美の祝典 III 江戸絵画の華やぎ 出光美術館

e0345320_00020995.jpg
出光美術館の開館 50周年を記念する大展覧会、4月からほぼ月替わりの内容で開催されてきた「美の祝典」もついに大詰め、3回シリーズの最終回。ところでこの連続展覧会が開かれているうちに、と言ってもつい最近のことだが、世間では「出光」という名前がちょっとした騒ぎになっている。つまり、昭和シェル石油との合併に創業家が反対しているというニュースだ。出光興産の創業者と言えば、百田尚樹の小説「海賊と呼ばれた男」のモデルにもなった出光佐三であり、彼の財力と慧眼が可能にしたコレクションが、この美術館の所蔵品であることは、4月30日付の記事で紹介した。この美術館が所蔵する日本美術の名品の数々は圧倒的であり、展示スペースの関係で3回に分かれた開催とはいえ、連続して足を運べば、そのコレクション (それでもまだまだ一部なのであるが・・・例えばこの美術館が所蔵する 1,000点を超える仙厓の作品は、今回全く展示されていない) の名品の数々を見ることができる、大変に貴重な機会であったのである。

第 3回の今回の副題は、「江戸絵画の華やぎ」。実は江戸時代以前の作品も展示されているが、ひとつの特徴はその題名の通り、華やかな作品が選ばれているということだろう。前回の水墨画中心の展示とは対照的だ。だがその展示の紹介の前に、恒例の (?) 国宝「伴大納言絵詞」の、今回展示されている下巻を少し見てみよう。ここでは、ついに罪が明らかになった大納言、伴善男の屋敷に検非違使一行が向かい、大納言が連行されて行くシーンが描かれている。上巻の応天門の火事、中巻の子供の喧嘩のような際立ったシーンはないものの、やはり人間描写のリアルさは圧倒的だ。これは屋敷に向かう検非違使たち。表情には緊張感が漲り、人々は身を寄せ合っている。
e0345320_23240594.jpg
一方これは、その後逮捕を終えて帰路につく検非違使たち。解放感に列はばらけ、心なしか表情も明るい。
e0345320_23242237.jpg
これらの間に、突然の主人の逮捕に泣き崩れる伴大納言の家族たちが描かれている。相変わらずリアルな感情を、マンガさながらの誇張を加えて描く作者の筆の冴えには脱帽だ。
e0345320_23252402.jpg
この国宝の絵巻物が海外流出せずにこの美術館に所蔵されているだけでも、このコレクションの意義の大きさが知れようというものだ。次に実物にお目にかかれるのはいつになるのか分からぬが、当面はこれらの画像を瞼の裏に焼き付けておこう。

その他、いくつか目に留まった面白い作品を紹介して行こう。これは重要文化財の「祇園祭礼図屏風」。桃山時代、慶長年間初期 (16世紀末) の作で、祇園祭を描いた現存最古の作品である。ちょうど今月、京都で行われている祇園祭は、9世紀に起源を持つという驚異的な祭であって、応仁の乱で一時中断したというが (っていつの話ですか 笑)、町衆の力で復活したらしい。私も以前、宵山を一度経験したことがあるが、その深い夏の情緒は言葉にできないくらい素晴らしく、本当に忘れられない経験だ。そんな情緒が 400年前の作品に漂っているとは!! 解説には、祭の賑やかさよりも厳かさを描いているとあるが、確かにそう見える。
e0345320_23510135.jpg
e0345320_23543196.jpg
今回展示されている屏風絵はいずれも華やかなものであるが、やはり桃山時代の「南蛮屏風」は私の好きな題材だ。戦乱の後、江戸時代という長期安定状態に入る前のごく限られた期間に、このような「国際交流」が日本でなされていたとは、考えるだけで浮き浮きするではないか。やっぱり好きだなぁ、南蛮屏風。
e0345320_23564001.jpg
そして江戸時代に描かれた、重要文化財「江戸名所図屏風」。八曲一双の、非常に横に長い屏風であり、上野、浅草、日本橋、江戸城から新橋、増上寺、芝浦という江戸中の盛り場の様子が描かれている。びっしりとひしめく人物たちは実に2,000人。こんな感じで、随所で歌ったり踊ったりしている。この種の絵画作品からいつも感じることだが、日本人は本当は社交的で明るい民族なのである。あー、江戸時代に生まれ変わりたい。
e0345320_00004716.jpg
さて、これまでの作品は作者不詳であったが、次は有名な画家の作品。英 一蝶 (はなぶさ いっちょう) だ。重要文化財「四季日待図巻 (しきひまちずかん)」。あーこれもまた楽しそうだ (笑)。
e0345320_00104154.jpg
この英 一蝶、確か中学生のときに国語の教師が「いい名前だねぇ」と言っていたので名前はその頃から鮮烈に記憶にあり、過去に展覧会に出かけたこともあるが、経歴については恥ずかしながらそれほどイメージがなかった。だが今回、自由な創作活動が幕府の不興を買って、12年間も三宅島に流罪になっていたと読んで、ああそうだったそうだったと思い出した次第。実はこの作品は彼が流罪になっていた頃のものであるが、そんなことを少しも感じさせない明るさである。全く、微塵も反省のない画家だ (笑)。楽しすぎるでしょ、これ。ちなみに「日待 (ひまち)」とは元来、特定の日に人々が集まって終夜屋内にこもり、日の出を礼拝するという行事であったが、元禄頃には皆で集まってドンチャン騒ぎをする遊興に変わって流行したらしい。うーん、時代と場所を問わず、人は何かにかこつけて結局飲んで騒ぎたいものなのだ。やっぱり楽しすぎるでしょ、これ。

今回のテーマは「江戸絵画の華やぎ」であって、「宴会絵画の華やぎ」ではない。ということで、ここで趣向を変えて、超大物画家の絶品をご紹介する。喜多川歌麿の円熟期の作品「更衣美人図」、重要文化財である。
e0345320_00311582.jpg
実はこの作品とは以前にも同じ出光美術館で対面していて、それは 3月28日の記事でも採り上げたのだが、再び実物の前に立ってみると、二度採り上げても全く惜しくない出来であることを実感する。その生々しさたるや、ちょっとたじろぐほどなのである。これは版画にはない、肉筆画ならではの存在感だ。そして、次も超有名画家の作品。
e0345320_00360683.jpg
こちらは葛飾北斎の「春秋二美人図」のうちの春の方だ。歌麿に比べると北斎の感覚はまるで近代の画家のようで、身体表現としてはより写実的だと思う。この対比はとても面白い。

さて、華やかな江戸絵画と言えば、なんと言っても尾形光琳であろう。この出光美術館には、MOA 美術館や根津美術館のような絢爛たる国宝大作はないが、興味深い作品がいくつかある。中でもちょっと風変わりなこの作品。「禊図屏風 (みそぎずびょうぶ)」、重要文化財である。
e0345320_00453517.jpg
え? これが光琳? と思われた方、お目が高い・・・というか、間近で見れば誰しもちょっと違う気がするであろう。横浜の三渓園を作った原 三渓の旧蔵で、もとは光琳作と言われ、調査によっても光琳の印章の痕跡が確認されたものの、解説には「光琳の真筆とするにはやや画格が落ちるといわざるをえず、その弟子作と見るべきであろう」とある。だが、この題材と、その描き方が大変面白い。一説によるとこれは、「伊勢物語」に登場する、叶わぬ恋心を洗い清めようと禊をするシーンであるとも言われているらしい。「伊勢物語」と言えば在原業平と思い込んでいたが、作中では主人公の名前は特定されていないらしい。いずれにせよこの作品、不思議な後ろ向きの男の姿に、シュールなまでに形式化された川の水、その勢いで後ろにふわっと舞っている男の衣類と、それから奥の山 (?) の装飾性には、確かに光琳風の粋な感覚を感じることができる。

そして、あっなんだ、仙厓もあるじゃない、と思うと、実はこれは光琳の真筆。弟、乾山のために描いた茶碗絵付け用の絵手本である由。この兄弟は共作も多く、このような気楽な走り書きには、切れ味よく凝った装飾で時代を先駆けた光琳とは異なる顔を見る思いである。
e0345320_00554825.jpg
琳派の作品としては、光琳より 100年ものち、場所も異なる江戸で活躍した酒井抱一と鈴木其一の作品も何点か展示されている。これは其一の「秋草図」。なんとも鮮やかだ。明らかに光琳の時代よりも近代性が強く、細密描写でありながらも形式的な作風だ。
e0345320_00592699.jpg
抱一の「紅白梅図屏風」のうちの白梅。敬愛する光琳の同名の作品とは、あえて違う作風に挑戦しているのであろう。銀の屏風に鋭く切れ込む枝が、独特の生命力を見せる。
e0345320_01072221.jpg
そして、これも抱一の、「風神雷神図屏風」。有名な俵屋宗達の作品を模写した光琳に倣って描かれたもの。以前、この 3作品が一堂に会する展覧会で興味深く比較をしたことがあるが、構図は全く同じでも、端の方の切れ方や、線の引き方、体の周りの墨 (雲?) の形態などに、微妙な違いがある。この抱一の作品は、ほかの 2点より色合いが鮮やかで軽やかに見える。風神雷神に仮託して琳派の継承を高らかに宣言するかのような、意気込みが感じられる。
e0345320_01122377.jpg
e0345320_01125380.jpg
このように、今回も名品てんこ盛りのすばらしい出光美術館のコレクション展だ。創業家が現代の出光興産のビジネスに口を出すのがよいことか悪いことか判らないが、これらのコレクションの管理維持だけは、出光の社会的な責務になっているので、その点、ご如才なくことながら、よろしくお願いします。

さて、この記事のあとにもまだいくつかアップすべき記事のネタはあるのだが、しばらく出張に出てしまうので、一週間と少し、ブログの更新はできません。あしからずご了承下さい。


by yokohama7474 | 2016-07-07 01:19 | 美術・旅行 | Comments(0)