ジェイソン・ボーン (ポール・グリーングラス監督 / 原題 : Jason Bourne)

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現代ハリウッドを代表する俳優、マット・デイモンが主演を務める「ジェイソン・ボーン」シリーズの新作。当然大ヒット間違いなしと思っていた。ところが、このブログでは同様の例を何度も書いているような気がするが(笑)、ふと気が付くと、封切1ヶ月にして既に上映している劇場は都内でも数えるほど。そんなはずはないだろうと思いながら、ほかの予定との兼ね合いを懸命に考え、ちょっと無理をしてなんとか見ることができた。実際に見てみると、あまりヒットしなかったのもなんとなく分かるような気もするし、一方で、それはもったいないという気もする。たまたま似たようなタイプの映画で、こちらはトム・クルーズ主演の「ジャック・リーチャー NEVER GO BACK」の封切も始まったという事情も関係しているのだろうか。だが、私がこの「ジェイソン・ボーン」を鑑賞した際には、そこそこ人が入っており、やはり私と同じように「そんなはずはない」と呟きながら劇場に急いだ人たちもそれなりにいたということだと思う。

さて、「ボーン・アイデンティティ」(2002)に始まるこのシリーズ、「ボーン・スプレマシー」(2004)、「ボーン・アルティメイタム」(2007)の3作に加え、監督・主演は異なるものの、同時進行する物語として「ボーン・レガシー」(2012)がある。私は最初の3作は見ているが、正直なところ、作品と作品の間に時間が空きすぎたきらいがあり、主人公ボーンが過去の記憶を失い苦悩する場面はもちろん覚えているものの、なんとか計画という固有名詞までは覚えておらず、シリーズ物の場合はそのような点がどうしてもネックになるケースがある。現代人はなかなか忙しく、実に多くのログインIDやパスワード(しかも業務に関係するものはそれを定期的に変えて行く)を、いちいち覚えていなくてはならない。それに加えて加齢という不可避の要因もあり、15年近くに亘って続く映画のシリーズの内容詳細までは、どうしても覚えていられないのが厳粛な事実である(笑)。なので、映画の冒頭に出てきてかなり暴れまくるニッキー・パーソンズという女性(演じるのはジュリア・スタイルズ)が、やけにボーンとなれなれしいと思ったら、後で調べてみて過去3作すべてに出演しているキャラクターであったと判明。でも本当に覚えていませんでした!!
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この映画のある意味で潔いところは、過去のシリーズを冒頭でおさらいするという気遣いのない点であるとも言える。こういう時代だから、過去の作品について調べ、必要あれば作品本編を鑑賞することも極めて簡単なことだ。でも、やはり作り手としては、過去のシリーズがどうであれ、この作品で勝負しようという思いは当然あるであろうから、ここはひとつこちらも、この作品だけをじっくり見てみようではないか。

というわけで、私の期待は、今回初登場するキャラクター、CIAのサイバー部門を束ねる若きエージェント、ヘザー・リーに集まるのである。
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この女優は誰だろう。実は、私もこのブログにおいて「コードネーム U.N.C.L.E.」や「エクス・マキナ」の演技を絶賛したスウェーデン出身のアリシア・ヴィキャンデルだ。私は見ていないが(そして今度も多分見ないだろうが)、「リリーのすべて」でオスカーの助演女優賞を獲得した実績を持つ。
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だが、正直なところここでの彼女は、役柄上、溌剌としたところを出すシーンがなく、本来の持ち味が出ていない上、カッコいい女性エージェントで新境地を開いているようにも思われない。クールでありながら実はハートがあり、でもそれも本当のところは出世欲によるものかもしれない、という複雑な役柄であるが、笑顔を見せるシーンは一度もない。映画全体にセットされたハードボイルドなトーンにおいてはそうなるのかもしれないが、もし複雑な役柄を表現したかったら、監督のポール・グリーングラスは、彼女を一度くらい笑わせてみてはいかがだったろうか。

その点、彼女の上司を演じるトミー・リー・ジョーンズはさすがである。この人独特の人間味と、社会の中で責任を全うしようとするがゆえの冷酷性をよく表現していて、見事。
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それから、敵役のスナイパーを演じるのは、フランスを代表する名優、ヴァンサン・カッセル。
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フランス人の英語は通常、大変な癖があるので、ハリウッド映画では「フランス人」としての役を演じる場合が多いが、この映画の場合は国籍はあまり関係なく、心なしか彼の英語も、以前より上達したように聞こえる(笑)。まあ、スナイパーだから、ベラベラ喋りまくるという設定にはなってはいないのですがね。ここでの彼の演技は、狂人的な要素はそれほどなく、主人公が迎え撃つ最強の敵という圧倒的な存在、ということでもない。だがもちろん、ヴァンサンの演技はなかなか渋くてリアリティがあることは確か。

そんな役者陣の中で、相変わらず役のイメージをクリアに伝える演技をするのが、主役のマット・デイモンだ。彼も既に46歳。このシリーズの最初の頃よりは、この役を演じるための肉体的ハードルは上がっているのは確実だろう。実際インタビューの中で、久しぶりのボーン役について、お気に入りのキャラクターだから役作りは苦にはならないが、自分の年齢で鍛え上げた肉体を作るのは大変なことだったと白状している。だが、このようなシーンにおいて、肉体美そのものというよりは、全身から発する「気」のようなものでその人物の強さを表現できる俳優は、そうそういないと思う。
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そしてこの映画、銃撃戦にカーチェイス、それに肉弾戦と、ある意味ではお定まりのアクション映画の要素が一通り詰め込まれているのであるが、ひとつ新味があるとすると、ITを駆使して、ハッキングがどこで行われているか、目指す相手がどこに潜んでいてどこに向かっているか、そういったことが遠くのオペレーションルームからすべて手に取るように分かるということだ。これをされてしまうと、逃走する主人公たちが絶体絶命の状態にあると感じることができて、その点では効果的であったといえる。だが、振り返って考えてみるとこの映画、かなり地味な内容なのである。CIAのなんとか計画がどんなものであれ、そこで明かされる謎に驚天動地ということにはならないし、善悪が大きく逆転することもなく、「ああ、こういう組織ならそういうこともありそうだね」くらいであると言ってもよいだろう。そして、CGを使いまくる昨今の映画における敵役が、クライマックスでど派手な最期を用意されているのに対し、その点もこの映画は古典的かつ、本当に決着がついたか否かすらも判然としないくらい、あっさりしている。そういった要素を考えると、あまりヒットしない理由も分かるような気がしてくるのだ。

ただ、この時代になってくると、誰のために戦うのか、世界をどう変えられるのか、悪に立ち向かうにはいかなる決断が必要なのか・・・そういった事柄について、大勢で同じ価値観を共感できるような楽天性は、もう描けないのかもしれない。そういえば、上で触れたアリシア・ヴィキャンデル以外でも、ここに出ている俳優には、おしなべて笑顔がない。上のポスターによると「新章始動」とあるので、ここからまたジェイソン・ボーンの新たな戦いのシリーズが始まるのであろう。しょうがない、このボーンの真剣な表情に免じて、その戦いにお伴するとしよう。でも、またあまり間を空けての制作になると、今回の内容を忘れてしまいます!!早く次を撮って欲しい。
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by yokohama7474 | 2016-11-17 00:41 | 映画 | Comments(0)