ウラディーミル・マヤコフスキー著 悲劇ヴラジーミル・マヤコフスキー

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ウラディーミル・マヤコスフキー (1893 - 1930) はロシア・アヴァンギャルドを代表する詩人である。この本はそのマヤコフスキーによる短い戯曲を収めたもの。最近でこそ東京でロシア・アヴァンギャルドや構成主義の展覧会はあまり多くないものの、1980年代以降、何度も興味深い展覧会が開かれてきた。ロシアにおいて両世界大戦間に花開いた前衛活動の時代は、そのままロシア革命とスターリン時代の間。巨大な帝政が転覆して誕生した世界最初の共産党国家として、内外の戦闘において、また粛清によって多くの血がロシアで流されたという痛ましい歴史があるわけだが、文化・芸術の面では刺激に満ちた時代となった。ロシア・アヴァンギャルドの雰囲気を示す作家として、パーヴェル・フィローノフ (1883 - 1941) の作品のイメージを紹介しよう。これは、我が家の書棚から引っ張り出して来た、1990年にパリのポンピドゥー・センターで見た展覧会のカタログ。私にとっては、生まれて初めて訪れたパリで、ロシア・アヴァンギャルドの代表として名前を知っていたこの画家の展覧会を見ることができた喜びは未だに忘れ難いものだ。今手元に充分な資料がないが、確か私はフィローノフの名前を、「世界最初の抽象画家のひとり」として認識していた。
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さてこのフィローノフ、1913年にこの戯曲「悲劇ヴラジーミル・マヤコフスキー」(表記は冒頭に掲げた小笠原豊樹訳による土曜社のヤマコフスキー叢書に従う) がサンクト・ペテルブルクで初演されたとき、その舞台美術を担当したという。主役は当時 20歳のマヤコフスキー自身。その他の俳優は公募で集めた素人ばかりであったという。1913年ということは、未だ帝政時代であるが、既に胎動している前衛芸術の様子を偲ぶことができる。

この戯曲、本でさっと読んだ限りでは、一体何が進行しているのかあまり想像できないようなものであるが (笑)、それゆえにこそ、本当にロシア・アヴァンギャルドの雰囲気がいっぱいで、わけもなく嬉しくなってきてしまう。なにせ本文の最初の部分を開くと、こんな感じなのである。
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このプロローグでのマヤコフスキー自身の口上を少し引用してみよう。

QUOTE
きみたちにわかるかな、
なぜぼくが
嘲りの嵐のなか、
平然と、
自分の魂を大皿に載せて
モダンな食事の席へ運ぶのか。
広場のほっぺたの無精髭を伝い
無用の涙となって流れる、
このぼくは、
恐らく
最後の詩人なのだろう。
UNQUOTE

すっとぼけたイラストのイメージとは異なり、詩の内容は、シニカルなようで意外と情緒的であるのがお分かりであろう。私はこれまでマヤコフスキーの作品には断片的にしか触れてこなかったので、このようなイメージと内実のギャップに興味を抱くとともに、この詩人のナイーブな内面に好感を抱くに至った。このイラストは、「乾いた黒猫の群を連れている老人」という登場人物のセリフ、「さあ、こするんだ! 乾いた黒猫を、こすれや、こすれ!」という部分に添えられたもの (笑)。
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私の知識では、この詩人は若くして自殺したとの整理になっているが、いろいろと調べてみると、ピストルで頭を撃ち抜いて発見されたものの、今では他殺という説もかなり有力になってきているようだ。没年は 1930年。スターリン時代であり、秘密警察の関与があってもおかしくない時代である。時代を駆け抜けた天才詩人に、一体何があったのか。
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この土曜社のマヤコフスキー叢書は、2014年 5月から、全 15巻の予定で刊行中。「背骨のフルート」「南京虫」「風呂」等、彼の一連の作品を読んでみたい。ロシアの芸術の理解への道程にはなるだろうと思います。

by yokohama7474 | 2016-06-02 23:11 | 書物 | Comments(0)
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