この映画の予告編を見て、これは見るべきものという内なる声を聞いた。それは、テレンス・マリックの脚本監督、クリスチャン・ベイル主演、ケイト・ブランシェットとナタリー・ポートマン共演という名前の羅列でも充分であるが、気になったのはその題名だ。「聖杯たちの騎士」・・・なんだかあまり語呂がよくない。それを言うなら、「聖杯の騎士たち」ではないのか。もちろんこれは、音楽好きならワーグナーの最後の作品、舞台神聖祝典劇と名付けられた「パルシファル」を思い浮かべる言葉であり、そうでない人も、アーサー王伝説やモンティ・パイソンによるそのパロディ映画、あるいは小説や映画の「ダ・ヴィンチ・コード」などが頭に浮かぶことであろう。原題を見てみると、"Knight of Cups"とある。Cupとはまた、なんとも普通の英語である(笑)。確かにゴルフなら、○○カップのことは○○杯というので、"Cup"が「杯」であることは間違いないが、「聖」の字はどこに行った?「聖杯」を指すのなら、まさにモンティ・パイソンの映画の題名にあるごとく、"Holy Grail"というべきではないのか。それから、百歩譲って"Cup"を「聖杯」と訳すとしても、その複数形"Cups"を「聖杯たち」と訳すのはどういうことだろう。「たち」がつくのは普通は人である。なので、「聖杯の騎士たち」とは言うが、「聖杯たちの騎士」とは、日本語では言わないだろう。・・・予告編で流れる美しい映像を見ながらも私は、まずは邦題へのハテナマークで頭の中が一杯になってしまったのである。
テレンス・マリックはこの作品の後、"Voyage of Time"という、宇宙の誕生と死を追求するという壮大なドキュメンタリーを制作したらしいし、2017年には"Weightless"なる作品が予定されているようだ。さて、一体どのような作品「たち」なのか、大変気になるところである。やはり、無視することはできない監督なのである。