2016年 05月 21日
佐渡裕指揮 ウィーン・トーンキュンストラー管弦楽団 (ヴァイオリン : レイ・チェン) 2016年 5月22日 ミューザ川崎シンフォニーホール
そもそも名前が、「トーンキュンストラー」などというよく分からないものなので損をしている。「トーン」は「音」。「キュンストラー」は「芸術家」。つまりは「音の芸術家」という意味だ。なんとも分かりやすいではないか。私の世代では、N 響にもよくやって来た指揮者、ハインツ・ワルベルクが音楽監督であったというイメージがあるかもしれない。その後も、ファビオ・ルイジやクリスティアン・ヤルヴィ (父親のネーメ・ヤルヴィとともにちょうど来日中のはず) らが音楽監督を務めている。1907年設立なので、既に 110年近い歴史があるのだ。だが、残念ながらレコーディング・メディアではその演奏に親しめる機会は非常に限られていた。ある意味、「名のみ高い」という感じのオケだ。そう言えば、佐渡が以前に主席指揮者を務めたパリのコンセール・ラムルー管弦楽団も、似たようなイメージのオケである。佐渡の持つエネルギーが、この老舗オケに新たな活力を与えることができれば、こんなに素晴らしいことはない。本拠地であるウィーン楽友協会でのオケの写真は以下の通り。おっとこれは「トーンキュンストラー」の綴りの最初の「T」の字を一文字で作っているようだ。
ベートーヴェン : ヴァイオリン協奏曲二長調作品61 (ヴァイオリン : レイ・チェン)
リヒャルト・シュトラウス : 交響詩「英雄の生涯」作品40
演奏開始前に指揮者がマイク片手に舞台に出てきて、自分とウィーンとのかかわりについて話をした。その内容は、このブログでも今年 3月 7日の記事として書いた、東京フィルのリハーサルの際に聞いた内容とほぼ同じ。バーンスタインの弟子になってニューヨークで指揮者修行ができるかと思いきや、そのバーンスタインの指示で片道切符を持ってウィーンに移ったとのこと。これが若い頃のマエストロ佐渡。あまり変わらないようでいて、やはり若いですな。
後半の R・シュトラウスの「英雄の生涯」も、パワー全開の素晴らしい演奏。最初の弦のうねりからして気合充分で、この絢爛豪華、光彩陸離たる交響詩へのワクワクするような旅立ちであった。音楽は終始一貫して輝かしく、何か大きなものを描写するようなこの曲の神髄を堪能することができた。コンサートマスターの女性、リーケ・デ・ヴィンケルのソロ・ヴァイオリンも、オケそのものとの演奏同じく、気合みなぎるもの。何度か、気合が入りすぎて技術的におっと危ないという箇所もあったが (笑)、全体の中では些細なこと。これだけ高いモチベーションを持って演奏すれば、これからも個々の演奏の質はさらに上がって行くものと思う。その意味で、佐渡の持ち味とよくあったオケであり、今後の活動の成果に本当に期待が高まる。
そんな充実感満点のコンサートであったが、演奏終了後、階段を下りてロビーに出ると、既に指揮者はそこにいて、熊本地震の募金集めを行っていた。箱を持って立っているマエストロの前に聴衆の列ができて、順番にお金を入れてどんどん進んで行くというもの。このような感じで、聴衆とのスキンシップが図られた。