シャルル・デュトワ指揮 NHK交響楽団 (ヴァイオリン : ヴァディム・レーピン) 2016年12月17日 NHKホール

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この数年、12月にNHK交響楽団(通称「N響」)の定期演奏会の指揮台に立つのは、スイスの名指揮者、シャルル・デュトワ。日本を代表するこのオケの以前の音楽監督であり、現在では名誉音楽監督なのである。12月も半ばに入り、早いもので残すところあとわずかに二週間。東京のオーケストラのすべてがベートーヴェンの交響曲第9番、通称「第九」に奔走する前の最後の時期のコンサートなのである。

そして今回の曲目が面白い。これぞザ・デュトワではないか。
 ブリテン : 歌劇「ピーター・グライムズ」から4つの海の間奏曲
 プロコフィエフ : ヴァイオリン協奏曲第1番ニ長調作品19 (ヴァイオリン : ヴァディム・レーピン)
 ラヴェル : ツィガーヌ (ヴァイオリン : 同上)
 オネゲル : 交響曲第2番
 ラヴェル : ラ・ヴァルス

何がどうデュトワなのかというと、彼がこのオケのシェフになる前には、歴代の数々の名指揮者が指揮をしていたものの、このデュトワほど明確なヴィジョンでこのオケを変貌させた指揮者はいないであろう。ある意味では、このオケの歴史はデュトワ前とデュトワ後に分かれると言ってもよいのではないか。
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そのデュトワの中心的レパートリーは、フランスとロシアの音楽。今回の演奏会では、最初の曲こそ英国のブリテンによるものだが、その他はすべてフランスかロシアの作品なのである。しかも5曲も演奏してくれるとは、さすがサービス精神旺盛なデュトワらしい。その期待は、最初のブリテンの曲の冒頭に出てくる高音の弦楽器によって早くも満たされたのである。デュトワの指揮ぶりは相変わらず大変洗練されていて、滑空するがごとくスムーズなのだ。木管楽器の活躍も、さすがN響である。

そして、ヴァイオリン独奏を必要とする2曲が演奏された。ここに登場したのは、半ズボンの少年時代から神童として活躍し、今や押しも押されぬ大家として君臨するロシアはシベリア生まれのヴァディム・レーピン。
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時あたかも、プーチン大統領の来日中。まさかあの半ズボンをはいていたレーピンがロシアの国家的な活動に従事しているとも思えないが(笑)、まあ彼の実績を思えばそんなことがあっても不思議ではないとすら思われるのである。今回も2曲でソロを披露した。最初のプロコフィエフの1番のコンチェルトは、同じロシア人ヴァイオリニスト、ザハール・ブロン門下の庄司紗矢香も得意にするレパートリーである。ヴァイオリンの豊かな歌を味わうというよりは、その夢幻的かつモダンな感性を楽しむべき曲。今回のレーピンは、遊び心すら感じさせる余裕の演奏で、この曲の性格に見事な光を当ててみせた。ただ、時折音程がオットットという感じであったのは、果たして意図したものであったのだろうか。そしてもう1曲、彼が弾いたのはラヴェルのツィガーヌだ。この題名は、いわゆるジプシー、最近の用語でいうとロマのこと。10分ほどの短い曲であるが、前半はヴァイオリンの独奏で、後半には色鮮やかなオーケストラの伴奏がつく。レーピンの音はここでも若干ガサガサしたものを感じさせたが、この場合も曲の性格に即したものであったと思う。このレーピン、既に半ズボンははいておらず、端倪すべからざる音楽家なのである。尚この2曲は近い時期にパリで初演されている。プロコフィエフの作品は1923年、ラヴェルの作品は1924年。私が生涯を賭けて研究したいRolling Twentiesの雰囲気満点だ。

そして後半にも2曲の演奏があった。まず最初は、デュトワと同じスイス人のアルトゥール・オネゲルの交響曲第2番。この曲は弦楽合奏がほぼ全曲を演奏し、最後のほんの数分だけ独奏トランペットが入るというユニークなもの。第二次世界大戦中に書かれており、ほぼ全曲が低音を中心とした陰鬱な雰囲気であるが、最後の最後、第1ヴァイオリンと同じ高音の旋律をトランペットが奏でることで、救いの光が差してきたように感じるのだ。この曲はフランスの巨匠シャルル・ミュンシュが得意にしていたもので、スタジオ録音もあればライヴ録音もある。いかにも熱狂の指揮者ミュンシュにふさわしいレパートリーであるが、東京で生演奏を聴く機会は多くない。今私がすぐに思い出せるのは、小澤征爾が桐朋学園のオケを振った演奏だ。今調べてみると、それは1987年のこと。既に30年ほど前であるが、その演奏における当時の小澤特有の鼻息すら、昨日のことのように思い出すことができる。学生オケであっても全く手を抜かない小澤の情熱がひしひしと伝わってくる名演であった。最後にトランペットが出て来て、あたかもスキーが急停止するように終結するこの曲は、私の大好きな曲であり、CDであれば、今日の指揮者デュトワがバイエルン放送響を指揮したオネゲル全集が愛聴盤なのである。そして今回の演奏も、N響の弦楽器群がただならぬ音を発していて素晴らしい。演奏後のデュトワは弦の各セクションと堅い握手を交わしていて、会心の出来であったことを思わせた。極東の日本でこのような演奏が繰り広げられていることを、草葉の陰のオネゲルはどう聴くだろうか。
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そして最後の曲目、シュトワの十八番、ラヴェルのラ・ヴァルスである。この指揮者は通常どんな曲でも譜面を見ながらの指揮かと思いきや、この曲は暗譜での指揮。なるほど、名刺代わりの一発ということか(笑)。オネゲルの2番と続けて聴くと、どちらも冒頭は低音で共通しているものの、こちらの曲ではすぐに明るい曲調になる点、作曲家のテンペラメントの違いを実感する。この曲は極めてユニークで、ウィンナ・ワルツへのオマージュでありながら、同時にパロディになっていて、ラヴェルならではの機知と策略に富んだ曲。悔しいが、その機知と策略にまんまとはめられるのも、音楽好きの特権と言えようか(笑)。但し今回の演奏、フルートだけは課題が残ったと思うが、いかがであろうか。

終演後のデュトワはここでも上機嫌であったが、彼に花束が贈呈された。これは、N響の定期演奏会としては今年最後のものであり、「カルメン」全曲の演奏会形式での上演を含む3つの多彩なプログラムを振りぬいた今年80歳(!!)のデュトワに対する感謝の念の表れであったろう。そして、花束を持ってきた女性団員に対して、いわゆるフレンチ・キスというのであろうか、両頬にチュッとするキスを強要し、せちがらいセクハラをあざ笑うかのような演奏会の締めくくりであった。それにしても、デュトワも既に80歳とは全く信じがたい。これからも毎年12月に洒脱な音楽を聴かせてほしいものだ。

コンサートの終了は17時頃であったが、NHKホールの外は既に薄暮。おっと、このような青いイルミネーションが、代々木公園を彩っている。もうすぐ年の瀬。今年も最後まで無事に済ませることができますように。
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by yokohama7474 | 2016-12-17 23:22 | 音楽 (Live) | Comments(0)