2016年 06月 11日
美の祝典 II 水墨の壮美 出光美術館
さて、これら 3回の展覧会のそれぞれで公開されるのが、この美術館の至宝、国宝の「伴大納言絵詞」である。上巻では応天門が炎上するシーンが圧巻であったが、今回展示されているのはその 3巻中の真ん中、中巻である。ここでは、700年ほど前の作品とは思えないほど豊かな人間感情の表現があり、まさにマンガ的日本絵画の典型をなしている。今回のほかの展示品である水墨画は、もともと禅宗の影響によって発達したこともあって、露わな感情表現と異なる感覚の作品も多いが (例外ももちろん沢山あることを後で見るが)、この絵巻物で見られる日本美は、それとは対照的なものだ。この中巻では、大納言 伴善男 (とものよしお) によって応天門放火の犯人とされた左大臣 源信 (みなもとのまこと) の屋敷で始まる。これは嘆き悲しむ人々。なんという豊かな感情表現!!
この絵は、毛倫 (もうりん、生没年不詳) の「牧牛図」。右手前では牧童が眠りこけていて、その隙に牛は手綱を解いて自由に動いており、なにやら木にからだを押し付けて背中を掻いているようだ。なんともユーモラス。
そして文人画の系譜の最後に来るのが富岡鉄斎 (1837 - 1924) である。小林秀雄なども鉄斎については頻繁に語っているが、明治・大正期に生きた巨星であり、力強い作品をあれこれ描いた人だ。その一方、「らしい」作品を模倣しやすいせいか、美術市場では最も贋作の多い画家のひとりであるとも聞く。この展覧会に出ているものは小規模なものがいくつかだが、これは「富士山図」(1869)。明治の初期の作品で、鉄斎が何度も描いた富士の絵の中で、現在確認される最も初期の作品がこれであるそうだ。山腹と山頂が分断されているようにも見えるが、途中にあるのは雲であろうか。それだけ富士の高さを強調しているということか。