よみがえる仏の美 静嘉堂文庫美術館

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三菱財閥を作った岩崎家の古美術コレクション、静嘉堂 (せいかどう) 文庫には、数々の名品が含まれている。だが、常時展示を行っているわけではなく、年に何度かの特別展のときだけ開いているという変則的な開館方針なので、あまりユーザーフレンドリーとは思えない。お客目線がちょっとなぁ (笑)。私は随分以前に一度だけ、この美術館の至宝である曜変天目茶碗を見に行ったことがあるが、その後はご無沙汰していた。これまでしばらく建物を改修していたらしく、昨年の 10月からリニューアルオープンしており、それを記念して昨年来何度かの展覧会が開かれているようだ。今回はその 3回目。実はこの展覧会、既に会期は終了しているので、このブログで本展に興味を持たれる方には大変申し訳ない。また次の展示の機会をお楽しみに。

この施設は二子玉川が最寄り駅で、拙宅からはそれほど遠くない。同じ多摩川沿いでも、拙宅の近辺とは違ったオシャレな雰囲気に、家人も是非行ってみたいと言う。そして久しぶりにこの美術館に出向いてみて、その山深いことにびっくり。世田谷区は確かにオシャレではあるものの、ちょっと裏に入ると細かい一方通行も多く、道に迷いそうになるが、なんとか現地に辿り着いた。
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実はこの門から先、道路が続いているのだが、その手前に駐車場があったのでそこに車を停めた。後で気付いたことには、美術館のど真ん前にも 20台くらいまで車を停めるスペースがあって、どうせならそこまで車で行けばよかった。だが、この門から美術館までの緩やかな登り道がまた、なんとも風情があるのだ。夏には蛍が出そうな、自然そのままの土地である。この一帯は緑地帯で、裏側の岡本公園には、古い民家を移築してきているらしい。そこには今回は行けなかったが、次回は是非訪れたい。いやいや、とても都内とは思えない緑一色。オゾンを胸いっぱいに吸い込んだ。
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そして見えてきた美術館と、そもそもの昔の静嘉堂文庫の建物はこんな感じ。
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私が行ったときに開かれていた展覧会は、冒頭にポスターを掲げた通り、この静嘉堂が所有する仏像の修復記念であるようだが、ポスターに何やら運慶という文字が見える。運慶は言うまでもなく鎌倉時代初期に活躍した不世出の優れた仏師だ。実は今回の展覧会の目玉は、もともと京都の浄瑠璃寺が所有し、現在は 7体がこの静嘉堂文庫美術館、残り 5体が東京国立博物館に所蔵されている、鎌倉時代の十二神将像だ。以下、そのうちの 2体の写真を掲げる。
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大きさは 70~80 cm 前後と、等身大の半分以下だが、鎌倉時代らしい躍動感がある。これらの像に関して最近になって注目されているのは、明治時代、1902年11月22日付の毎日新聞の記事に、この 7体の十二神将像の中に「大仏師運慶」の銘を発見したとあることらしい。これがその記事。
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今回、静嘉堂文庫の所蔵する 7体のうち 4体の修理が終わって今回展示されているのだが、これまでのところ運慶の名前を記した銘などは出てきておらず、残りの 3体に期待しようとのこと。だが私としては、申し訳ないがこれらの彫刻は、私の知っている運慶の作とは到底思われない。私ごときでこれであるから、専門家は当然そういう意見であると思うのだが、とにかくそのネームヴァリューは日本美術史上屈指の仏師である運慶のこと、その周辺情報であっても何か新発見があれば大変なことになる。ともあれ、よく保存された十二神将像を間近で見る喜びには大きなものがあった。

さてこの静嘉堂、多くの美術品と書籍を所有するが、展示室は非常に狭い。一回ごとにちょびちょび見せるのでなく、もっと広い展示室で惜しげなく所蔵品を見せればいいのになぁと思ってしまう。美術館の存在する緑地自体は実に広大なものであるので、なおさら展示スペースの狭さにがっかりだ。素晴らしいコレクションを広く公開しようという当初の高邁な精神に基づいて、少し改善を期待できないものだろうか。三菱第 4代社長、岩崎小彌太はこんな人。
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それほど多くない展示品の中でほかに特に注意を引いたのは、冒頭のポスターにもある通り、あの若冲もならった中国絵画の名品、文殊・普賢菩薩である。こんな作品だ。もともと京都の東福寺に伝来したもので、元時代、14世紀の作品。
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例の伊藤若冲が動植綵絵の本尊として描いた釈迦三尊の両脇侍である文殊・普賢の原画であると伝わる。なるほど見比べてみるとそっくりだ。
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ついでに、この展覧会には来ていないが、この静嘉堂の文殊・普賢のもともとの中尊であった旧東福寺釈迦如来像は現在ではクリーヴランド美術館が所蔵していて、こんな作品だ。これまた若冲の作品とそっくりである。
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そして今回の展覧会自体とは別の展示であるが、展示室に入る手前のちょっとしたスペースに、なんとなんと、この美術館の至宝、世界に 3つしかない曜変天目茶碗のひとつ (もちろん国宝) が展示されている。その横のガラスケースには、これも名品、重要文化財の油滴天目茶碗が。
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どちらも大変見事であるのだが、実はここでの展示には少し問題があると思う。ガラス張りの明るいスペースで、自然光で鑑賞するようになっていて、光が強すぎるとブラインドが下りるようになっているらしい。だが、これらの茶碗の繊細さを心行くまで鑑賞するには、このような均一な光ではなく、やはり暗い場所に浮かび上がる LED ライトしかないだろう、と強く思う。サントリー美術館で藤田美術館所蔵の曜変天目茶碗が展示されたときの展示方法を思い出すと、この静嘉堂の展示は旧態然と映る。うーん、今時の美術館は、鑑賞者目線に立って展示を考える必要があると思うのだが。ちょっともったいない。

そんなわけで、展示方法には問題があったものの、昔の財界人である岩崎家のスケールを思い知る展覧会ではあった。次の展覧会は江戸の博物誌である。面白そうなので、作品が輝くような展示方法を期待したい。

by yokohama7474 | 2016-06-11 23:14 | 美術・旅行 | Comments(0)