2016年 10月 30日
ハドソン川の奇跡 (クリント・イーストウッド監督 / 原題 : Sully)
だからというわけではないが、この映画はどうしても見たいと思っていた。2009年1月15日、乗員乗客155名を乗せてニューヨークのラガーディア空港を出発したUS AirwaysのA320(英仏独の共同出資会社エアバス社製)が、離陸後まもなく、いわゆるBird Strike(あ、これは鳥がストをするという意味ではなく、鳥の衝突のことです)によって両方のエンジンの出力を失い、あわや墜落というところ、機長のとっさの判断でハドソン川に着水し、全員の命が救われたという実話が題材になっている。実は私は、この事故が起こる1年2ヶ月前まで、ニューヨークのアッパーウェストサイド、まさにハドソン川沿いに住んでいたので(犬連れで)、自分のよく知っている場所で起こったこの事故は、大変衝撃的であった。ちなみにこのブログの題名「川沿いのラプソディ」は、私が今住んでいる多摩川沿いで、気まぐれに話題があっちこっちに散らばるブログを書いていることを自ら揶揄して命名したものであるが、実はニューヨークでもやはり川沿いに住んでいたということで、やはり、ある世界と違う世界の境界であって魔物が出没する、川沿いという場所に惹かれる私の性向は、以前から変わらないものと見える(笑)。ちなみにこのハドソン沿い、ご近所には、ドナルド・トランプが建てたアパート群が沢山建っておりましたですよ。
そんな個人的な思い入れもあり、しかもクリント・イーストウッド監督、トム・ハンクス主演とくれば、もうこれは、見るのが義務である。これはすごいツー・ショットではないか。ハンクスはイーストウッドの監督作品に主演するのはこれが初めてのこととなる。イーストウッドがリハーサルなしにいきなり撮影をする主義なので、役者たちはこっそり集まってリハーサルしていたとか(笑)。
そして、ここで描かれた出来事は、本当にフィクションよりも稀有なことである。正直なところ私は、機体が着水してから乗客が避難し、水が機内に入ってくるあたりで、体が震え始めてしまった。こんなことが実際起こったなどと、誰が信じようか。その後の救出劇も含め、人間の命の尊厳を深く感じる経験となった、と書くときれいごとのように響いてしまうが、もうそれしか言葉がない。映画にはこんなことができるのだ。
機体が着水している写真を掲載しようかと思ったが、やめておく。そんな光景、見たくもないし想像したくもない。その代わり、救出された後に乗員乗客を気遣うサリーの姿を載せておこう。韓国で船が沈没したときに真っ先に逃げて逮捕された船長がいたが、やはり人間、非常時には恐怖に駆られてしまう弱い存在なのである。だから、このサリーの勇気ある冷静な行動に、襟を正したくなるのである。