2016年 12月 01日
伶楽舎 雅楽公演 武満徹 : 秋庭歌一具ほか 舞 : 勅使川原三郎ほか 2016年11月30日 東京オペラシティコンサートホール
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5世紀頃から古代アジア大陸諸国の音楽と舞が仏教文化の渡来と前後して中国や朝鮮半島から日本に伝わってきました。雅楽は、これらが融合してできた芸術で、ほぼ10世紀に完成し、皇室の保護の下に伝承されて来たものです。その和声と音組織は、高度な芸術的構成をなし、現代音楽の創造・進展に対して直接間接に寄与するばかりでなく、雅楽それ自体としても世界的芸術として発展する要素を多く含んでいます。
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そうなのだ。西洋音楽とは全く異なる雅楽には、現代音楽の創造・進展に寄与する要素があるわけである。武満の創作活動の中には西洋と東洋の葛藤が時に見られるが、安易な東西融合ではなく、高度な次元での融和であったり、ある場合には西洋楽器と和楽器の対決の様相を呈する。そんな彼が雅楽のために書いたオリジナル音楽は「秋庭歌一具(しゅうていがいちぐ)」だけである。今回の演奏会は、雅楽の演奏団体である伶楽舎が演奏を担当するが、この団体は、もともと宮内庁に在籍していた芝 祐靖(しば すけやす)が1985年に設立した団体だが、古典だけでなく現代曲も頻繁に演奏している。この芝さん、随分以前にNHK開局何十周年とかで教育テレビ(今のEテレ)で武満徹を含む何人かの文化人と話しているのを見て、やっていることは過激だが、なんとも品のよい人だな(笑)と思ったものだが、80を超えても現役で活躍されているとは何よりだ。今回のコンサートのプログラムによると、この団体は過去に既にこの武満の「秋庭歌一具」を24回演奏しており、国内だけではなく、ヨーロッパではグラスゴー、ロンドン、バーミンガム、ケンブリッジ、ケルン、ベルリン、オスロ、アムステルダムで、米国ではシアトル、タングルウッド、ニューヨーク、ロサンゼルスで演奏している。既に重要なレパートリーになっているのだ。
これが伶楽舎の通常の雅楽公演。もちろん一ヶ所に集まって演奏する。
実は今回の演奏には、もうひとつの目玉がある。それは、冒頭に掲げたポスターにもある通り、この人の舞である。
http://culturemk.exblog.jp/24073769/
そんなわけで、役者は揃った。一体いかなる上演になったのか。その前にもうひとつ寄り道すると、私は今回のコンサートに行けるか否かは直前まで分からなかったのでチケットは買っておらず、どうせ売れ残っているだろうと甘く見ていると、前売り券は完売。ただ、当日80枚ほど追加席が売り出されるというので、それを購入した。価格はたったの2,000円!!その代わり、「ステージの1/3が見えません」との注意事項付だ。構うものか、この貴重な公演に立ち会えるなら。
実は武満作品の前に、芝 祐靖の復元・構成による「露台乱舞(ろだいらんぶ)」という曲が演奏された。これは平安時代から室町時代にかけての宮中での酒宴と歌舞を再現したもの。優雅でいて実はユーモアもあり、当時から人々は酒を飲むのが好きだったのだなと分かるような曲だ(笑)。雅楽特有の立ち昇るような音が美しく、実に聴き惚れるばかり。中でも、雅楽の中で最も知られた越天楽(えてんらく)が3回繰り返される箇所では、徐々に奏者が減っていって、最も活躍する篳篥(ひちりき)奏者も最後は旋律の途中を吹かなくなるという演出で、聴衆は頭の中で旋律を思い描くことでイマジネーションが刺激された。雅楽は面白いではないか。
そして武満作品であるが、上記の写真の通り、奏者がいくつかのグループに分かれるのであるが、今回の演奏では2階のステージ奥(オルガン前)と左右の席での演奏となり、ステージ上は、メイングループが演奏する緑の敷物を囲むようにコの字型 (ステージ手前が空いている向きで)の廊下状の壇が設けられ、そこで勅使川原と佐東がパフォーマンスを披露した。
このような意欲的な試みも東京では多く行われているので、これからも極力アンテナを高くして、才能のぶつかりあいを目撃して行きたいと思う。