ジョナサン・ノット指揮 東京交響楽団 2016年7月16日 サントリーホール

e0345320_21455641.jpg
今月の東京交響楽団(通称「東響」)の指揮台には、音楽監督ジョナサン・ノットが3回登場する。そのうちの2回、今日と明日、演奏されるのは、ブルックナーの大作交響曲第8番ハ短調である。逃げも隠れもできない、西洋音楽の歴史の中でも指折りの深い内容を持つ巨大な交響曲。全曲演奏にたっぷり80分を要し、当然ながら途中に休憩はない。この日のチケットは既に完売であり、夏休み前の東京のクラシック音楽シーンの大きなイヴェントと位置付けることができるだろう。
e0345320_22312458.jpg
楽団のホームページを見ると、最近のノットの活動としては、6月下旬にダニエレ・ガッティの代役としてウィーン・フィルを指揮、テノールのヨナフ・カウフマンを独唱者としたマーラーの「大地の歌」を録音したという。ウィーン・フィルのフェイスブックには、「ヨナス・カウフマン Only!」とあるので、通常2人の独唱者を必要とするこの曲をひとりで歌い切ったということか?! そんな楽譜があるのだろうか。ともあれノットはその後、16年間常任指揮者を務めたバンベルク交響楽団との最後の演奏会を現地で指揮。2つの演奏会のうちのひとつの曲目が、今回東響でも採り上げる、このブルックナー8番であった由。彼がこれまでこの曲を指揮したことがあるのか否か分からないが(ネットで調べると2002年にルツェルンでは演奏しているようだが)、いずれにせよ、ノットが自らの節目に選んだ特別な曲であると解釈しよう。これは今回のリハーサルの様子。壁面の模様から、場所はミューザ川崎であることが分かる (上のインタビューもそうだが)。
e0345320_22092204.jpg
東京のコンサートは海外と違って、開演前にやたら静かなのが特徴なのであるが、今回は特にそうで、まるで儀式の開始でも待つかのように静まり返っていた。東京の聴衆は既にブルックナーにはおなじみであり、この8番も、多くの聴衆が既によく知っている曲なのであろう。見ていると老若男女、いろいろな人たちが来ている。この曲目でこのような多種多様な聴衆が集まって完売になる街は、東京以外にはあるだろうかと、ふと考える。

さて、そのような中で始まった今回のブルックナーは、いかにもノットらしく流れのよい清潔感のある演奏。東響も、各楽器の間の音楽の受け渡しが素晴らしくスムーズで、力の入り方に無理がなく、強引さが皆無の美しい演奏であった。ノットは譜面台にスコアを置いているものの、前半は全くそれを見る気配もなく、後半にはページはめくっていたものの、目をやっているようにはほとんど感じられなかった。今のジョナサン・ノットの持ち味のすべてが発揮された、好感の持てる演奏であったと言えるだろう。マイクがあちこちに立っていたので、録音として残されることになるようである。

と、ここまで賛辞を連ねておいて、急に留保をつけるのが私の悪い癖(?)なのであるが、これまでに東京で繰り広げられてきた壮絶なブルックナー演奏(中にはオケの技術的限界を超えるものもあった)の流れの中では、少し線が細いような気がしたのは私だけであろうか。このブルックナーという作曲家、このブログの記事でも何度も採り上げてきており、その度に指揮者の適性について思いを述べている。彼は大変特殊な作曲家であり、綺麗な音でなるとか整理が行き届いているだけではどうにもならない神秘性を持っているのだ。若いからダメとか年を取っているからよいという問題でもない。不思議な相性がある場合が多いと思うのである。その点で見れば、ノットのレパートリーとしてブルックナーは、今の時点では最高の相性というわけではないと思っていて、今回の演奏の充実を実感しながらも、この指揮者とオケが今後10年の契約期間のうちに到達するであろう高みに対する期待が、むしろ募ることとなった。考えてみればこの東響は、日本の生んだ奇跡のブルックナー指揮者、朝比奈隆が東京で定期的に指揮したオケのうちのひとつで、このコンビでのブルックナーの録音もある。世界の最前線で活躍する指揮者が、もしかすると日本で独自に発達したブルックナー演奏に学ぼうとしているようなことが起こると面白いなぁ、と勝手に妄想している次第。

この秋、ノットと東響はヨーロッパに演奏旅行に出かける。目的地は、ポーランドのブロツワフ、ザグレブ、ウィーン、ロッテルダム、ドルトムントの5ヶ所。是非是非ヨーロッパの聴衆に自らの音楽をじっくり聴いてもらうような充実した演奏を求めない。このコンビはまだまだこれからすごいことになって行くと思う。
e0345320_22362675.png

by yokohama7474 | 2016-07-16 22:39 | 美術・旅行 | Comments(0)
<< マネーモンスター (ジョディ・... マスネ 作曲 歌劇「ウェルテル... >>