サントリーホール30周年記念 ガラ・コンサート ズービン・メータ/小澤征爾指揮 ウィーン・フィル 2016年10月2日 サントリーホール

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東京が世界に誇る名ホールであるサントリーホールが開場して今年で30年。うーむ、もうそんなに経つのか。開館記念の一連のコンサートシリーズを昨日のことのように覚えている身としては、それだけ自分も年を取ったと思うと感慨もひとしおだ。ではここで、今回の演奏会に先立って30年前にタイムスリップと洒落込もう。このホールの開館には文字通り世界的な音楽家が集ったものである。これが当時の分厚いプログラムの中表紙。
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以下、現在のサントリーホール館長であるチェリスト堤剛のサイン(ジュゼッペ・シノポリ指揮フィルハーモニア管との協演)、そのシノポリのサインと、彼が指揮したマーラーの「復活」でアルトを歌った名歌手、ヴァルトラウト・マイヤーのサインと当時の批評記事。
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それから、今回のガラ・コンサートにも登場した小澤征爾が、カラヤンの代役としてベルリン・フィルを指揮した演奏会の案内と、吉田秀和によるその演奏の批評記事。加えて、プログラムに載っている小澤のインタビュー。
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これら以外にもまさに百花繚乱であった30年前のオープニングから現実に戻ろう。このガラ・コンサートは正装で参加するように事前の呼びかけがあったものだ。私はブラックタイでバッチリ決めて行ったが、実際のところどのくらいの人たちが正装で来るのか、ちょっと不安であった。ところが現地に行ってみてびっくり。ほとんどの人が正装であり、たまにそうでない人がいても、ちゃんと背広にネクタイ着用だ!!そのような人々の募る会場のサントリーホールは、赤絨毯が敷かれてなんとも華やかな雰囲気に包まれた。
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そしてホール内にはこのような花が飾られ、さながらウィーンのニューイヤーコンサートのようだ。これはいやが往にも高揚感を覚えざるを得ない。そして、ここに集った紳士淑女は皆素晴らしい着こなしであり、特に女性の場合は、ドレスであったり和服であったりで、年齢や素材(?)に関わらず、誰も彼も美しく見える。東京の文化度を改めて感じ入る。
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この日の曲目を、サントリーホールのウェブサイトからコピペしよう。

【第一部】

モーツァルト: オペラ『フィガロの結婚』K492から 序曲 …(M)

シューベルト: 交響曲第7番 ロ短調 D759 「未完成」 …(O)

【第二部】

武満徹: ノスタルジア ―アンドレイ・タルコフスキーの追憶に― …(O)

ドビュッシー: 交響詩『海』-3つの交響的スケッチ …(M)

【第三部】

J. シュトラウスII: オペレッタ『ジプシー男爵』から 序曲
: ワルツ『南国のバラ』 op. 388
: アンネン・ポルカ op. 117
: ワルツ『春の声』 op. 410

ヘルメスベルガーII: ポルカ・シュネル『軽い足取り』

J. シュトラウスII: 『こうもり』から「チャールダーシュ」
: トリッチ・トラッチ・ポルカ op. 214

第三部 全曲 … (M)

(M)=指揮:ズービン・メータ  (O)=指揮:小澤征爾

指揮を執るのは、80歳のズービン・メータと81歳の小澤征爾。大変に仲のよい二人であり、文字通り過去30年間、いやそれ以上の長きに亘り、世界のトップで活躍して来た指揮者たちだ。そうして演奏を務めるのはあのウィーン・フィルなのである。これは文字通り歴史的なイヴェントであり、この世界的なホールにふさわしい世界的なイヴェントでもある。今回はロレックスがスポンサーであったようだが、このホールの小ホールであるブルー・ローズにはドリンクコーナーが設けられ、写真パネルも展示されている。あ、ドリンクコーナーと言っても、タダでドリンクが配布されているわけではなく、ホールの通常メニューの通常料金でしたがね(笑)。

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この演奏会、通常より長い三部構成であり、16時に開演して19時30分頃の終演。いやはや、この世界的ホールの30周年を祝うにふさわしい、素晴らしいコンサートであったし、これを聴くことのできた人々にとっては、一生の宝になるような経験であったろう。

第1部はオーストリア古典派からロマン派の音楽。最初はメータ指揮の「フィガロの結婚」序曲。この指揮者らしい重心の低い音でよく鳴っていたが、やはりそこはウィーン・フィル。重めの音でも優美さに欠くことはないのだ。2曲目は小澤の指揮でシューベルトの「未完成」。いつもの椅子を指揮台に置き、ほとんどが座っての指揮であったが、第1楽章の大詰めや、第2楽章の中間部の盛り上がりではすっくと立ち上がり、往年と変わらぬ歌心に満ちた演奏を展開した。この曲は、このホールのオープニングシリーズの中で、カラヤンに代わって小澤がベルリン・フィルを振って演奏した曲。30年を経て、今回はウィーン・フィルとの演奏である。こんなことのできる日本人指揮者は、もう今後出てこないであろう。何も感傷的になる理由はないが、正直なところ、涙腺が結構危なかったことを白状しておこう。

第2部はフランス的感性が求められる曲。最初は今年没後20年の武満の曲である。小澤は世界に知られた武満演奏のスペシャリストであるが、この「ノスタルジア --- アンドレイ・タルコフスキーの追憶に」を指揮したことはあっただろうか。ちょっと記憶にない。ここでヴァイオリンを演奏したのは、まさに現代ヴァイオリン界の女王、アンネ・ゾフィー・ムターである。
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これは素晴らしい演奏で、ムターのじっくりと歌うヴァイオリンが、ちょっと聴いたことのないような密度を持って響くのは圧巻であった。そして、珍しい光景を見ることができた。それは、スコアを見ながら指揮する小澤征爾である!!この人が暗譜で指揮していないのをこれまで見た記憶がない。もっとも、協奏曲の伴奏の場合は別であるが。・・・あっ、そうか。ヴァイオリン独奏を伴うこの曲は、いわば協奏曲であったのか(笑)。まあそれにしても、繊細な音が紡ぎ出されていた。聴いていると、「弦楽のためのレクイエム」のオーケストラパートをバックに、「ノヴェンバー・ステップス」の尺八パートをヴァイオリンが演奏するような雰囲気も感じたものだ。ところでこの作品に関連する、武満がタルコフスキーについて語っているサイトがあるので、ご参考まで。
http://www.imageforum.co.jp/tarkovsky/tkmt.html

そして、武満の感性に通じるフランス音楽の精華、ドビュッシーの「海」。メータのレパートリーとしては決して中核ではないと思うし、スコアを見ながらの指揮であったが、その演奏の美しいこと!!言葉であれこれ形容しても届かない。このコンビは後日ほかのオーケストラコンサートでもこの曲を演奏することになっている。行かれる方は是非楽しみにして欲しい。

そして最後の第3部は、ウィンナワルツである。メータはウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートに何度となく登場しており、もともとウィーンで学んだ人だけに、実に大らかに楽しそうに、暗譜でこれらの曲を指揮する。とても先頃80歳になったとは思えない。世の中にこんなに楽しい音楽はない。ただ、その享楽が退廃と紙一重であるからこそ、限られた人生を楽しもうという気になるのである。ここでは、ワルツ「春の声」と、喜歌劇「こうもり」からのチャルダーシュを、イスラエル出身のソプラノ、ヘン・ライスが美しく歌い上げた。
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ニューイヤー・コンサートで「春の声」にソプラノを入れて演奏したのはカラヤンだ。その時のソプラノは、絶頂期のキャスリーン・バトル。なんとも懐かしい。ところでメータは、「こうもり」のチャルダーシュと、アンコールで歌われたレハールの喜歌劇「ジュディッタ」から「私の唇にあなたは熱いキスをした」では、弦楽セクションそれぞれを1プルト(2人)ずつ減らして伴奏していた。歌手の声を消さないようにという細かい配慮であったのだろうか。それにしても、ヨハン・シュトラウスの後にレハールを聴くと、後者のより進んだ退廃ぶりが実感されますな(笑)。

アンコールの2曲目には再びムターが登場。小澤だけでなくメータとの協演も披露しようということか。演奏したのは、クライスラーのウィーン奇想曲。ムターのヴァイオリンはまさに万能。なんとも言えないウィーン情緒が現出した。

そして次に小澤とメータが2人で登場。指揮台には小澤のための椅子は用意されていない。そこで小澤は指揮台に腰掛ける。それを見たメータは、自分もその横に腰掛けて笑いを取る。そして、腰掛けたままのメータの指揮で始まったのは、ヨハン・シュトラウスのポルカ「雷鳴と電光」。「こうもり」の劇中で演奏されることもある華やかな曲で、先頃の小澤征爾音楽塾の演奏でもそうであった。2人の巨匠指揮者はそのうち立ち上がり、譲り合うような競い合うような感じでそれぞれ指揮をする。小澤は踊るようなひょうきんなふりを見せ、雷鳴を響かせるトロンボーンが演奏の度に立ち上がる際に、逐一合図を送っていた。そうして最後の和音とともに、ホールの左右の壁のかなり高いところから、爆竹の破裂音とともに、金色のリボンが大量に吹き出し、客席はもう大盛り上がりだ。日本にしては珍しく、すぐに総立ちのスタンディングオベーションが始まり、この記念すべき30周年ガラ・コンサートは終わりを告げたのであった。これは終演後の様子。床に散乱した金色のリボンを拾う人たちが沢山いた。
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帰り道、タキシードを着たまま車を運転して考えた。サントリーホールの30年は、東京の音楽界が世界に伍して行く発展の時期であった。その時代を通してメータや小澤は第一級の指揮者として活躍して来た。その彼らも既に80代。まだまだ老け込むことなく、活躍を続けて欲しい。音楽があれば人生は豊かになるし、つらいことや悲しいことも乗り越えて行ける。そうして、正装で集まって音楽を楽しむことのできる東京の聴衆は、本当に幸せなのだ。ありがとう、サントリーホール!!


by yokohama7474 | 2016-10-03 01:29 | 音楽 (Live) | Comments(0)