2016年 12月 17日
シャルル・デュトワ指揮 NHK交響楽団 (ヴァイオリン : ヴァディム・レーピン) 2016年12月17日 NHKホール
そして今回の曲目が面白い。これぞザ・デュトワではないか。
ブリテン : 歌劇「ピーター・グライムズ」から4つの海の間奏曲
プロコフィエフ : ヴァイオリン協奏曲第1番ニ長調作品19 (ヴァイオリン : ヴァディム・レーピン)
ラヴェル : ツィガーヌ (ヴァイオリン : 同上)
オネゲル : 交響曲第2番
ラヴェル : ラ・ヴァルス
何がどうデュトワなのかというと、彼がこのオケのシェフになる前には、歴代の数々の名指揮者が指揮をしていたものの、このデュトワほど明確なヴィジョンでこのオケを変貌させた指揮者はいないであろう。ある意味では、このオケの歴史はデュトワ前とデュトワ後に分かれると言ってもよいのではないか。
そして、ヴァイオリン独奏を必要とする2曲が演奏された。ここに登場したのは、半ズボンの少年時代から神童として活躍し、今や押しも押されぬ大家として君臨するロシアはシベリア生まれのヴァディム・レーピン。
そして後半にも2曲の演奏があった。まず最初は、デュトワと同じスイス人のアルトゥール・オネゲルの交響曲第2番。この曲は弦楽合奏がほぼ全曲を演奏し、最後のほんの数分だけ独奏トランペットが入るというユニークなもの。第二次世界大戦中に書かれており、ほぼ全曲が低音を中心とした陰鬱な雰囲気であるが、最後の最後、第1ヴァイオリンと同じ高音の旋律をトランペットが奏でることで、救いの光が差してきたように感じるのだ。この曲はフランスの巨匠シャルル・ミュンシュが得意にしていたもので、スタジオ録音もあればライヴ録音もある。いかにも熱狂の指揮者ミュンシュにふさわしいレパートリーであるが、東京で生演奏を聴く機会は多くない。今私がすぐに思い出せるのは、小澤征爾が桐朋学園のオケを振った演奏だ。今調べてみると、それは1987年のこと。既に30年ほど前であるが、その演奏における当時の小澤特有の鼻息すら、昨日のことのように思い出すことができる。学生オケであっても全く手を抜かない小澤の情熱がひしひしと伝わってくる名演であった。最後にトランペットが出て来て、あたかもスキーが急停止するように終結するこの曲は、私の大好きな曲であり、CDであれば、今日の指揮者デュトワがバイエルン放送響を指揮したオネゲル全集が愛聴盤なのである。そして今回の演奏も、N響の弦楽器群がただならぬ音を発していて素晴らしい。演奏後のデュトワは弦の各セクションと堅い握手を交わしていて、会心の出来であったことを思わせた。極東の日本でこのような演奏が繰り広げられていることを、草葉の陰のオネゲルはどう聴くだろうか。
終演後のデュトワはここでも上機嫌であったが、彼に花束が贈呈された。これは、N響の定期演奏会としては今年最後のものであり、「カルメン」全曲の演奏会形式での上演を含む3つの多彩なプログラムを振りぬいた今年80歳(!!)のデュトワに対する感謝の念の表れであったろう。そして、花束を持ってきた女性団員に対して、いわゆるフレンチ・キスというのであろうか、両頬にチュッとするキスを強要し、せちがらいセクハラをあざ笑うかのような演奏会の締めくくりであった。それにしても、デュトワも既に80歳とは全く信じがたい。これからも毎年12月に洒脱な音楽を聴かせてほしいものだ。
コンサートの終了は17時頃であったが、NHKホールの外は既に薄暮。おっと、このような青いイルミネーションが、代々木公園を彩っている。もうすぐ年の瀬。今年も最後まで無事に済ませることができますように。