朝護孫子寺のサイトに載っている地図を掲げておこう。
この信貴山縁起絵巻、普段からこの奈良国立博物館に寄託されていて、時々一部を見ることができる。かく言う私も、過去にこの博物館でこの絵巻物の一部を見たことはある。だが今回は、この 3巻からなる絵巻物の全部を一気に公開しているというのだ!! これは史上初のことであり、まさに千載一遇のチャンス。というわけで、GW 中の奈良、既に夏を思わせる暑さがじわじわと漂う中、9時30分の開館直後に現地に到着した。入り口に列はない。ただ、会場に入ってから絵巻物を見るまで 30分待ちとのこと。それはやむない。並ぼう並ぼう。さてこれが博物館に入ってすぐの光景。シルエットになっているが、何やら米俵のようなものがヒョイヒョイと宙を浮いている。貼ってあるポスターには、「奇跡、鉢が飛ぶ?!」とある。一体どういうことか。
・京都の山崎に住む長者の家の倉 (中には米俵が一杯) が突然宙に浮く。見ると、金属製の鉢が倉を持ち上げており、倉と米俵はそのまま空中移動して、信貴山に住む高僧、命蓮 (みょうれん) のところに辿り着く。鉢は命蓮のものであり、お布施を求めて飛ばしたものであった。長者の使いが命蓮のところに行って返して欲しいと嘆願すると、倉はその地に留まり、米俵だけがまた、鉢とともに長者のところに飛んで帰って行った。
・延喜年間、ときの天皇である醍醐天皇が病に伏した際に、勅使の依頼を受けた命蓮が、天皇の病気回復を祈る加持祈祷 (かじきとう) を行った。命蓮は、効果があれば剣を身にまとう護法童子が現れると告げ、実際にそのようになって、天皇の病気は回復した。
・命蓮の姉である尼公は、弟を探して故郷の信濃を旅立って大和に向かう。東大寺大仏殿で一晩祈った尼公は、大仏のお告げにより、無事弟である命蓮に再会する。
それぞれの巻に見どころがあって、その奇想天外ぶりは、制作されてから恐らく 700年以上経った今日でも、異常なほどの生命力を持っている。まず第 1巻では、米俵が次々と空を飛んで行くのを見上げる人々、あるいは戻ってきた米俵に驚く人々の表情の豊かなこと。じっくり見て行くと、ぷっと噴き出さずにはいられない。
また、奈良国立博物館で最も古い建物、片山東熊の設計によって 1894年に完成した重要文化財である旧本館が、2年間の改修工事を経て、4月29日に「なら仏像館」としてリニューアルオープンしたというので、こちらも覗いてみた。