薮内佐斗司の彫刻 童々広場(府中市)、青松院(港区)、正蔵院(大田区)、武蔵野稲荷神社(練馬区)、稲毛神社、王禅寺(川崎市)、常泉寺(大和市)

藪内左斗司(やぶうち さとし)は1953年大阪生まれ。東京藝術大学大学院教授であり、また現代日本を代表する彫刻家である。自ら彫刻作品を制作するのみならず、古い仏像の数々の修復にも携わっており、最近ではその方面での興味深い著作もあれこれ出している。そんな藪内の名前が一気に知れ渡ったのは、今から6年前、2010年に平城京遷都1300年祭の際にキャラクターとして制作された「せんとくん」である。
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実は私自身も藪内の名前を知ったのは、この「キモかわいい」キャラクターによってであった。発表当時は賛否両論であったようだが、なんといってもこのキャラクターは一度見たら絶対に忘れない、何か気になる存在であったからこそ、成功したのであろう。もともとは藝大のエラい先生なのであるが、その後ご本人のマスコミへの露出度も上がり、このような写真を見ると、巷でよく言われる、このせんとくんは自らをモデルにしているのではないかという説に加担したくなる(笑)。
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彼の作品展が「やまとぢから」というタイトルで開かれたのは2013年から2014年にかけてで、全国5ヶ所での開催であったが、東京での開催がなかったこともあり、心ならずも見逃してしまった。それが悔しくて、その図録だけ書店で購入し、時折パラパラめくっては、日常の疲れを忘れて癒されているのである。
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この本にはまた、藪内が手掛けた数多くの国内外の彫刻作品が写真つきで掲載されていて誠に楽しい。そんなある日、NHK BSプレミアムで草刈正雄が出演している趣味の番組「美の壺」で鬼をテーマにした回があり、そこで明らかに藪内の作品と分かる屋外の彫刻が紹介されているのを見た。それは府中にあるという。なんと。その府中には近々、藤田嗣治展を見るために訪れる予定である。様々な文化芸術との出会いにおいては、このような偶然のめぐり合わせが実は大きな意味を持つことがある。その府中行きをきっかけに、何度かの機会を見つけて、首都圏にある藪内の彫刻を少し見て回ることとした。以下はごく限られた例に過ぎないが、彼の彫刻の持つなんとも言えない癒しの効果を、このブログをご覧の方々とシェアできれば本望である。では、場所別にご紹介しよう。

* 童々広場 (どうどうひろば、東京都府中市寿町1-12)
これが藪内作品を見たいと思ったきっかけの公共彫刻群。片側1車線の車道の脇にある三角形の土地に置かれている (1996年制作)。決して広場というほど広い場所ではなく、子供たちが遊ぶような場所とも思われないが、街の人たちにとってはよい憩いの場になるのはないだろうか。もともとは桜通り広場公園というらしい。
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上の表記に従ってご紹介すると、まずは「蓮の池」と、「走る童子」、それから「カエル」。
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童子とカエルのアップ。点々とつらなる彫刻群には緩やかな運動性があって、それがなんとも心地よいなごみ空間を作り出している。
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それから、「桜の童子」は2人いて、それぞれ桜の枝を支えるべき柱を抱えているのであるが、うち1人の童子の上には、桜がない。すぐ下の写真の奥に見える彫刻だが、ちょうどその奥の桜の枝がかぶっているように錯覚するが、実は柱の真上には何もないのだ。制作後に枝が枯れてしまったという事情だろうか。だが、それでも怠けずに役目を果たそうとする童子の健気さがよいではないか(笑)。
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これが手前の桜の童子。しっかりお役目を果たしている。
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これが奥の桜の童子。おっと、柱の上には枝がない。驚いて見上げているのだろうか。もう1本の柱の童子と同じ顔にも見えるが(笑)。
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それから、ちょっと見つけにくいのは、「こぼすなさま」である。だがここに掲載した写真の位置関係から、設置場所は自ずと明らかだろう。現地に行かれる方は探してみて頂きたい。ちなみにこのこぼすなさま、ほかの場所でも同名の彫刻を見かけたのであとでご紹介するが、ここでは、ゴミ捨て場を見張っておられるらしい。
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* 青松寺 (せいしょうじ、東京都港区愛宕2-4-7)
次にご紹介するのは、都心でまとまった数の藪内彫刻を見ようとすると最適の場所である。愛宕(あたご)にある青松寺。私も以前から都心をタクシーで移動するときになんとなく気になっている場所であったのだが、まさかこんなに面白い場所とは知らなかった。もともとこの寺は1476年、つまり江戸開幕前の室町時代に、太田道灌によって麹町に開創された。その後家康によって現在地に移築され、江戸時代は禅宗の一派である曹洞宗の一大道場であったらしい。現在では愛宕グリーンヒルズのMORIタワーとフォレストタワーが左右に立っていて、なかなかに鮮やかなコントラストをなしている。
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この寺は近年伽藍を一新して、その際に藪内に様々な彫刻が依頼された。早速この門の左右に、大作四天王像(2004年制作)を見ることができる。天気のよい朝の撮影で、ガラスの反射によって見にくくなってしまっている。その威容が伝わればよいのだが。
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仏像好きなら誰もがすぐに分かる通り、これは東大寺戒壇堂(私の世代なら「戒壇院」の呼称の方になじみがあるが)の四天王像をモデルにしている。順番に、持国天(東方守護)、増長天(南方守護)、広目天(西方守護)、多聞天(北方守護)。それぞれの足元に踏まれた邪鬼もユニークだが、特に持国天の邪鬼は、顔をまともに踏まれていて悲惨である(笑)。
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そして境内に入って右側には、4匹の像に乗った楽し気な童子たちに囲まれた誕生釈迦仏が。天上天下唯我独尊である。
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本堂に向かって左手の堂は、獅子吼林サンガと名付けられた大きな僧堂であるが、その脇の塀にこのような龍が水しぶきを上げている。この龍、下の方から塀にからだをぶち込み、ねじれをもってまた塀の向こうからこちらに突き出しているのだ(笑)。もちろんこれも藪内の作品。いや実に楽しくて、見ていて飽きることがない。
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本堂にもお参りし、一旦門の方に戻ってくると、青空をバックにした門の鬼瓦が面白い。明記はされていないものの、これも藪内のデザインではないかと思いたくなる。いや、もしそうでなくとも、この藪内ワールドにあるだけで、充分人を和ませる雰囲気が出てくるのだ。
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さて、この寺の敷地に、見逃してはならない藪内作品群がもうひとつある。この地図の左側の真ん中あたり、智正庵とあるが、これは茶室である。そのあたりに行かなければ。
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愛宕グリーンヒルズMORIタワーの右横に、このような石段があるので、これを登って行く。そして見えてくる智正庵。
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この茶室に向かって右側の林の中(「望楼」という四阿の近く)に、藪内の手になる十二支を象った彫刻群がある。摩尼車と言って、よくチベットなどで見かける(あ、行ったことはありませんが 笑)、グルグル回すとお経を読んだのと同じご利益があるという、あれだ。確か太宰治の何かの作品においても、印象的に登場していた。ここの摩尼車は、3基ずつ4ヶ所に設置され、十二支の干支がそれぞれてっぺんに乗っていて可愛らしい。
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丑(うし)の像はせんとくんタイプで、まさに藪内の面目躍如。この青松寺、都心にありながら緑も豊かで、時折散歩したくなるような場所だ。藪内作品たちも実によく調和している。尚、ここには1994年作の十六羅漢像もあるが、非公開。以下は書物からの撮影である。
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* 正蔵院 (しょうぞういん、東京都大田区本羽田3-10-8)
ここは羽田空港からほど近い場所にあり、すぐ隣には羽田神社という神社がある。街道沿いということで古くから賑わった場所であるらしい。
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このお寺は不動明王を本尊としていて、羽田不動尊とも呼ばれているらしいが、境内の一角に海照殿と呼ばれる新しい建物がある。これは以前存在した別の寺を引き継ぐものであるらしく、見たところ、法要などを行う場所であるかに見える。
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実はこの中に、藪内が2008年に制作した美しい地蔵菩薩坐像と、かわいらしい六地蔵が安置されている。私が伺った際には建物は閉まっていて人の姿も見えなかったので、残念ながら内部の拝観は叶わなかったが、書物の写真によると、このような仏さまである。これらの藪内作品は、ここでは実際に信仰の対象となるもので、彫刻の質としては当然それにも耐えうるのだという証明になろう。
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* 武蔵野稲荷神社 (東京都練馬区栄町10-1)
これはまた少し毛色の変わった藪内作品であり、ファンならば是非見ておきたい場所だ。西武池袋線の江古田駅の近くの稲荷神社の門と拝殿の彫刻を、藪内が手掛けているのだ(2010年制作)。写真で見て、なんと立派な建物だろうと思って現地を訪ねると、神社の敷地自体はごくごく狭いものであることに驚いた。だがそのこじんまりした場所を彩る装飾の素晴らしさには、感嘆の声を上げざるを得ない。
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石の鳥居は立派だが、そこにこのような立て看板が。確かにここは名門武蔵中学・高校と武蔵大学の目の前だが、ここで名指しされているのは何やら可笑しい。そんなに武蔵の学生さんたちの通り抜けが多いのだろうか(笑)。
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そして見えてきた神社の門は、随神門と呼ばれている。都心で見る神社建築としては、なかなかに決まっている。
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そしてこの門には数々の彫刻が施されている。稲荷神社に因んでのことであろう。門の表裏に沢山の狐の彫刻が。
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なんとも可愛いのであるが、それだけではなくて、平安の昔を偲ばせるような彫刻を見ることができて楽しい。
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そして拝殿。これも立派な建物なのだが、やはり規模はさほどではない。だがここの彫刻も、見ていてなんとも楽しいのだ。まさに、ほかには存在しない藪内ワールドである。
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平成の時代においても、これだけの神社彫刻が作られるのは、やはり藪内あってのことであろう。心がなんとも温かくなる。

* 稲毛神社 (いなげじんじゃ、神奈川県川崎市川崎区宮本本町7-7)
東京の北部から一気に南下して、ここは川崎市。我が家からは多摩川を隔てた反対側であるが、この川崎にもいくつか藪内の彫刻があるのである。まずは、第一京浜沿いの稲毛神社。この神社には樹齢一千年と言われる大イチョウのご神木があり、その創建は気が遠くなるほど昔なのである。
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この神社の境内に鎮座している狛犬が藪内の作品。「天地睨みの狛犬」と題されている。もちろん左右で阿吽をなしている。
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よく見るとまぎれもない藪内の彫刻であるが、もしかすると、言われないと気づかないかもしれない。

* 王禅寺 (神奈川県川崎市麻生区王禅寺940)
こちらは同じ川崎市と言っても随分離れている。山深い雰囲気のお寺である。
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このあたりには柿生(かきお)という地名もあるくらいで、江戸時代からの柿の名所なのである。家康以来の柿にまつわる伝承があり、江戸時代は幕府直轄の天領であったらしい。この王禅寺の境内には、白秋の詩をはじめとした柿関連の表示があれこれ。
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さて、ここにある藪内の野外彫刻は、「禅寺丸」。いかめしくもユーモラスな鬼の彫刻であるが、その右手にはしっかりと柿が握られている。
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実はこの寺には、屋外のブロンズ像以外にも藪内の木造彫刻がいくつかあるらしいが、残念ながら非公開。ここでは書物から撮影した写真を掲載する。上記のブロンズ像と同じ「禅寺丸」と、「稚児大師」。
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* 常泉寺 (神奈川県大和市福田2176)
ここは江戸開幕前の1588年の開創と伝わる古い寺。入り口はこのような情緒あふれる雰囲気なのである。
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そして拝観料300円を払って見ることのできるこの寺の庭には、数々の花に加え、藪内の作品とそれ以外の彫刻が、ところ狭しと並んでいる。まずはおなじみ、せんとくん。
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そしてこれが、縁結び菩薩。足元にはなぜかカエル型の童子たち。
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カエル型といえば、この寺には河童の置物も多く、これらカエルはいわばその変形であろうか。境内にある河童七福神のユニークな鳥居にも、いかにも藪内テイストのカエル童子たちが張り付いているのである。
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境内にはほかにも、花の観音もある。
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そして帰りに境内のトイレに立ち寄ると、なんとそこにも藪内彫刻が!!
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それから、おっとここにも、府中にある彫刻と同じ名前の「こぼすなさま」が。この場合はトイレの真ん前にあるのでよく分かる。そう、トイレの神様なのだ。ここではトイレ掃除用のブラシを持っておられる(笑)。
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そんなわけで、首都圏のいくつかの場所で見ることのできる藪内佐斗司の彫刻のいくつかをご紹介した。これら以外にも、マンションや会社ビル等に置かれた公共の彫刻や、寺院に安置された仏像など、様々な藪内彫刻が点在する。そのいずれもが、見る人を和ませる効果があり、これからの時代も人々から愛され続けて行くだろう。藪内先生、小型の童子像ばかりではなく、今後は是非大型の彫刻も作って頂きたい。未来永劫、都民は大切に守って行きますよ!!

by yokohama7474 | 2016-12-29 22:43 | 美術・旅行 | Comments(0)
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