平安の秘仏 滋賀・櫟野寺の大観音とみほとけたち 東京国立博物館

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前項では東京国立博物館(通称「東博」)で開催中の禅についての大展覧会をご紹介したが、実はもうひとつ、是非お薦めしたい展覧会が同じ東博で開催中であるので、そちらもご紹介しよう。上記ポスターにある通り、会期は12月11日までだから、こちらの方がまだ少し時間があるので、あまり焦りはないが(笑)。

ここで展覧されているのは、滋賀県にある櫟野寺(らくやじ)のご本尊十一面観音座像と、同寺の所蔵する他の重要文化財の仏像、合計20体である。展覧会場はごく狭いところではあるが、ひとつの寺からこのようにまとめて仏像がやって来て展示されるというのはかなり珍しいと思う。会場の東博本館には、このようなのぼりが掲げられていて、ワクワクする。
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櫟野寺は、びわ湖の南側、忍者で有名な甲賀市にある古刹である。792年に最澄が延暦寺の建立に必要な材木を求めて櫟野(いちの)の里を訪れ、櫟(いちい)の霊木に仏像を刻んだのが始まりと言われる。この寺には、平安時代の仏像が大小20体現存し、すべて重要文化財に指定されているのだ。私はこれまで2回、この寺を訪れている。最初はまだ高校生だったかと思う。そして2回目はつい最近、去年である。この展覧会に「平安の秘仏」とある。秘仏になっているのは本尊十一面観音であるが、私が若い頃は確か、いつでも見ることができたように記憶している。今では、正月三が日と夏の1日、そして春と秋の数日ずつしか開扉されないようである。ところが現在、本堂と宝物館の改修のため、このような東京でのまとめての展示が可能になったということらしい。仏像ファンにとっては、所蔵する古寺を実際に訪れてそこで拝観するのが常道であるものの、今回のような展覧会には特別な価値がある。それは、ライティングであったり配置であったりという洗練された展示方法によるものであり、特に今回の場合、厨子から出ないと絶対に見ることのできない本尊の背中側を見ることができることは、興味尽きない体験だ。それでは、まずはその本尊をご覧頂こう。
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写真でも充分伝わると思うが、大変迫力ある仏さまである。像高312cm、台座から光背までを含めると実に5mを超える巨像である。観音像は通常立っている(立像=りゅうぞうという)ことが多く、それは庶民を救う役目を追う観音様は、すぐに動いて庶民救済を行う必要あるからだ。このような座像はそれだけで珍しいが、これだけの巨像の造立によって何か強い力を表したいという意向があったのかもしれない。いわゆる丈六仏(立った高さが1丈6尺=4.8m)のサイズである。お顔のアップと、頭上の背面にあって通常は見ることのできない暴悪大笑面のアップによって、その迫力を感じて頂きたい。
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会場入ってすぐ右には、毘沙門天像がある。あの征夷大将軍、坂上田村麻呂(自身が伝説化され、北方の守護神である毘沙門天にたとえられるようになった人物)の発願によるものとの言い伝えがあるらしい。いかにも平安時代の古風で動きのない造形だが、ずっしりした体躯が逞しい。
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会場奥に並ぶのは、薬師如来坐像と地蔵菩薩坐像。
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観音菩薩立像。この下膨れの顔や太い鼻、厚い唇は、本尊の造形を受け継いでいると見られている。明らかにこの櫟野の地での造形パターンということだ。
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地蔵菩薩と吉祥天。やはり存在感ある造形だ。
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興味深いのはこの観音菩薩像。表面に鑿のあとが残る、いわゆる「鉈彫り」と呼ばれる手法である。以前は東国の武士好みの造形と言われたものだが、これは近畿での、しかも武士政権が確立する以前の制作であるので、何か別の解釈が必要であろう。もちろん、未完成という説もあるらしいが、顔や胸はきれいに仕上がっているので、この鑿あとは作為的に残しているという説の方が有力であるらしい。霊木から姿が浮き上がってくるところという神秘的な説もあるようだ。黙して語らぬ菩薩像。
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その他観音像の一部の写真を以下に掲げる。
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破損しているものも多いが、千年近い時を超えて、このように多くの仏像が残っていること自体、なんとも素晴らしいことではないか。東京にいながらこれらの仏像にまとめてお目にかかれるこの機会、是非多くの人々に有効活用して頂きたい。

by yokohama7474 | 2016-11-23 23:38 | 美術・旅行 | Comments(0)