アリス・イン・ワンダーランド 時間の旅 (ジェイムズ・ボビン監督 / 原題 : Alice through the Looking Glass)

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私にとってティム・バートンは、現存する映画監督の中では指折りのお気に入りのひとり。彼の映画に必ず出てくる内気な、だけど自分の世界を持つキャラクターが監督自身の投影であると理解しながら、実はしたたかに映画の商業的成功も可能にする手腕を持つ点に、いつも感心するのである。2010年に彼が監督した「アリス・イン・ワンダーランド」もそのような作品のひとつであった。ただ、いきなりの賛辞保留で恐縮だが、もともとルイス・キャロルの創造したアリスという、既によく知られたキャラクターを利用することの意義に若干ならぬ疑問を抱いたことも事実。加えて、その後も様々な映画で大活躍している主役のミア・ワシコウスカが、当時既にアリス役にしては年が行っていることに、どうしても納得が行かなかったものである。そして今回、6年を経て公開される2作目も、その主役に加え、ジョニー・デップ、アン・ハサウェイ、ヘレナ・ボナム=カーターらの主要出演者も軒並みそのままに製作された。これはそのミア・ワシコウスカをフィーチャーした英語のポスター。
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この映画の予告編を見たときに、「あぁ、2作目か。まあ、ティム・バートンだから一応見ないとなぁ」と思ったものであるが、その後判明したことには、これはティム・バートンの監督作ではないのである!! 彼の次回監督作は、日本でも既に予告編を上映しているが、「ミス・ペレグリンと奇妙な子供たち」という作品。うーん、そちらに注力するあまり、このアリス第2作の監督は手掛けなかったものであろうか。一応本作の製作者には名を連ねているものの、やはり監督でなければ細部の趣味性には口を出すことはできまい。結論を急いでしまうと、その時点でこの映画の内容は多かれ少なかれ決まってしまったものであろうと思われる。やはり私は、監督としてのティム・バートンには敬意を表するが、残念ながら、製作に関わった作品すべてに敬意を表するわけには行かないのだ。ティムさん、聴いていますか???
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今回の映画では、いきなり荒波の航海シーンで始まるが、そこではアリスが船長なのである。これってルイス・キャロルのイメージのどこかにあるものであろうか。アリスの人生航路ということか?責任者出て来ーい(笑)。そうなのだ、ここではティム・バートンはもはや責任者ではないのだ!! 既に忘れている前作のあらすじを紐解くと、どうやら貿易商の父の遺志を継いでアリスが船に乗るところまで描かれていたようだ。そうでしたかね。調べてみると、前作も本作も、脚本家は同じリンダ・ウールヴァートンという人で、もしかすると最初から連続したストーリーを構想していたのかもしれない。まあそれはよいのだが、この作品における問題は、「なぜアリスが船乗りか」「なぜ彼女はアンダーランド = ワンダーランドに戻って行くのか」「なぜ彼女はマッド・ハッターにそれほど感情移入するのか」「彼女は何を求めて時間旅行するのか」「彼女はなぜ世界全体の存続に直接影響するクロノスフィアの扱い方を知っているのか」等々、この映画のストーリーの根幹に関わる点の数々が、説得力のある形では全く描かれていないことではないか。つまり、見ていてハラハラドキドキの感情移入ができないもどかしさから、最後まで抜け出ることができないのである。そもそも原題は、「鏡を通り抜けるアリス」という意味なのに、邦題は「時間の旅」などと置き換えているが、なぜにアリスが時間の旅に出かける必要があるのか、申し訳ないが私にはさっぱり分からない。それなのにマッドハッター役を喜々として演じるジョニー・デップ。
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繰り返しだが、ここでティム・バートンが監督を務めていないことが、決定的にこの映画の性格を決めてしまった。なぜだろう。私が思うに、カット割りが細かすぎるのではないか。頻繁な短い切り返しは、もともと想像力を羽ばたかせるに充分な説得力のないストーリー展開に、さらにうるさいほど余計な説明性を加えてしまっていないだろうか。普通の映像がほとんどなく、コンピューターによって作られた映像の果てしない連続によって著しく情報量が多くなっているこの映画では、過剰でいながら説得力のないカット割りは、イマジネーションを阻害すること甚だしい。少々ウンザリである。加えて、すっかり性格女優としての貫禄を身に着けた、ティム・バートンの私生活におけるもと伴侶、ヘレナ・ボナム=カーターの演技も過剰気味。それから、顔がデカい。あ、それは役柄なのだが、ちょっとうるさい(笑)。まだ可愛らしかった「フランケンシュタイン」の頃が懐かしい。
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そして、未だ美貌衰えぬ(と思って調べたら、未だ33歳と若い)アン・ハサウェイ。演劇好きなら誰もが知る、シェイクスピアの妻の名前だが、これは本名であるようだ。
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この映画での新顔としては、怪優サシャ・バロン・コーエンがいるが、彼の演技はここではそれほど印象的ではない。それよりもむしろこの映画の価値として挙げられるのは、アラン・リックマンの遺作であるという点であろう。と言っても、本人が役者として演じているのではなく、CGキャラクターの声の出演なのであるが。アブソレムという、アリスを導く蛾である。
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プログラムで彼がこの役の声を受け持っているのを見て、果たして彼の遺作であるのか否か知りたくなったのであるが、本編終了後のメインキャストのアニメーションによる紹介(正直、あまり面白くない)のあと、長いエンドタイトルに入る前に、「我々の友人アラン・リックマンに捧ぐ」という献辞が目に入り、少し心が安らかになった(?)気がしたものだ。やはり一般には「ハリー・ポッター」シリーズで知られているであろうが、その声を聴くだけで独特の奥深さを感じさせる俳優であった。
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まあ、あれこれ文句は言っているものの、ティム・バートンの次回作における挽回を期待するという意味においては、なかなか突っ込みどころ満載の映画ではあったと思います。

by yokohama7474 | 2016-07-30 23:52 | 映画 | Comments(0)