スポットライト 世紀のスクープ (トム・マッカーシー監督 / 原題 : SPOTLIGHT)

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既にこのブログでも何度か告白 (?) している通り、私は実に自分勝手な人間で、世の中で流行っているものとか、何かの賞を取って話題になっているものとかに、とんと興味のない人間なのである。その意味で、お願いしたわけでもないのに毎年発表されるアカデミー賞の各賞の受賞作品は、まぁ、どんな作品が受賞したのかは多少気になるにせよ、受賞したというだけで見に行こうと思うことはまずない。実際に予告編などで映画のイメージに触れて面白そうだと思うか、さもなくば誰か信用できる知人友人から面白いと聞かされるようなことがないと、実際に劇場に足を運ぶことはないのである。

この映画、上のポスターにもある通り、今年のアカデミー賞の作品賞と脚本賞を受賞した話題作である。だが私はオスカーの発表前に予告編を見て、何やら興味を引かれたので、見ようと思ったのである。既にご存じの方も多いと思うが、ボストンにおける聖職者による児童 (多くは少年) への性的虐待をスクープした新聞社の人たちの物語。2002年の 1月に地元紙ボストン・グローブが報道した記事によって、カトリック教会が長年に亘り組織ぐるみでこの犯罪を隠蔽していたことが発覚、その後の調査で、米国内だけでも 6,500人近い神父が 17,000人以上を性的に虐待したとされるに至ったというもの。私は 4月28日の記事で、ナチス高官の裁判のテレビ放映に死力を傾ける人たちを題材にした映画「アイヒマン・ショー 歴史を映した男たち」を採り上げたが、真実を伝えようとするジャーナリストたちの熱意という点で、この映画とテーマが共通する。かたや戦争、かたや聖職者のスキャンダルと、一見その歴史的重みに違いがありそうであるが、なんのなんの、ジャーナリストたちが情熱を傾けたこと、それはとりも直さず、人間の暗黒面に光を当てる試みなのであるが、その点において両者に大きな差はない。いやそれどころか、戦争という国家の犯罪に比して、より個人レヴェルの問題であるがゆえに、こちらの題材の方がより深刻であると言ってもよいのではなかろうか。

そもそも映画を語るのに、作品としての完成度ではなく、描かれている事態の深刻さに唸るというのは、映画の鑑賞態度としていかがなものであろうか。と言いながらも私は、「マネー・ショート」の記事でも既に同じことをしてしまっている。何かもっとクールに決めることはできないものか。そうだ、役者について語ろう (笑)。

この映画で誰が主演かというとなかなか難しいが、以下のボストン・グローブの記者たち 3名が中心となろう。まずは、特定の話題に焦点を当てて徹底的に取材をする「スポットライト」というコーナー (これが題名の由来) のリーダー、ウォルター・ロビンソンを演じるマイケル・キートン。言うまでもなくティム・バートン監督のバットマン・シリーズの主役で知られるが、最近では (なぜかこのブログで言及する機会の多い?) 「バードマン」での演技が記憶に新しい。ここでも、爽やかさはあまりないとはいえ (笑)、若い記者との意見の対立をも辞さない熱血リーダーを渋く演じている。
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そして、記者マイク・レゼンデスを演じるマーク・ラファロ。この役者もあまり爽やかなイケメンというわけではない。だが、見て行くうちにその行動力と機動力に、応援したくなってくるのだ。そう、彼の当たり役はあの超人ハルク。ああ、そうでしたそうでした。そう思うと、ここでの不器用ながら体当たり取材をする記者役など、適役ではないか (笑)。
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それから紅一点、サーシャ・ファイファーを演じるレイチェル・マクアダムス。カナダ人で、ガイ・リッチーのシャーロック・ホームズシリーズで怪しげな敵の女を演じていたほか、ウッディ・アレンの素晴らしい名作「ミッドナイト・イン・パリ」では、オーウェン・ウィルソンの奥さん役で笑わせてくれた。ここでは、とびきり優秀な女性というわけではないものの、寡黙な旦那のもとで家事をこなしながら、一旦外に出ると体当たりの取材を続けて行く果敢な記者の役を、リアリティを持って演じている。
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その他、ボストン・グローブ側にも教会側にも多くの登場人物がいて、弁護士も多く登場する。つまりここで記者たちが相手にしているのは、バットマンが闇夜の中で成敗する悪の親玉でもなく、ハルクが力任せに叩き潰す悪の乗り物でもなく、れっきとした現実社会、しかも西洋社会において最も信頼すべき存在であるはずの、カトリック教会であるのだ。そこには多くの関係者がいて、もちろん被害者もいるのであるが、人間対人間の息づまる攻防であるから、物事はそれほど単純には動かない。真実は、その切れ端を見せながらもなかなか現れて来ないのである。映画を見ながら観客は、真実と対峙することへの恐怖を覚えるようになる。

このような真実の物語を切れ味よく演出した監督、トム・マッカーシーのことを私はよく知らない。1966年ニュージャージー生まれ。これが 5本目とのこと。今回のアカデミー作品賞受賞で、CG 満載の派手なハリウッド映画を撮るようになるのかもしれないが、できればこの映画のような、いい役者をじっくり使った社会性の高い作品を撮っていってもらいたい。
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それにしても、冒頭からアカデミー賞なんて気にしないと言いながら、やはりアカデミー賞の話題に戻っているのは矛盾だというご指摘もあろう (笑)。だが、正直なところ、そうでもしないとここで描かれている内容の救いのなさにやりきれない思いがするからなのだ。例えば以下の写真は、この映画のプログラムに載っている、「『スポットライト』報道後に神父による児童への性的虐待が判明した全米の都市と州名並びにそれ以外の国と地域名」のリストだ。ざっと数えてみたところ、米国内で 105都市。それ以外で 101都市。これは一体どういうことか。カトリック教会に一体何が起きているのか・・・???
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上記は細かくてよく見えないが、米国外でリストに挙がっている都市はほとんど、北中南米、ヨーロッパとオーストラリア、ニュージーランドと、そしてアフリカである。アジアは、フィリピンとインドのみしか含まれていない。もちろん、これが全貌を表しているか否かは知る由もないが、アジアで被害が少ないことに何か理由はあるのだろうか。ここで宗教論への深入りは避けようと思うが、この映画が突き付けてくる事実は、限りなく重い。この映画を見る人たち自身が、やはり真剣にその重さを実感してみる必要はあるだろう。そんな映画にアカデミー賞を与えるとは、米国という国も度量が広い。勝手気ままな私も、こうなると今後はアカデミー賞の動向を気にせざるを得ない!! それが結論かい (笑)。

by yokohama7474 | 2016-05-07 15:01 | 映画 | Comments(0)
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