マジカル・ガール (カルロス・ベルムト監督 / 原題 : MAGICAL GIRL)

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この映画はスペイン映画で、日本が大好きという監督は、この作品がデビュー作。実は、私はこの映画の予告編も見ておらず、このポスターを見てもそれほど心惹かれるということでもなかったのであるが、以前の記事で採り上げた「アイヒマンショー 歴史を映した男たち」を見るためにヒューマントラストシネマ有楽町という小劇場に行ったときのこと。たまたまトイレに入ったら、この映画の宣伝がいろいろ貼ってあったのである。どんな忙しい人間、あるいは偏狭な人間でも、トイレでは必ず静止するわけで、そうなると視線の届く範囲に貼ってある広告はいやでも目に入ってきてしまう。この映画の広告は、いろんな人がこの映画への賛辞を捧げているもので、スペインの大監督であるペドロ・アルモドバルが褒めているのはまあよしとして、目に留まったのはこれだ。誰もいなかったので写真撮ってしまいました (笑)。
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あー、慌てて撮ったので、ちょいとピンボケですなぁ。なになに、「感情移入するべき対象が刻々と変化し、何度も裏切られた気持ちになるのに、最後は、"暖かい気持ち" に強引に着地させられる。悔しいけれど、私はこの映画が大好きだ」と書いてある。発言者は、現代日本を代表する美術家である、あの束芋 (たばいも) だ。常日頃、束芋のアートに魅了されている私 (って、まさか変な人とは言いませんよね???) としては、この映画は見るべきだとの結論に至ったのである。

ストーリーは、白血病で余命いくばくもない少女アリシアが抱く希望を叶えようと、その父、もと教師で失業中のルイスが大胆なことを試みて、物事が意外な方向に転がり出し、最後は悲劇に終わるというもの。題名のマジカル・ガールとは、アリシアが心酔する架空の日本のアニメに出てくる魔法使いユキコのことだが、もちろんこの映画を最後まで見た人にはダブル・ミーニングであることが分かるだろう。このアリシア役の女の子がいい味出していて、普段は物静かなくせして、興が乗ると、こんなコスチュームで日本の歌に合わせて踊るのだ。その歌とは、長山洋子のデビュー曲らしい、「恋は SA-RA SA-RA」という曲。う、うーん。長山洋子が元アイドルであることは知っているが、デビュー曲はこれまでに聴いたことのないものだ (笑)。あ、でもこのシーンは、映画の後半にしか出てこない、大変シリアスな内容なのです。見た人だけが分かる。
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そして、本当の魔女であるべきなのは、映画のポスターで額から血を流している女性、バルバラである。演じるのは劇中の役と同じファーストネームを持つ、バルバラ・レニー。1984年マドリードに生まれ、両親の故郷であるアルゼンチンで育ち、マドリード王立演劇学校で学んだとのこと。アルモドバルの「私が、生きる肌」(アントニオ・バンデラス主演のあれだ) にも出ていたそうだが、覚えていない。この映画では、ある理由でこのように額の真ん中に傷ができるのだが、これは決して彼女がインド系の女性という意味ではない (ハズ)。
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宣伝文句の通り、この映画の特色は、先の読めない展開なのである。また、あるシーンと別のシーンの間に、実際に起こっているはずの事柄のあんなことやこんなことが、映像の説明としては出てこないことが多く、人と人の関係にも不明な点が多い。そのような説明不足の中で起こる悲劇は、まあ確かに予想を超えたものにはなっていると言えるだろう。この映画の説明を見て私が連想したのは、コーエン兄弟の名作「ファーゴ」であった。だが、「ファーゴ」とこの映画を比べると、私としては全く迷うことなく「ファーゴ」に軍配を上げる。「ファーゴ」には、本当にちょっとした悪事から坂道を転がり落ちるような悪夢的展開が本当に悲劇的に描かれ、悲劇的であるがゆえにこの上なく滑稽であったのだ。その点この映画には、それだけの滑稽さはなく、申し訳ないが私には、束芋が言っているような "暖かい気持ち" は、最後まで訪れず、なにやらいやーな感じで見終わったのである。奇妙な雰囲気を出そうとする監督の工夫は随所に感じた。例えば、アリシアとその父が話している食卓で、手前の 2脚の椅子が大きく画面を占めていて、何やら息苦しい感じを与えたこと。バーバラの守護天使 (?) である老人ダミアンが自宅で電話を取るとき、大きなオレンジ色のソファーの前にオレンジ色の飲み物が置かれ、その色彩に閉塞感を覚えたこと。同系色であるが微妙に異なる青い服を着た人物が二人並んだ横に真っ赤な照明の笠が来るシーンでは、原色の対置に落ち着かない思いを抱いたこと。だがそれらの要素はあくまで添え物であって、本質的ではないかもしれない。もっともっと、早いテンポで運命の歯車がギリギリ回るところを出して、またときにはもっと笑いを求めた方がよかったのではないか。そうすれば、濃淡が現れることで観客の感情移入も容易になったはず。使われている音楽については、ラジオ番組でバッハのギター編曲が流れているのには、なかなかクリアな感覚を覚えたが、バーバラが決意を込めて車で移動するときにサティのグノシェンヌを使うのは、ちょっと月並みではなかったろうか。

それにしてもこのカルロス・ベルムト監督、日本が本当に大好きのようだ。とは言っても、わびさびとか江戸時代の日本とかではなく、1960年代頃以降の日本だ。プログラムに掲載されているインタビューでは、映画に関しては小津や黒澤も好きだが、新藤兼人、寺山修司、大島渚、今村昌平に、それから勅使河原宏 (特に「砂の女」はベスト 5 に入る映画だそうだ!!) がお気に入りと。また、園子温、岩井俊二、塚本晋也らの名前も出ていて、その変化球ぶりがよく分かる (笑)。面白いのは江戸川乱歩へのこだわりで、映画の中に出てくる検索サイトは "RAMPO!!" という名前だし、怪しげな館のマークの黒いトカゲは、「黒蜥蜴」へのオマージュだそうだ。ご丁寧にも、エンドタイトルに流れる音楽は、美輪明宏が作詞作曲した「黒蜥蜴の唄」のスペイン歌手によるカバーだそうだ。

とまあ、監督の趣味がどぎついまでに出た映画であるゆえ、見る人によってどのくらいのめり込めるかが変わってくるような気がする。私としては、正直なところ期待通りとは行かなかったが、日本には毎年 4ヶ月も滞在するという、このカルロス・ベルムトという監督の名前は覚えておく価値があるように思う。次回は、さらに研ぎ澄まされてしかもテンポよく楽しめる映画を期待したい。
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by yokohama7474 | 2016-05-07 17:16 | 映画 | Comments(0)