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伶楽舎 雅楽公演 武満徹 : 秋庭歌一具ほか 舞 : 勅使川原三郎ほか 2016年11月30日 東京オペラシティコンサートホール

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今年は日本を代表する作曲家、武満徹(たけみつ とおる)の没後20周年。このブログでもいくつかの記事で、彼の作品が演奏される機会をご紹介して来た。だがこれは一味違ったコンサートなのである。オーケストラでもピアノやヴァイオリンでも、はたまた合唱でもない武満作品の演奏。雅楽によるものだ。雅楽とは、1000年以上の歴史を持つ日本の宮廷音楽で、ユネスコの世界無形文化遺産にも登録されている。宮内庁のホームページの説明から一部を引用する。

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5世紀頃から古代アジア大陸諸国の音楽と舞が仏教文化の渡来と前後して中国や朝鮮半島から日本に伝わってきました。雅楽は、これらが融合してできた芸術で、ほぼ10世紀に完成し、皇室の保護の下に伝承されて来たものです。その和声と音組織は、高度な芸術的構成をなし、現代音楽の創造・進展に対して直接間接に寄与するばかりでなく、雅楽それ自体としても世界的芸術として発展する要素を多く含んでいます。
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そうなのだ。西洋音楽とは全く異なる雅楽には、現代音楽の創造・進展に寄与する要素があるわけである。武満の創作活動の中には西洋と東洋の葛藤が時に見られるが、安易な東西融合ではなく、高度な次元での融和であったり、ある場合には西洋楽器と和楽器の対決の様相を呈する。そんな彼が雅楽のために書いたオリジナル音楽は「秋庭歌一具(しゅうていがいちぐ)」だけである。今回の演奏会は、雅楽の演奏団体である伶楽舎が演奏を担当するが、この団体は、もともと宮内庁に在籍していた芝 祐靖(しば すけやす)が1985年に設立した団体だが、古典だけでなく現代曲も頻繁に演奏している。この芝さん、随分以前にNHK開局何十周年とかで教育テレビ(今のEテレ)で武満徹を含む何人かの文化人と話しているのを見て、やっていることは過激だが、なんとも品のよい人だな(笑)と思ったものだが、80を超えても現役で活躍されているとは何よりだ。今回のコンサートのプログラムによると、この団体は過去に既にこの武満の「秋庭歌一具」を24回演奏しており、国内だけではなく、ヨーロッパではグラスゴー、ロンドン、バーミンガム、ケンブリッジ、ケルン、ベルリン、オスロ、アムステルダムで、米国ではシアトル、タングルウッド、ニューヨーク、ロサンゼルスで演奏している。既に重要なレパートリーになっているのだ。

これが伶楽舎の通常の雅楽公演。もちろん一ヶ所に集まって演奏する。
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そしてこれが、2005年にサントリーホールでこの「秋庭歌一具」が演奏されたときの様子。秋庭というメインのグループと、木魂1、2、3というグループに分かれて演奏する。
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私にとってもこの曲は、録音では随分以前に親しんだが、実演では初めて聴く曲。私が聴いていたレコードは、この曲を初演した東京楽所(とうきょうがくそ)による1980年の録音。手元にある小学館の武満徹全集に入っているのもこの録音で、私は今回、そのCDを聴いて予習して行った。こんなジャケットでした。懐かしい。
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また、今回の会場である東京オペラシティコンサートホールは、正式名称はその後に「タケミツメモリアル」とつく。ロビーにはこのようなプレートが掲げられている。今回初めて知ったことには、宇佐美圭司の手になるものだ。確かに言われてみればなるほど納得だ。そういえば、宇佐美は武満の著作の装丁も手掛けていた。
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それから、会場には作曲家の池辺晋一郎がいて、休憩時間に女性二人組に挨拶していたが、あれは武満夫人である浅香さんと娘の眞樹さんではなかったか。上から遠目に見ただけなので、違っていたらすみません。

実は今回の演奏には、もうひとつの目玉がある。それは、冒頭に掲げたポスターにもある通り、この人の舞である。
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日本を代表する舞踏家である勅使川原 三郎(てしがわら さぶろう)。彼の振りつけのもと、最近では常にデュオを組んでいる佐東 利穂子も共に踊るのである。私が以前からいかに彼を尊敬して来たかは、今年1月23日の記事に書いているが、この記事は、せっかく頑張って書いたのに、アクセスが非常に少なくて私は落胆しているのです(笑)。是非読んで下さい!!リンクは以下の通り。
http://culturemk.exblog.jp/24073769/

そんなわけで、役者は揃った。一体いかなる上演になったのか。その前にもうひとつ寄り道すると、私は今回のコンサートに行けるか否かは直前まで分からなかったのでチケットは買っておらず、どうせ売れ残っているだろうと甘く見ていると、前売り券は完売。ただ、当日80枚ほど追加席が売り出されるというので、それを購入した。価格はたったの2,000円!!その代わり、「ステージの1/3が見えません」との注意事項付だ。構うものか、この貴重な公演に立ち会えるなら。

実は武満作品の前に、芝 祐靖の復元・構成による「露台乱舞(ろだいらんぶ)」という曲が演奏された。これは平安時代から室町時代にかけての宮中での酒宴と歌舞を再現したもの。優雅でいて実はユーモアもあり、当時から人々は酒を飲むのが好きだったのだなと分かるような曲だ(笑)。雅楽特有の立ち昇るような音が美しく、実に聴き惚れるばかり。中でも、雅楽の中で最も知られた越天楽(えてんらく)が3回繰り返される箇所では、徐々に奏者が減っていって、最も活躍する篳篥(ひちりき)奏者も最後は旋律の途中を吹かなくなるという演出で、聴衆は頭の中で旋律を思い描くことでイマジネーションが刺激された。雅楽は面白いではないか。

そして武満作品であるが、上記の写真の通り、奏者がいくつかのグループに分かれるのであるが、今回の演奏では2階のステージ奥(オルガン前)と左右の席での演奏となり、ステージ上は、メイングループが演奏する緑の敷物を囲むようにコの字型 (ステージ手前が空いている向きで)の廊下状の壇が設けられ、そこで勅使川原と佐東がパフォーマンスを披露した。
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演奏は実に素晴らしく、伝統的な雅楽を聴いた後だけに、武満の音の作りの斬新さに唸る場面が多々あった。太古の昔から響いてくる先祖の声のようでもあり、空気中を漂う精霊の羽音のようでもあり、ただゆらゆらとうごめく植物の動きのようでもあり、詩的な雰囲気に満ちている。一方でダンサーの二人は、6楽章からなるこの曲の楽章間でも同じように踊り続けており、全体を通して動きの変化に乏しかったのは致し方ないが、まるで全身で空間に彫刻を刻んで行くようなダンスに、非凡なものは当然あった。ただ私は若い頃の勅使川原の、自分の体をナイフのように地面に叩きつけるような激しいダンスの合間に、ふっと緊張感を持って佇む姿が好きだったので、今回のパフォーマンスでは終始ゆったりした動きであった点、やや残念な思いを持ったことは事実。そもそもこの曲に舞が必要かとも思ったりしたが、初演の際にも女性二人の舞が舞われたとのことで、作曲者自身も、しばしば舞を伴う雅楽の伝統には敬意を払っていたということだろうか。

このような意欲的な試みも東京では多く行われているので、これからも極力アンテナを高くして、才能のぶつかりあいを目撃して行きたいと思う。

by yokohama7474 | 2016-12-01 00:53 | 音楽 (Live)