2016年 10月 15日
久石譲 MUSIC FUTURE Vol.3 2016年10月14日 よみうり大手町ホール
作曲家久石譲は、一般には主として宮崎駿とスタジオジブリの映画音楽で知られているだろう。1950年生まれなので、今年66歳になる。作曲家として油の乗り切った年代だ。
四半世紀以上前にこの界隈で社会人として産声を上げた私としては、昨今の丸の内・大手町エリアの変貌ぶりには目を見張る思いだ。昔はこんな場所を夜や週末に歩くオシャレな人やカップルたちはいなかった。ただ重苦しい残業か、あるいは職場の延長としての陳腐なノミュニケーションの場であったわけだ。だが最近では、ブランドショップもあればこじゃれたレストランもあり、最近ではなんと星野リゾートの温泉旅館まであるではないか!! そんな中、この読売新聞社ビルにはコンサートホールがあるのだ!!いわく、「都心の文化の発信拠点」「最上質の音空間 至福のひととき」であるとな。
シェーンベルク : 室内交響曲第1番作品9(1906年作)
久石譲 : 2 Pieces for Strange Ensemble(2016年作、世界初演)
マックス・リヒター : マーシー(2010年作)
デイヴィッド・ラング : ライト・ムーヴィング(2012年作)
スティーヴ・ライヒ : シティ・ライフ(1995年作)
そして、久石の指揮のもとで演奏するのは、Future Orchestraという小規模なオーケストラで、コンサートマスターは、あの豊嶋泰嗣(とよしま やすし)だ。
2曲目の久石の自作は後回しにして、休憩後に演奏された3曲目以降について先に書こう。3曲目と4曲目は、実はオーケストラではなく、ソロ・ヴァイオリンとピアノ伴奏によるもので、いずれも現代を代表する女性ヴァイオリニスト、ヒラリー・ハーンの委嘱によるもの。3曲目のマックス・リヒターの「マーシー」は、「慰撫」と訳されていて、今年6月12日にそのヒラリー・ハーン自身が横浜で行ったリサイタルでもアンコールとして演奏された(当ブログの同6月12日の記事ご参照)。4曲目の作曲家デイヴィッド・ラングは、会場配布のプログラムで初めて知ったことには、私も激賞した映画「グランドフィナーレ」(今年6月4日の記事ご参照)の音楽担当だった人だ。その「グランドフィナーレ」の記事では、私は劇中の音楽については語ったものの、音楽を担当した作曲家については語らなかった。これはぬかった(笑)。この2人はいずれもミニマル・ミュージックの作曲家に分類されるので、その出自がミニマル・ミュージックの作曲家である久石の企画する演奏会にはふさわしいだろう。いずれも楽しめる曲であり演奏であった。ただ、先にハーンの演奏を聴いてしまっている身としては、いかに優れたヴァイオリニストである豊嶋といえども、少し分が悪かった面もあったとは、ここでも正直に書いておこう。
最後に演奏されたのは、ミニマルの大御所、今年80歳を迎えるスティーヴ・ライヒの作品。ライヒについては、来年本人が来日するので、もしそのコンサートに行くことができればまた記事であれこれ書いてみたいが、まあそのメタリックでありながらなんとも陶酔的な音楽は、何か人間の神経の中枢に訴えかけるものがあって、私は大好きなのである。今回の「シティ・ライフ」は初めて聴いたが、人の声の録音を音響素材の断片として使っていて、いかにもライヒらしい。このような音楽は、やはり録音ではなく実演で聴きたいものだ。相変わらず明確な指揮ぶりの久石は、演奏後、大変満足そうな表情を見せていた。プログラムに掲載されているライヒ自身の言葉は、「純粋な "ニューヨーク・ピース" として日本の聴衆のために演奏されるのはとても嬉しいことです」とある。これは嬉しそうなライヒの写真。