2016年 11月 21日
ザルツブルク・イースター音楽祭 in Japan ワーグナー : 楽劇「ラインの黄金」(クリスティアン・ティーレマン指揮 シュターツカペレ・ドレスデン) 2016年11月20日 サントリーホール
上のチラシでも明らかな通り、この催しは、サントリーホール開館30周年を記念して行われる行事の一環として、ザルツブルク・イースター音楽祭の引っ越し公演として行われたもの。ここでご存知ない方のために簡単に説明すると、ザルツブルクは言うまでもなくオーストリアの避暑地で、モーツァルトの生地として知られるが、ここでは夏に世界最高の音楽祭が開かれることでも有名なのである。だが、夏の音楽祭以外でもここで行われている音楽祭があって、それがイースター(復活祭)音楽祭なのである。ハロウィンがすっかり定着した日本でも、さすがにイースターは宗教色が強すぎるのか、未だにポピュラーではない。だがヨーロッパの人々にとっては大変に重要な祭事なのである。それはつまり、キリストの復活を祝って春分の日前後に行われる宗教行事であり、ヨーロッパの重要な祝日だ。その期間に開かれるのがこのザルツブルク・イースター音楽祭。この音楽祭を私財を投げ打って1967年前に創設したのは、ひとりの指揮者である。
今回演奏された「ラインの黄金」は、言うまでもなく、このブログで何度も言及して来ているワーグナー畢生の超大作、楽劇「ニーベルングの指環」4部作の最初の作品で、序夜と名付けられている。ワーグナーの楽劇としては異例に演奏時間が短いが(笑)、なにせ幕間なしに一挙に演奏されるので、聴きごたえは充分だ。今回の上演はホールオペラと銘打たれていて、会場であるサントリーホールのある種の名物(?)で、プログラムの解説では、この言葉に®マークがついているので、登録商標になっているのであろう。往年の名テノール歌手、ジュゼッペ・サバティーニが率いていたものだが、最近はあまりその名を聞かなくなっている。上のチラシには「復活」とあるので、久しぶりのホールオペラ上演なのであろうか。ところで今回ザルツブルク・イースター音楽祭の引っ越し公演ということで、この「ラインの黄金」以外にも充実したラインナップになっている。特に、カラヤンの娘で女優のイザベル・カラヤンの一人芝居など面白そうだが、私は鑑賞することができなかった。
そして、ティーレマンの指揮をいかに形容しようか。上述の通りそっけないシンプルな指揮ぶりでありながら、低音から高音、強い音から弱い音、速いペースから遅いペースまで、まさに自由自在。このシュターツカペレ・ドレスデンは、古い歴史に裏打ちされた渋い音がもともとの持ち味で、相性のよいコンビであったブロムシュテットや、あるいは独特の鋭さを伴ったシノーポリ、また、ティーレマンの前任者であるルイージらが指揮したときには、やはり洗練された美麗な音が根底にあったと思う。だが今回のワーグナー演奏では、美しいニュアンスはもちろんのこと、時として乱暴とも思われるような、地の底から湧き出るような力強い音も随所で聴かれ、いやまさにこれは尋常ではないレヴェルの演奏であったのだ。ティーレマンの音のパレットの豊かさは以前から認識しているものの、ワーグナーでこれだけのうねりを聴かされると、もう降参だ(笑)。その神々しい手腕。
このティーレマンとシュターツカペレ・ドレスデンは、この後東京で2回の演奏会を開く。私はそのうちの1回を聴きに行く予定であるが、相当心して聴く必要あるなと、今から緊張ぎみである(笑)。一方、日本においては来年もワーグナー演奏が盛んであり、この「ラインの黄金」に限っても、びわ湖ホールが新たに始める「指環」ツィクルスの第1弾として上演するし、また、日本フィルの新音楽監督であるピエタリ・インキネンが演奏会形式で採り上げる。今回のような高次元のワーグナーを聴いて耳が肥えている聴衆に対して、日本勢としても一石を投じる演奏になって欲しいものである。