上岡敏之指揮 新日本フィル 2016年9月11日 横浜みなとみらいホール

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新日本フィルハーモニー交響楽団(通称「新日本フィル」)の演奏については過去何度かこのブログでも採り上げ、その度に書いてきたが、このオケ待望の第4代音楽監督である上岡敏之(かみおか としゆき 1960年生まれ)が、この9月からその地位での活動を開始した。前音楽監督クリスティアン・アルミンクの時代から、またその後の音楽監督不在中もインゴ・メッツマッハーやダニエル・ハーディングという世界的名指揮者のもとで、メキメキと力をつけてきた上昇機運にあるオケと、長らくドイツを拠点にコンサート、オペラの両面で叩き上げの実績を積み上げてきた指揮者の組み合わせは、間違いなく東京の音楽界におけるひとつの新たな聴きものである。東京にはメジャーどころだけで7つのプロのオケがあるが、その首席指揮者または音楽監督の顔ぶれを見ても、日本人はこの新日本フィルの上岡と、東京都交響楽団の大野和士の2人しかいない。実はこの大野と上岡は、湘南高校、東京藝大を通しての先輩・後輩の間柄。双方とも同じ1960年生まれながら、早生まれの大野の方が学年は一つ上である。この両者の直接の対談は見たことがなく、このブログをご覧になる公共放送の方には、是非それを企画して頂きたい。以前の広上淳一と大野和士の対談は大変面白かったが、現在の東京の音楽界の顔の対談となると、きっとそれ以上面白いものになるし、その価値はあると思います。

今回私が聴いたこのコンサートは、このオケとしては珍しく、横浜みなとみらいホールで行われたものである。私の記憶では、このオケがここで演奏するのを聴いたことはないと思う。横浜特別演奏会と銘打っての公演で、今回だけでなく、12月や来年5月にも、やはり上岡の指揮での演奏会が予定されている。これは、来年サントリーホールが改修に入ることを意識してのものか、あるいはマエストロゆかりの地である神奈川県に敬意を表しつつファン層を拡大しようという試みであろうか。ただ、ホールの人も慣れないのか、開演前のアナウンスで、「ロビーで○○グッズを売っています」と、別のオケの名前を言っていたのを聴き逃しませんでしたよ(笑)。次回以降は気を付けて頂きたいものだ。このホールは、1998年に開場した2,002名収容の素晴らしいホール。
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上岡と新日本フィルの新コンビは、この2日前の9月9日にサントリーホールで今季初の演奏会を開き、それと同じプログラムを横浜に持ってきた。それは以下のようなもの。
 リヒャルト・シュトラウス : 交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」作品30
 リヒャルト・シュトラウス : 交響詩「英雄の生涯」作品40

つまり上岡新体制の新日本フィルは、その新シーズンを、クラシック音楽の中でも華やかなファンファーレと言えばこれしかない、あの「ツァラトゥストラ」で始めたのである。映画「2001年宇宙の旅」で使われて以来、各種イヴェントやテレビなどでも、クラシック音楽の範疇を超えて広く一般に親しまれているこの曲。だがニーチェの哲学書に題材を採ったその内容は実に多彩で、まさにオーケストラ音楽の極致のひとつ。かつての録音でも、このように宇宙的なイメージのジャケットが定着している曲だ。
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このような曲になると、昨今の東京のオケの技術的な進歩を如実に聴き取ることができて嬉しい。今回の演奏でも、暗譜で明確に指示を与える上岡にオケはよくついて行き、のみならず余裕まで感じさせたものであった。そう、往々にして日本のオケはこれまで、音がよく鳴っているときでも、概して真面目すぎるきらいがあった。だが最近はそのあたりも変わってきていると思うし、今回は、時に不気味なまでの(?)ニコニコ顔で棒を振る上岡の影響もあってか、コンサートマスターの崔 文洙(チェ・ムンス)にも時に笑みがこぼれる。
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もしここに何か望むとしたら、あとはさらに圧倒的な「力」であろうか。上岡はドイツでの活躍が長いとはいえ、決していわゆる重々しい伝統的なドイツ風音楽をする人ではない。だが、このオケとの新境地として、少し力の表出に重点を置いてみると面白いのではないだろうか。ともあれこの「ツァラトゥストラ」、次々と移り変わる音楽性情景を洗練された音で描き出したのであるが、クライマックスで鳴り響く鐘が上の方から聴こえて来ると思うと、なんといつの間にか、ステージ裏のオルガン横に若い女性打楽器奏者とともに出現!!適当な画像がないが、このような縦に吊るすタイプのもので、もう少し一本のサイズが大きくて本数が少ないものであった。ステージ上には鐘を置くスペースはまだあったので、これは指揮者の意図によって、わざわざ上方から鐘が響くという演出にしたものと理解した。
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この曲の最後は低弦のピツィカート3回で静かに終わるのだが、その音を上岡は、指揮棒を地面に3回突き刺す動作でえぐり出した。常に明確な彼の指揮は、オケにとっても出すべき音をイメージしやすいものではないだろうか。

後半の「英雄の生涯」もまた、鮮やかな演奏であり、ここでもやはりコンサートマスターの崔 文洙のソロが冴える。この曲のヴァイオリン・ソロは英雄の伴侶を表しており、高度な技術を求められることもさることながら、艶やかでコケティッシュである必要がある(ちなみにこの曲は作曲者自身を英雄に見立てているが、実際のシュトラウス夫人、パウリーネはかなり逞しい性格の人であったと言われていて、とてもこんな艶っぽいヴァイオリンのイメージではなかったそうだが)。今回のソロは、一般的なこの曲の演奏パターンに比較すると、あまり耽美的にならず、音が粘らない配慮がされているように聴こえた。上岡の描く英雄の伴侶は、やはりあまり色気のない人なのだろうか(笑)。
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この「英雄の生涯」、全体を通しての感想は「ツァラトゥストラ」と同じで、鮮やかではあるが、ここにさらに力が加わればさらに素晴らしいだろうというもの。いやそれにしてもこの曲、ティンパニ奏者も大変だなと、見ていて改めて思ったものだ。木管、金管も含め、大変充実感のある演奏であったことは間違いない。

さてさて、この演奏会でステージを見渡して、ひとつ気になることがあった。それは、最初からチェレスタが置いてあることであった。
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だがそこに奏者はいない。この2曲には、この楽器は使われていないのだ。そうするとアンコール用だろうか。今回のように同じリヒャルト・シュトラウスを2曲続ける演奏会では、アンコールもやはりシュトラウスであろう。考えられるのは「ばらの騎士」のワルツであるが、チェレスタは使われていないだろう。もしかすると、上岡と新日本フィルが次回このホールで演奏するチャイコフスキーの「くるみ割り人形」を予告編的に演奏するのか? などと思いを巡らしていると、チェレスタ奏者(前半でオルガンを弾いていた奏者だ)も入ってきて始まったアンコールはなんと、楽劇「サロメ」から7つのヴェールの踊りであったのだ!!おーこれは、アンコールにしては難曲すぎる。「英雄の生涯」が終わってほっとしたところで、怪しいサロメの狂乱の踊りとは、なんとハードな。これは、私が大好きなモロー描くところのサロメ。シュトラウスの音楽もこのようなイメージだ。
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そうなのである。ここで「ばらの騎士」ではなく「サロメ」を選ぶあたり、マエストロ上岡もBright SideよりはDark Sideがお好みと見える(笑)。実際このアンコールは集中力の強い素晴らしい演奏で、新コンビの名刺代わりの一発をとしての演奏会を、強烈に仕上げることになったのだ。そして改めて思うのは、わずか44歳で驚異の「英雄の生涯」を書きあげて曲中で自分を引退・大往生させ、それから世紀をまたいで「サロメ」「エレクトラ」「ばらの騎士」という、さらにとんでもないオペラの世界に移って行ったシュトラウスという作曲家の創作活動の充実ぶりだ。よい演奏とは、音楽作品の表現力を聴衆に実感させる演奏。その意味で、今回は大変充実した演奏であったと思う。ここで得られた数々のヒントを、今後このコンビを聴く際に役立てて行きたいと思う。NHK さん、先輩後輩対談、お願いしますよ。

by yokohama7474 | 2016-09-12 01:14 | 音楽 (Live) | Comments(0)
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